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第1章-第5話・第6話

「いたか?」

「いえ、いません。」

「そっちは?」

「こちらもダメです。」

「確かに声がしたのだが…。」

目の前で繰り広げられている光景に、俺は目を見はった。

俺は目の前にいるのに、その俺を探している。

「チッ!」

舌打ちだけを残し、白いコートを着た集団は去っていった。

「何かよくわからんけど、助かったぁ…。」

不安定な安心から、確実な安心になったことがわかった。

『おじさん以外は信じないこと』

母さんの言葉がよみがえる。

自分だけの力で、隣町まで行かないといけない。

俺にはその事実が、とても重たく思えた。

「隣町まで歩くしかないか…。」

電車で行ければ五分なのに、歩けば三十分もかかる。

今の俺には、その三十分でさえ恐怖だった。

けれど、いつまでたっても立ち往生している場合じゃない。

とりあえず、俺はその場から歩き始めた。

いつどこから命をねらわれても、おかしくない。

そね押しつぶされそうな緊張にたえながら、足を進める。

いつのまにか見なれた風景の場所までたどりついた。

そう。俺の家だ。

歩いて三十分の道も、自転車で走れば少しは短くなる。

そう考えた俺は、危険と知りつつも家に戻ってきた。

けれど、そこにはもう何もなかった。

あの大量の瓦礫も、母さんの亡骸も、俺が投げた鍵すらもなかった。

当然、自転車もあるわけがない。

「どういうことだよ…。」

俺がココを出てから、何時間もたっていない。

それなのに、何のカケラもなくなっていた。

まるで空地だ…。

あまりの光景に、脳がどう処理していいかわからなくなったみたいだ。

俺の手足は、動くことを忘れていた。

聞きなれた足音が、俺の耳に入るまでは、ずっと…。




「春紀!!」

俺はその声と足音に、安心して振り返った。

「誠人!!」

俺の声の先にいたのは、友達の戸田誠人だった。

俺は誠人にかけよった。

「お前は俺が見えるんだな?」

俺の言葉に誠人が首をひねる。

「当たり前のことを言うなよ。」

「だよな…。」

なら、さっきのは何だったんだ?

俺の中に疑問が広がる。

『…て…』

また突然に、あの少女の声がした。

誰なんだ?

さっきよりも、とてつもなく広く深い疑問が広がる。

思考回路が集中する。

俺はあの子を知ってる…。

その結論に達したその時だった。

「おい!どうしたんだよ!!」

誠人の声と、肩を捕まれたことに驚いて、我に返った。

「ごめん…。いや、考え事をな…。」

答えるわけには、こいつまで巻き込むわけにはいかなかった。

けれど、そんな俺の思いとは裏腹な答えが、誠人から返ってきた。

握られたナイフに、血がしたたっている。

アレは俺の血だ…。

さっき肩に触れられた時に切られていた。

俺の肩から血が流れる。

『おじさん以外は、信じちゃだめ』

母さんの遺言の意味が、ようやく理解できた。

「お前もかよ…。お前も、俺を…。俺の命を狙っているのか。」

悲しみと、深い怒りがこみ上げてくる。

誠人は答えずに、ナイフを俺の方へと向けた。

「…んで、何でなんだよ!!」

困惑する俺をしりめに、誠人は一流れの風になって俺に近付いてきた。

俺も覚悟を決めて、カバンからナイフを取り出した。

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