第1章-第1話・第2話
「朝よ〜。起きなさい!」
その日も俺はいつものように、母さんの呼ぶ声で目を覚ました。
まだ開ききらない目をこすりながら洗面台へと向かった。
歯みがきをしながら髪をいじるためのワックスにも手を伸ばす。
「あれっ?」
いつも置いてあるはずのワックスがその日に限って置いてない。
とりあえず歯みがきだけを済ませてリビングへと足を運んだ。
「母さん。俺のワックス知らねぇ?」
俺の声に、料理をしていた母さんの手がピタッと止まった。
「あっあれね。中身が空っぽだったから、捨てといたわ。」
しどろもどろな声。
何をそんなに慌ててるんだろう。
「無いものは無いんだから、ぐだぐだ言ってないで早く学校に行きなさい。」
「でも、朝食…。」
そう言いかけた言葉は、母さんの次の言葉に遮られて消えた。
俺はしぶしぶカバンを持って家を出た。
「何だったんだろう…。今日の母さん、めっちゃ変やった。」
独り言を言いながら自転車を取りにガレージへと向かった。
その次の瞬間だった。
とてつもなく大きな騒音とともに、家が瓦礫の山となった。
突然の出来事に唖然とする俺。
「そうだ!母さんが中に…。」
俺は必死に瓦礫をかきわけた。
幸いリビングは玄関近くにあったので、母さんらしきモノはすぐに見つかった。
周辺の瓦礫を急いで片付ける。
五分もしないうちに母さんにたどり着いた。
抱き上げて意識を確認する。
「母さん!母さん!!どういう事だよ!」
俺の声に母さんの目がうっすらと開いた。
「良かった…。助かったのね…。」
咳をするたびに母さんの口から血が流れる。
「今、救急車よぶから!」
そう言って、俺はケータイに手を伸ばした。けれど、その手は母さんの手によって止められてしまった。
「救急車を呼んでも、彼らがくるだけ…。私はもう助からない。いい?今から言う事をよく聞きなさい。」
本当に母さんは助からない。
なんとなくだけど、感覚的に悟った。
俺は静かに母さんの声に耳をかたむけることにした。
「すぐに大切なものだけ持ってココから逃げなさい。そして、隣町のおじさんの所に向かいなさい。ただし、その道中に会う人には注意して。おじさん以外、誰も信じちゃ…だめ……。」
言葉とともに、血も流れていく。
「…友達にも、気をゆるしちゃだめよ……。」
母さんの声が、だんだん小さくなっていく。
「あなただけは…彼ら…から……逃げ……て。」
そう言い終わると、母さんの体から力が抜けた。
「母さん?彼らって誰だよ。何で逃げなきゃ行けないんだ!」
動かなくなった母さんの体を、俺は必死にゆらした。
当然そんなことをしても、死んだ人間は動かない。
俺は覚悟を決めて、手を離した。