第1章-第7話・第8話
手に残っているのは、肉のカンショク。
ナイフが裂いた、誠人の腹のカンショク。
俺の目の前に、誠人は崩れ落ち、そして息絶えた。
そう。俺が誠人を殺したのだった。
「まさとぉぉぉぉぉ!!」
俺は力のかぎり叫んだ。
そして、運命に涙した。
俺の覚悟なんて、無に等しかった。
戦う気だった俺と、わざと切られた誠人…。
俺の中でさらに深くなる疑問。
『お前だけは…逃げきれ…。』
誠人は確かにそう言った。
―パチパチ―
―パチパチ―
拍手の音に驚いて振り返る。
振り返った先にいた人物に、俺は目を疑った。
白いコートを着た集団の真ん中で、俺に向けて拍手を送る人影。
「父さん…。」
驚きと、不安がいりまじった声が出た。
「久しぶりだな。春紀。」
まぎれもなく、父さんの声だった。
「父さん…。ホントに?」
父さんが静かにうなずく。
その時だった。
白いコート達が、一斉に銃口を父さんに向けた。
「父さん、逃げ──」
俺の声は間に合わなかった。
銃弾の中で、父さんのいれ物がおどる。
もう、涙は出なかった。
恐怖のあまり、立ちすくむ。
もう、涙は出なかった。
やがて銃声が止み、銃口がこちらをむく。
もう、涙は出なかった。
ナイフを握り直し、白いコート達の所へと走った。
心はもう、泣けなかった。
無数の銃弾が、肌をかすめる。
熱さと痛みが、その度に加速していく。
それでも俺は止まらない。
自分自身を止められなかった。
握っているナイフが、次々と白いコートを赤く染める。
そして、最後の一人にたどりついた。
「たっ助けて…。武器も捨てるし、二度とお前を追わない…。」
そう言って、白コートは銃をこちら側に放り投げた。
俺はスッと手を伸ばし、銃を拾い上げた。
ためらうことなく、銃口を白コートに向ける。
「おっお願いだ。あっあの人の命令で、俺達は動いていただけなんだ。全てあの人の命令なんだ!だっだから、たっ助けてくれ!!」
「今さら・・・。」
白コートは完全に腰を抜かしている。
俺は銃口を向けたまま、白コートの方へと歩いて行った。
「死ねよ。」
冷たい言葉と共に、引き金を引いた。
叫び声を放って、白コートは肉塊になった。
一瞬の静けさ・・・。
ふと我に返る。
人の山と、大量の血。
一気によみがえる恐怖と悲しみ。
「うわぁぁぁあぁぁぁ!!」
心がこわれるかと思った。
全身から力が抜けた俺は、その場にしゃがみこんだ。
血のにおいに包まれながら泣いた。
泣いて、泣いて・・・。
そして、眠るように闇の中へと堕ちていった。
眠っている少年を、男が抱き上げた。
「まさか、こんなに成長してるとは・・・。」
男は少年を抱えたまま、白のワゴン車へと進んで行った。