表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/94

モンダーヴィオ城  1部  [依頼書?そんなものは出していない] ローマ編

いつも読んでいただきありがとうございます♪

ローマ編追加しています17時ごろ投稿しますのでこちらもよろしくお願いします

モンダーヴィオ城 ローマ編

1部  [依頼書?そんなものは出していない] ローマ編


馬車の車輪が、ぬかるんだ悪路に足を取られて激しく軋む。

すでに一ヶ月。

俺たち『老いたる跳ね馬亭』の一行は、この狭い客車の中で揺られ続けていた。

魔物が跳梁跋扈する旧街道を進む旅路は、不気味なほど退屈とは無縁だった。

「おじさん、またこの先の森の様子がおかしいよ。

木々の影が、太陽と反対の方向に伸びているんだ」


ルカが自身の指先から小さな青い結晶を灯そうとするが、その光は弱々しく明滅してすぐに消えてしまう。

「ウミャア……」


ルカの膝の上で、長旅にすっかり飽きた真っ白なシャム猫のウララが、抗議するように長く尾を揺らした。

「おいおい、ルカ、それにウララ。

天才の設計したサスペンションがなければ、今頃お前たちの骨はバラバラになっていたぞ。

見てみろ、この手元にある真祖ドラキュラ公爵からの依頼書を。

この美しい蝋印の赤は、ただの朱肉ではない。

魔力を定着させるための特殊な水銀顔料が使われている。

これほどの美意識を持つ依頼主が、ただの退屈な男であるはずがない。

だが、道中のこの『空間の狂い』は、確かに看過できないな」


俺――かつて地球で『万能の天才』と呼ばれ、今は異世界で便利屋まがいの探偵を営むレオナルド・ダ・ヴィンチは、愛用のスケッチ帳を閉じ、白黒の視界を展開した。

俺の切り札、万能スキル【画家】。

この力を発動すると、世界の色彩はすべて削ぎ落とされ、明暗のトーン、すなわち『キアロスクーロ(明暗法)』の極致として世界が再構成される。

そこに見えるのは、不自然に歪んだ空間のパースペクティブだった。

このモンダーヴィオの領地に入ってからというもの、空間の消失点が不自然に歪んでいる。

「おかしいな。

二点透視図法のはずが、消失点が三つある。

まるで、異なる時間が同じ空間に重ね塗りされているようだ。

まるで乾燥していない油絵の上に、無理やり新しい絵の具を塗り重ねたようにな」


馬車が不意に、激しい衝撃と共に急停車した。

「旦那!

ちょっと前を見てくれ!

こいつはただの霧じゃねえ!」


御者台の猪人、ボリスが鼻息を荒くして叫ぶ。

霧の奥から現れたのは、半ば崩壊した古い石造りの道標だった。

だが、その道標に刻まれた文字を【画家】の目で透かした俺は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

そこに刻まれていたのは――一ヶ月前に、俺自身が跳ね馬亭で書いたはずの『走り書きのメモ』と全く同じ筆跡だったのだ。

「なぜ、一ヶ月前に俺が書き留めたメモの内容が、はるか遠く離れたこのモンダーヴィオの道標に刻まれている?

それも、何百年も風雨に晒されたような古い彫り跡でな」


俺は顎をさすりながら、指先でその石の彫り込みをなぞった。

石化の魔法か、それとも時間の歪みか。

不気味な歓迎は、すでにこの旅路の途上から始まっていたのだ。


2:第一の怪異・深夜の「逆流する水」


旅の二十日目の夜、俺たちは街道沿いの放棄された礼拝堂で夜を明かすことにした。

御者のボリスが薪を割り、ルカが近くの井戸から手桶に水を汲んできた。

「おじさん、この水、なんだか変んだ。

手桶に汲んだはずなのに、いつの間にか減っている気がする」


ルカが不思議そうに首を傾げる。

俺は手桶の中の水を覗き込んだ。

確かに、揺れる水面が不自然だ。

水滴が手桶の縁を伝って、下から上へと逆流するように這い上がっている。

「ウニャーオ!」


ウララが手桶に向かって鋭く威嚇した。

ウララは水が嫌いだが、この水に対しては恐怖以上の、生理的な嫌悪感を示している。

俺は【画家】の力を使い、白黒の諧調の中で水の「流れ」をスキャンした。

驚くべきことに、水分子の運動ベクトルが、完全に時間を逆行している。

「ルカ、その水に触るな。

この水は『過去に流れた水』が、そのままの軌道で未来から戻ってきている。

つまり、この井戸そのものが、時間の逆流を引き起こす澱みになっているんだ」


「そんなこと、あり得るの?

