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無題  作者: さちはら一紗
厳し過ぎる チュートリアル
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愛らしい クエスト



 夜明けごろ、唐突に目が覚めた。旅行などで、家以外の場所で寝るといつもこうだ。二度寝するには中途半端なので、朝の散歩にでも出かけることにする。


 昨日買った服を着る。メリダさんの私服をまねてブラウスとパンツルックだ。鏡を見て、本当に髪を染めてなくて良かったと思う。プリンどころじゃすまないよ。




 外は朝独特の空気がした。普段朝寝坊なあたしには新鮮だ。

 これから早起きを出来るならしたいところだけど、今日にはもう慣れてしまってぐっすり寝てしまうんだろう。無理かもしれない。




 地面が石畳ってことだけで、気分が乗ってくる。

 あたしは基本、一人だとテンションが低い。だってツッコミがいないとボケは輝けないから。真剣にツッコミ役が欲しい。なんかメリダさんは冷静過ぎてツッコミには向かない気がするんだ。


 とりあえず気分が乗ったので、走り出してみることにした。

 最初はジョギング程度だったのに、いつの間にか全力ダッシュになっていた。

 いや、でも、我ながら早くなった実感はある。多分五十メートル六秒台じゃないか。もっとも体力の方はあんまり上がってないようで、すぐにバテてしまったんだけど。

 運動神経はなかったけど、これでも体力は人並みにあったのだ。

 中学時代は運動部だったし、体力テストでは百一人中五十位だった。柔軟性がやたらと低かったけど。


 ……まてよ?柔軟性上がってるんじゃないか?


 周りに誰もいないことを確認する。

 佐倉ルイは世間体を気にします。変人の自覚あるのにね。


 そして人の目がないことに安心して、前屈。地面にぺったりと手のひらがついた。

 おお……!前は指先がつま先にも届かなかったのに‼人体強化って言っといて良かった。


 気分良く歩いていると、いい匂いがしてきた。この世界に来た時に、あたしがいた広場の方からだ。いい匂いと活気の正体は朝市だった。

 ……朝ご飯、宿で出されるんだよね。

 欲望に忠実なあたしは、覗くだけなんて出来ない。誘惑に負ける自信がある。だから背を向けてUターン。

 貧乏人は辛い……。




 宿に戻ると、食堂にメリダさんがいた。


「おはよう」

「おはようございます」


 メリダさんは、もう食べ始めていた。朝食はセルフサービスのようだ。


「あたしも取ってきますね」

「ああ」


 ロールパンにオムレツ、コンソメスープといったメニューだ。オレンジジュースとフルーツもついている。結構豪華だ。

 個人的にはフルーツが気になる。イチゴっぽいのだが、サイズがミカンほどもある。


「これ、なんですか?」

「イチゴは見たことないのか?」


 イチゴなんだ……。どうしよう?ここの生態系は全部大きかったら。昨日のことがちょっとトラウマだったりする。


「いただきます」


 まずはオムレツから。単純に塩コショウの味付けだったようで、あまり違和感はない。第一、この世に食えないものはないという自論を振りかざす人間に育てられたおかげで、常識的な範囲で食べれないものはない。

 つまり、美味しかった。こんな朝食込みで千テルなんて、いいのだろうか。


「ルイ、ちょっといいか?」

「なんでしょうか」


心なしか、真剣そうな顔だ。ちょっと身構える。

そしてその口から……


「マンガというものは、素晴らしいな……」


……メリダさんはボケ役決定。やっぱりはまりやがったな。


「人物がかわいすぎるな」


ほんのりと頬が染まっている。

乙女の顔をしてるよ。クールビューティはいずこへ……。


「何処まで読んだんですか?」


 あたしは授業中に七巻まで読んだ。つまりラストを知らない。

 ネタバレしないことを願おう。


「十巻だ」


 そこで最後まで読まなかったのは、仕事柄、睡眠が大事だからだろう。ちゃんと自己管理出来るんだね。

 ちなみにメリダさんは二十一歳だそうだ。結構若い。



 その後、食事の間はずっとマンガの素晴らしさを語ってくれた。もう完全に中毒者だね。アレの価値は五千円程度だと知ってるから罪悪感が半端ない。

 ……早く四万、返そう。


「で、今日の予定はどうする?」

「一人でやってみようと思います」


 メリダさんはランクC、それに対してあたしは最低ランクのFだ。駆除系のクエストは適性ランクF。メリダさんにはつり合わない。


 ランクを上げるためには、自分と同じランクの仕事をしなればならないらしい。なので、メリダさんを付き合わせるのは申し訳ないのだ。

 まあ結局ランクを決めるのは、ギルドの一存なんだとか。治癒師ヒーラーとかあんまり前線に出ないしね。




 ということであたしは一人、ギルドへ向かう。

 メリダさんはマンガを読むそうだ。……あの人、元々休暇中だったらしいんだけどね。なんか発想が引きこもりだね。

 異世界にニートは存在するのかな……?



 ギルドにわざわざ行くわけは、クエストの更新だ。腕輪で一覧を表示出来るが、更新は自動ではないらしい。

 微妙なるハイテク。


 扉を開けると目に入るのは、筋骨隆々肉だるま……。この人昨日もいたよねえ?入り口前のテーブルに陣取らないでいただきたい。


 受付で腕輪を渡し、更新してもらう。

 イメージとしてはメインコンピュータに接続って感じかな?そういう説明をしてもらった。

 隅のテーブルでクエストをチェック。


 ……なんか変なのがいっぱいあった。

 掃除とか、魔法を教えてだとか、多種多様。分類は〈その他〉になっている。冒険者の仕事じゃなくない?

 

 腕輪は、ちょっとしたニュースも表示してくれるようだ。インターネットみたいだね。

 「ちょっとした」にふさわしく一文程度の文章で、内容もゴシップばっかりだった。しかし、それに比べて魔王関連のニュースが少なすぎる。というか、今のところ見当たらない。

 平和ってことなのかな?

 女神の言ってたような「滅びそう」だとかは似つかわしくない。


 ゴシップなんて見ていても仕方がないので表示をもう一度クエスト一覧に切り替える。そして適性ランクFで検索。自分よりランクの高い依頼は受けられないのだ。

 受けられたとしてもあたしはやらない。だって怖いから。

 

 異色な依頼が目に付いた。




 『タイムカプセルをさがしてください』


 タイムカプセルを五年前にうめました。

 ばしょはクラル草原の木の下です。どの木の下か、おぼえてません。

 

 ほうしゅう:1035テル

 きげん:なし



 と、手書き風の内容が表示された。

 なんだか愛らしい。報酬の中途半端な額に、みんなで集めました感が溢れている。

 クラル草原は、昨日メリダさんと行った場所だ。草原だけあって木はさほどないし、割と範囲も狭いスライム駆除をしながら探すことにしよう。


 そう決めて席を立ち、出口に向かった。




 「なあ、ちょっとええ?」


 後ろから聞こえる、独特のイントネーション。考える間もなくあたしは振り返った。







 それはまぎれもなく――――



誤字脱字報告、大歓迎です。

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