小噺16『食通』
○『食通』あらすじ
町内に、何でも食べ物の蘊蓄を語りたがる男がいる。浜松産の鰻を食べれば、
「浜松産の鰻といえば脂」
深谷産の葱を食べれば、
「この甘さは深谷ネギしか出せない」
宇治茶を飲めば、
「宇治茶は奥深い旨味」
と、頼まれもしないのに講釈を始める。しかも相手が魚屋だろうが八百屋だろうが構わず知ったかぶりをするため、近所では少々煙たがられている。
ある晩、男は馴染みの料理屋で酒を飲みながら、居合わせた客たちに食べ物談義を披露する。酒も進み、魚の旬から肉の産地、野菜の見分け方に至るまで延々と語った挙げ句、
「私の舌は誤魔化せません」
と言い切る。
その様子に呆れた店主は、
「ならば旦那の舌を試してみよう」
と思い立つ。ちょうど知り合いの猟師から譲り受けたアライグマの肉があったため、丁寧に下処理を施し、自慢の腕で焼き上げる。そして、
「今日は特別に米沢牛が入りまして」
と言って男の前へ出す。
男は一口食べるなり目を輝かせ、
「これは見事だ!」
「脂の甘みが違う!」
「さすが米沢牛!」
と大絶賛。さらに周囲の客へ、一口食べさせて、
「他の牛肉とは違うだろう」
と得意げに講釈を始める。
客たちも面白がって話を合わせるうち、話題は珍しい肉へ移る。猪や鹿の話に続いたところで店主がアライグマの名を出すと、男は鼻で笑い、
「あんなものは臭くて食えたもんじゃない」
と言う。
さらに、
「アレを洗ったところで臭さは消えませんわ」
と断言する。
すると店主が静かに、
「旦那、その米沢牛だと思って召し上がってるのが、そのアライグマで」
と種明かしをする。
店中の視線が集まる中、男は箸を持ったまま固まり、しばらく考え込む。そして平然とした顔で、
「いやぁ……洗い方が良かったんですな」
と言う。