魔法でも、時間を巻き戻すなんて国家規模の大魔術師じゃなきゃ不可能なはずだよ」


ルカが青ざめる。

その時、礼拝堂の扉がガタガタと激しく揺れた。

「誰か……助けて……」


細い声が聞こえ、扉が細く開く。

そこに立っていたのは、全身を泥で汚した植物族アルラウネの少女、クロエだった。

頭頂部から生える蔦は枯れかけており、必死の形相でこちらに手を伸ばしている。

「水を……あの井戸の水を飲んじゃダメ……。

私の薔薇が、みんな種に戻っちゃったの……」


クロエはそう言い残すと、その場に倒れ伏した。

セシリアと名乗るエルフの薬術師が、彼女を追うように礼拝堂に駆け込んできた。

「クロエ!

ああ、よかった、まだ無事ね。

皆さん、私はこの子の主治医のセシリアです。

この子はモンダーヴィオ城の庭師なのですが、数日前からこの周辺の植物が次々と『過去の姿』に退行する怪奇現象に巻き込まれ、精神を病んでしまって……」


セシリアは手際よく薬草の入った小瓶を取り出し、クロエの口元に運んだ。

「クロエ、これを飲みなさい。

時間の毒を中和する薬草よ」


俺はセシリアの調合する薬草の動きを注視した。

【画家】の視界では、薬草の粉末が水に溶ける瞬間、やはり「時間の逆流」特有の、奇妙なパターンの乱れが見て取れた。

「セシリア殿。

その薬草、少し俺にも見せてくれないか?」


「ええ、構いませんけれど……。

ただの気気休めのハーブですわ」


手渡された粉末を指先で擦り合わせる。

これは時間の進行を遅らせる効果を持つ、非常に希少な『遅延草タイム・ロータス』の根だ。

なぜ、一介の薬術師がこのような国家機密級の触媒を平然と所持しているのか。

俺の脳内のキャンバスに、最初の不穏な一筆が加わった。


3:第二の怪異・歩く死体と未来の通行証


翌朝、霧はさらに深くなり、馬車は遅々としか進まない。

やがて、街道の関所に差し掛かった。

「止まれ!

これより先は真祖ドラキュラ公爵の直轄領。

許可なき者は一歩も通さぬ!」


霧の向こうから現れたのは、半ば骨が露出した鎧姿のアンデッド兵たちだった。

その中央から、美しいが冷徹な羽を持つハルピュイアの女性騎士、フェザーが舞い降りてきた。

彼女はこの関所の守備隊長だ。

「私はフェザー。

ここを通るなら、しかるべき通行証を提示せよ」


「これがある。

ドラキュラ公爵からの直々の依頼書だ」


俺が羊皮紙を差し出すと、フェザーはそれを手にとって眉をひそめた。

「……馬鹿な。

この依頼書の発行日付を見ろ。

これは『明日』の日付だ。

お前たちは、未来の通行証を持って、過去からやってきたというのか?」


「なんだって?」


ルカが驚いて声を上げる。

「未来の依頼書を、僕たちが一ヶ月前から持っていた……?

そんなの、因果関係がめちゃくちゃだよ!」


「その通りだ。

だが、この蝋印の魔力波形は紛れもなく本物」


フェザーは不審そうに俺たちを見つめる。

「さらに不気味なのは、三日前にもお前たちと全く同じ馬車が、この関所を通過したことだ。

私はこの目で、そこの猪人の男と、結晶の少年、そして白猫を見た」


「俺たちが三日前に通っただと?

