第1章-第3話・第4話
感覚だけで自分の部屋があったであろう所にたどりついた。
適当に物をどけていくと、大切にしていたカバンが見つかった。
「よかった。ほとんどこわれてない。」
俺は革でできたそのカバンを拾い上げた。
カバンの中身はサイフとお菓子が少し。
「これだけあれば、大丈夫だろう。」
カバンを肩にかけて出かけようとしたその時だった。
『大切なものを全部持って…』
どこからともなく声がした。
少女のようなすんだ声だった。
けれど辺りを見回しても、誰もいない。
言葉だけが妙に心に引っかかった。
「大切なもの…?」
サイフ、お菓子、ケータイと、今手に持っている物を確認していく。
「これ以外に大切なもの?大切なものって何だよ!!」
叫んで脳がスッキリしたのか、あるものを思いついた。
机だったものの引き出しを強引に開ける。
中から出てきたのは、ライターと花火だった。
それらをカバンにつめこむ。
「何があるかわからないからな…。」
少し大きめのカバンには、まだまだ物が入りそうなスペースがある。
「あとは何を入れよう…。」
独り言を言いながら、次々に物をつめこんでいく。
ティッシュにハンカチ、タオルに水筒。そして、着替え…。
「まるで遠足か旅行だな。」
最後に非常用のロープとナイフを入れてカバンを閉めた。
―チャリン―
立ち上がった俺のポケットで、家の鍵が鳴いた。
俺は玄関だった所まで軽やかに歩いていった。
一番歩きやすい靴に履き替えて、もう一度立ち上がる。
もう二度とここには帰れない。
脳が、体が、心がそう言っていた。
ポケットの鍵を空に投げた。
「バイバイ。」
鍵が落ちた音と共に、俺は歩きはじめた。
振り返ることなく、振り返れない旅へと。
『隣町のおじさんの所へ』
母さんの遺言の意味を、半分も理解していなかった俺は、とても簡単に成しとげられると思っていた。
そう。ソレが起きるまでは…。
早くおじさんに会わないと。
会って聞かないと。
そのあせりから、迷わず俺は駅へと向かった。
電車で行けば、隣町まで約五分でつく。
サイフの中に眠っていたカードを取り出して改札口を通った。
ホームには俺の他に人が三人。
ひたすらケータイをいじる、女子高生。
新聞に夢中な、サラリーマン。
そして真っ白なロングコートを着た、女の人が一人。
朝のラッシュが過ぎたとはいえ、さみしすぎるホームに俺は違和感を覚えた。
それは電車が到着するちょうど五分前のことだった。
―バンッ―
一発の銃声とともに、ほほから血が流れるのがわかった。
本能的に命の危険を悟った。
急いでホームから逃げる俺と、追いかけるような銃声。
それは住宅街に入ってもやまなかった。
なのに、民家から人が出てくる気配なんて、まるっきりなかった。
それどころか、さっき横を通り抜けた家は、リビングで笑いながらテレビを見ている主婦がいた。
「気づいてない?…聞こえてないのか?」
まるで俺と俺を追ってる人だけが、この世界から隔離されたかのようだ。
「隔離…。」
それを言葉として俺が発した時だった。
銃声がやみ、静かな空気に包まれた。
「助かった…。」
ため息と共に安心感が生まれる。
「それにしても、どういうことなんだ?いきなり銃で撃たれたり、追いかけ回されたり…。」
独り言を言いなれてるせいか、ついつい声が大きくなってしまった。
あわてて口をふさいだけれど、どうやら遅かったらしい。
―パタパタパタ―
無数の足音と、無数の殺気が近づいてくる。
それは、だんだんと多く。
それは、だんだんと大きく。
それは、だんだんと近く。
そして、ついに俺の目の前まで…。