口調に突っ込みたくない 盗賊
「あんた、昨日メリダ姉に土下座しとった人やんな」
あたしに声をかけてきたのは、緑がかかった茶色のくせっ毛と人懐っこそうなとび色の目をした少年。おでこに小さな傷がある。
彼の言葉はまぎれもなく大阪弁。……もう何があってもツッコむものか。
「はい、土下座してた人です」
やっぱりそういう風に覚えられていたか。佐倉ルイの第一印象は『土下座の子』か……。
覚悟の上でやったけど、不本意です。ええ。
「あ、敬語はナシで。 俺はラオっていうねん。 盗賊やってます」
そう言って手を差し出してきた。
あたしはそれを握り返す。
「あたしは佐倉ルイ。 ルイがファーストネームね。 クラスは弓師です」
「いやー、昨日見てな、ちょっと話してみたいなー思っとってん。 メリダ姉に躊躇なく近づけるなんて絶対大物やー、ってな」
「あはは……図太さには定評がねー。 って、メリダさんときょうだい?」
全然似ていない。
メリダさんは長身だが、ラオは言っちゃ悪いがあたしより少しだけ高いぐらい。クールよりも活発な印象だ。
「いや、さん付けにするには親しいし、呼び捨てにするには恐れ多いから『メリダ姉』と。 あの人、取っ付きにくいけど一度範囲に入ってしもうたら、めっちゃアネゴ肌やろ?」
「あ、確かに」
この人、ノリがなんかあたしの友達に似てるなー、なんてことを考える。
「おい、ラオ! 行くぞ」
扉の前にいる男が、ラオを呼んだ。
「はーい! ……それじゃ、リーダーが読んでるから行くわ。 ダンジョン探索の際はごひいきにな」
そう言って駆けていった。
「うん、また」
たぶんすぐに意気投合できるんだろうな。
そんなことを思いながらあたしも歩き出す。
「さて、行きますか」
昨日と同じ場所で街道を離れ、目に映るスライムを片っ端から殲滅しながら進む。いい魔法の練習台だ。
結構使ってきているが、魔力は一向に底を尽きない。
もっとも、使っているのは初級魔法だけだし、比べる対象がいないので自分の魔力が多いのかは分からないんだけど。
……スライムが多すぎてウザいです。
しかしあたしには大事な金ヅルだから、一匹残らず駆除。
増えすぎると全員参加の(魔法が使える人のみ)強制クエストが発動されるらしい。強制クエストは日給制らしいから、駆除系はかえって損になる可能性がある。
スライムが出やすい条件とかあるんだろうか。あきらかに昨日より多い。
少しばかりイラつきながら、点々とところどころに生えている木へ向かう。点々とは言っても思ったよりあった。
どうしよう、やめてしまおうか。クエストは受理してないし。
魔法を使えば早く済むだろう、と思い直しとりあえずやってみることにする。スコップはメリダさんに借りてきている。
芋虫を餌にもう一度ローチクを狙うか考えたけど、メリダさんいわくそうそう来るものじゃないらしい。大抵は違うものが来るそうだ。
「違うもの」について詳しく聞いてこなかったため、却下。変なのが来たら嫌だ。そして死亡フラグの香りがする。フラグの乱立者を身近な知り合いに持っていた身故の感覚だ。
土の初級魔法で木の周りの土を柔らかくする。使い道が謎だった魔法だ。農作業にしか使わないんじゃないか。
掘ってる間に芋虫でも来たらどうしよう。虫よけ的な魔法はないかな、と考える。
魔法一覧を探していると、さすがに魔物除けの魔法はなかったが、よさげなのを見つけた。
「〈探索〉」
周りにあるものがわかる、空間初級魔法なのだが……
範囲せまっ!!
自分を中心に半径三十センチほどの情報しか得られない。全然意味がない。脳内に木とか草のイメージを流されてもリアルタイムで見えてますからっ!
ふてくされながら地面をつつく。
どういう場面で使えというんだあの魔法。せいぜいなくしものを探すぐらいしか役に立たないだろ。
キレながらも有効な活用方法を考えている自分がいることに、あきれてくる。
―――あ、インスピレーションが降りて来ました。
「〈探索〉!!」
対魔物には効果がなくたって、探し物には効果抜群じゃないか!
中心を自分から木に変える。そしてその木の下に意識を向ける。―――そう、土の中を〈探索〉して、タイムカプセルを探すのだ。
すぐさまイメージが流れ込んでくる。こ、これは……
「ミミズだね……」
タイムカプセルの発掘は、難航しそうです。
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