俺たちはこの一ヶ月間、ずっと一本道を走ってきた。

他の馬車に追い抜かれた形跡もないぞ」


ボリスが荒い息を吐きながら抗議する。

「ウニャーオ!」


ウララがフェザーの足元に転がっている「何か」に向かって、鋭く爪を立てた。

それは、ちぎれた馬車の幌の切れ端だった。

俺はその切れ端を拾い上げ、【画家】のトーンで観察した。

(間違いない。

この幌の繊維の織り方は、俺たちの馬車に使われている特注の防魔布と同じだ。

しかも、経年劣化の度合いが、うちの馬車のものより『三日分だけ新しい』)

「フェザー殿、三日前に通った俺たちは、どちらへ向かった?」


「城だ。

公爵閣下の待つモンダーヴィオ城へな。

だが、お前たちが今ここにいるということは……あの馬車に乗っていたのは、一体誰なのだ?」


関所のアンデッド兵たちが一斉に槍を構える。

不気味な緊張感が走る中、俺は馬車の天井を見上げた。

「ボリス、強行突破だ。

この関所の『時間』もまた、何者かによって二重に露光されている。

ここに長居すれば、俺たち自身が『存在しない過去』に塗り潰されるぞ!」


「がってんだ!

お前ら、しっかり捕まってやがれ!」


ボリスが激しく鞭を振るうと、馬車は凄まじい勢いでアンデッド兵の列を突破した。

フェザーの警告の笛の音が、霧の中に遠ざかっていく。


4:第三の怪異・モンダーヴィオ城の不気味な出迎え


ようやく辿り着いたモンダーヴィオ城は、崖の頂上で漆黒の影を晒していた。

城門は最初から開け放たれており、そこには歓迎の灯火ひとつない。

「……静かすぎるね。

誰もいないのかな」


ルカが小さな声を震わせる。

「ウニャオ」


ウララはルカの腕の中で、城の暗がりに向かって鋭く威嚇を続けていた。

ロビーに入ると、そこには豪奢な、しかし埃ひとつない完璧に整えられた空間が広がっていた。

「ようこそ、跳ね馬亭の皆様。

私は公爵閣下に仕える執事のアルベルトと申します」


影から音もなく現れたのは、初老の吸血鬼、アルベルトだった。

彼の目は濁り、その笑顔はまるで精巧な蝋人形のようだった。

「……ですが、一つお伺いしたい。

皆様はなぜ、『今日』ここにいらしたのですか?

