第2章-第5話・第6話
父さんの言葉で、さらに空気が冷えていった。
「なっなんだよそれ。冗談・・・だろ?」
父さんの表情はかわらない。
心の中まで冷えそうになる。
「俺は・・・俺は、どうすればいいんだ?」
父さんは、ただただ首を横に振るだけだった。
「何も、何も言えないんだ・・・。」
そう言った父さんの声は、かすかだけどふるえていた。
俺はうなだれるしかなかった。
「おじさんの所へは、父さんが連れて行ってやる。だから・・・。」
「だから?」
「いや・・・。なんでもない。」
久しぶりに会った父さんとの会話は、そこで終わった。
ゆっくりとエンジンがかかり、車が進みだす。
次々と変わっていく風景。
すべて見たことのない景色ばかり・・・。
きっと遠回りしてるんだ。
理由は・・・。
聞きたいけど、俺は言葉として口に出せなかった。
でも、聞かなくてもわかる気がした。
きっと、白の人がいるから・・・だから普通の道は通れない。
ただ、それだけのことだろう。
俺は、ただ静かに窓の外にだけに心をかたむけた。
一時の休息・・・。
『普通の生活には戻れない・・・』
父さんの言葉が、何度も頭の中で回る。
きっと、そういうことなんだ・・・。
静かな空気のまま、車は山を2つ越えた。
静かな空気のまま、車は村を1つ越えた。
そして・・・。
―星咲村―
幼い頃に見慣れた町。
おじさんが住んでいる、旅の目的地。
車は町の中をどんどん進み、そしておじさんの家の前の田んぼで止まった。
「降りろ春紀。そして、振り返らずに立ち止まらずに、おじさんの家へ行け。」
「父さんは・・・。これから父さんは、どうなるんだ?」
それが最後の会話になった。
俺の言葉に、父さんはただ首を横に振るだけだった。
俺は、静けさの中で車を降りた。
おじさんの家までの真っ直ぐな田んぼ道を進む。
―ピーンポーン―
気持ちとは裏腹な軽やかな音。
インターホンの返答はないまま、扉が重くゆっくりと開いた。
俺はゆっくりと足を前へ運んだ。
―ドッカーン!!―
歩いてきた道の後ろで、とてつもなく大きな爆発音がした。
たぶん・・・。いや、絶対・・・。・・・。
「父・・・さん・・・。」
最後の約束を守ると決めた俺は、振り返らずに泣いた。
父さんとの思い出を、思い出せば出すほど、涙が溢れた。
それは俺の足元に、小さな水溜りをつくった。
雫が落ちる。シズクガオチル・・・。
俺は覚悟を決めて涙をぬぐった。
小さな水溜りにうつった過去の自分をふみつける。
そして、振り返ることなく扉を閉めた・・・。