更生企画 完了
二日目は驚くほどおとなしかった。
鬼ごっこのせいでアドレナリンが出まくり、捕まえた後も寝られなかったから、そんな寝不足状態で何かされたら身が持たなかっただろう。
「リタ、こわすのあきちゃった」
破壊活動よりも生産的活動のほうがいいと分かってくれたのか。リタ、賢い!
思わず頭を撫でる。髪の毛さらさらだ。
「それに、壊さなかったらお姉ちゃんがまたお菓子作ってくれるでしょー?」
「………」
人は打算で生きる生き物です。理由がどうあれ、やめてくれるならそれでいい。
何より、アネルさんの負担が減るのはいいことだ。巻き戻しの魔法は、かなりの魔力を消費するらしい。時魔法はハイリスクハイリターンだ。
……あたしも一応時魔法、持ってるんだけどね。初級らしく用途不明のやつだけど。
ちょっと使ってみたことがあるが、他の魔法に比べて魔力が多く抜けていく気がした。それでいてあまり役に立ちそうもない。高リスク低リターンだ。世の中不公平だ。
リタとの時間は、破壊活動と魔法と脱走すらなければ楽しいものだった。
無邪気な毒舌も、慣れればどうってこともない。地球にいたころは、もっと毒舌の友達がいたし。嫌われてた訳ではない。
年相応のかわいらしさを見せるリタにあたしは癒された。
しかし―――
―――そう、それは嵐の前の静けさだったと、今の自分は言うだろう。全身水浸しの今なら。
リタがおとなしかったのは、トラップを仕掛けるのに専念していたから。
二日目の様子は、油断を誘うためのものだったんだ。まんまと乗せられた。リタがいたずらの天才だと聞いたことを、すっかりと忘れていた。
「……アネルさん、着替えて来ます」
「申し訳ありません。 私も油断しておりました」
アネルさんを責めてもしょうがない。
部屋の方に方向転換。そしてその瞬間、派手な音をたてて転倒した。細い糸が張られていたのだ。
……こんなのっ、運動神経をもらう前は日常茶飯事だ!
致命的に鈍臭かったあたしはよくこけた。そして滑った。
ヒールの高い靴を履いて歩けば、その最中にバランスを崩し、ダンスを踊れば転倒する。そして次の瞬間、何事もなかったかのように振る舞うのだ。
あたしはいくら阿呆なことをしても、たとえ階段を滑り落ちたとしても、怪我をすることだけは絶対になかった。
なんか受け身だけは出来ちゃうんですけど……それが佐倉ルイという人物だ。だから今回もピンピンしていた。
しかし、
「絶対許さない……」
あたしは心が広くない。
「〈探索〉」
「〈探索〉」
「〈探索〉」
ただひたすらに、罠の解除に専念する。それをやめたのは、言い知れない脱力感と疲労感を感じた時だ。
「異常です」
アネルさんの呟き。
「うん、異常だよ。 この罠の量は」
「そうでは無くて、ルイさんの魔力保有量です」
あ、やっぱり?前から薄々思っていた。
「普通、初級とはいえそんなに使えるものではありません」
「うん、さすがに疲れました」
やっぱりあたしはチートだったね。
しかし初級魔法しか使えないため、異常な魔力保有量も活用出来そうにない。
「それだけサーチを使っていれば、範囲が広がったんではないですか?」
「うん、半径一メートルぐらいに広がったかもです」
元が三十センチ程度だから二倍だ。距離感は無くてもこのぐらいは分かる。
丁寧語が破綻しているのは大目に見てほしい。
「……何回使ったかは聞かないでおきます」
「あはは」
正直、何回使ったかなんて分からない。
キレたから、常に詠唱しながら歩いていたけど。初級魔法は詠唱が短くていいね。主にイメージで何とかなるし。
ちなみにアネルさんのはやたら長かった。
「ところで、リタはどこですか?」
「……そういえば、見てませんね」
アネルさんと顔を見合わせ、同時に思う。
「逃げたかな」
「逃げましたね」
これらの罠はただの時間稼ぎだったというのか。
時間稼ぎのためにあたしはサーチを何回使ったと思っているんだ。ふざけんな。
今度はアネルさんと二人掛かりで捕まえに行く。罠に手間取っていると思っていたんろう。のんびりと歩いていたリタを、後ろから捕獲。
「さあ、お説教タイムの始まりです♪」
イメージするのは女神の悪魔のような微笑み。それを感じとったのか、リタは微かに震えていた。
「アネルさんは口出ししないでくださいね?」
「はい、お任せします」
家に強制連行し、リタに正座をさせる。かなりイライラしていたから、いろんな属性の魔法で玉を作ってリタの周りを漂わせたらおとなしく聞いてくれた。
アネルさんは甘やかし過ぎだったんだよ。
「リタ、どうしても脱走したいと言うのなら―――」
あたしは すうっ と息を吸い込む。これからの言葉に、リタがマトモになれるかが懸ってるんだ。
「―――完全犯罪を目指しなさい」
リタが目を見開く。
そのままの意味にとらないでね。
「誰にも気付かれないように行って帰って来ることも出来ないやつには、脱走の資格なんてないわ。 罠を仕掛けるなんて言語同断!!」
人に迷惑しかかけない、ましてロマンの成立しない脱走なんてやめちまえ!
その思いが通じたのか、リタの目が輝き始めた。やっと人様に迷惑をかけてはいけないと気付いたのか。
「お姉ちゃん、リタはまちがってた! 教えてくれてありがとー!」
「うん、それでいいの」
「……焚きつけているような気がしますが」
「え? 何が?」
「………」
何を言っているんだアネルさんは。このキラキラした瞳は、真っ当な人間に更生した証じゃないか。もう破壊活動も脱走も、やる訳がない。
ミッションコンプリート!
破壊活動を一回しかしなかったと聞いた奥さんからは、追加報酬で一万が出た。しめて二万五千テル。借金の半分は用意出来た。
しかしあたしはもう二度と、家庭教師に呼ばれることはなかった。
そして次の日には、いつものようにギルドで戯れるリタの姿が見られたという。
―――あれ?
明日は更新はお休みです。
ストックは尽きました。
次話で一章が終わる予定。
そろそろ登場人物紹介も作ろうと思います。