昨日、皆様をお迎えしたばかりなのですが」


アルベルトの背後から、赤い外套を羽織った男が静かに現れる。

その瞳は深紅、肌は磁器のように白い。

彼こそが、この地の領主、真祖ドラキュラ公爵だった。

「レオナルド。

君のような傑物を招いた覚えはない。

ましてや、私が依頼書を送ったなどと……。

この地には今、いかなる事件も起きてはいないのだよ」


公爵の言葉に、俺は懐から『明日』の日付が刻まれた依頼書を取り出して差し出した。

公爵はそれを一瞥し、怪訝そうに眉をひそめる。

「確かに私の筆跡だ。

だが、私はこんなものを書いた記憶はない。

……いや,

待て。

記憶にないどころか……」


公爵は俺たちを城の回廊へと案内した。

長い回廊の壁、その中央に掛けられた一枚の巨大な油絵。

それを見た瞬間、ルカが息を呑み、ウララの毛が逆立った。

「これ、おじさんが描いたの……?」


そこには、豪奢な暖炉の前で、ドラキュラ公爵と親しげにチェスを指す俺の姿。

その横で結晶のチェス駒を磨くルカ。

アンド、公爵の膝の上で、喉を鳴らす白猫ウララ。

完璧なスフマート技法。

絵の右下には、一ヶ月前の日付とともに、『Leonardo da Vinci』のサインが、確かに刻まれていた。

「おいおい、冗談がきついな。

俺は一ヶ月前、跳ね馬亭で不味い林檎パイの焼き加減について、常連のマルコ店長と議論していたはずだ。

こんな絵を描いた覚えはないぞ」


俺はすぐさま【画家】を起動し、その絵に顔を近づけた。

白黒のトーンで世界を透かす。

キャンバスの布目、その奥に染み込んだ油分の乾燥度合い。

通常、一ヶ月前に描かれた油絵なら、表面の乾性油は完全に酸化重合し、固化しているはずだ。

だが、この絵の深層にある樹脂層は、まるで『昨日』描かれたかのように、いや、それどころか『今この瞬間』も、未来から過去に向かって乾燥が進行しているような、奇妙な逆流のグラデーションを見せていた。

「これは一ヶ月前に描かれたんじゃない。

一ヶ月後の未来――つまり、『今現在』の俺たちが、時間を逆行させて過去に送り込んだ絵だ。

アンド、その絵の具には、まだ乾ききっていない『新鮮な魔力』が息づいている」


俺がそう呟いた瞬間、背後でガシャリと、不穏な金属音が響いた。

廊下の天井から、一滴の「赤い雫」がぽつりと落ちて、ルカの足元の石畳を染めた。

見上げると、そこには天井に張り付いたまま、虚ろな目で俺たちを見下ろす、この城の庭師である植物族アルラウネの少女、クロエの姿があった。

彼女の体からは緑の蔓が伸び、それが天井の梁に、まるで首を吊るように絡みついていた。

「……たすけて……時間が……戻っていくの……」


クロエの言葉と共に、彼女の体はみるみるうちに縮み始め、緑の葉が枯れ落ち、一本の「種」となって床へと落下した。

「な、なんだこれは!」


叫んだのは、城の警備隊長を務める人狼のガルムだった。

「侵入者どもめ!

お前たちが城に入った途端、クロエがこんな姿に!

これはお前たちの呪いに違いない!」


「待ちたまえ、ガルム。

彼らは今、私と共にいた。

犯行は不可能だ」


公爵が静かに制するが、ガルムは納得いかない様子で牙を剥く。

「しかし閣下!

この者たちが城に入ってきてから、結界のルーンが完全に狂っています!

特にその、結晶体のガキと、妙な白猫が妖しげな術を使っている!」


「ウニャーオ!」


ウララがガルムに向かって威嚇の声を上げる。

「待って、ガルム隊長。

決めつけるのは良くないわ」


廊下の角から現れたのは、公爵の主治医を務めるエルフの薬術師、セシリアだった。

彼女は薬草の香りを漂わせながら、割れた展示ケースの破片と、クロエが変化した「種」をハンカチで拾い上げる。

「この種、不自然に凍りついている。

ただの魔法じゃない。

『時間凍結』の魔術が使われた形跡があるわ。

まるで、この城全体の時間が、静かに腐敗を始めているように……」


セシリアの言葉が、廊下に冷たく響き渡る。

俺は落ちた種をじじっと見つめ、【画家】の目で観察した。

種の表面には、肉眼では見えないほど微細な、しかし均一な「螺旋の溝」が刻まれていた。

これは自然の産物ではない。

「……時間の歯車が、この少女を過去へと巻き戻した。

アンド、その歯車を動かした『ゼンマイ』が、この城のどこかで今も回っている」


俺がそう言うと、公爵の主治医であるセシリアは、意味深な眼差しを俺に投げかけた。

「ダ・ヴィンチ殿。

あなたのその眼は、一体どこまで『真実』を捉えているのかしら?

もしかしたら、その眼そのものが、この城の平穏を乱す最大の原因なのかもしれないわね」


不気味な歓迎、矛盾する依頼書、そして目の前で「種」へと退行した少女。

事件はまだ始まったばかりだった。

この『モンダーヴィオ城』という、狂った巨大なパレットの上で、俺たちはすでに、不可視の犯人が描く「死の構図」の一部として組み込まれていたのだ。

「面白い。

この歪んだ絵、俺が必ず完璧なデッサンに描き直してみせる」


俺は懐から一本の炭の鉛筆を取り出し、スケッチ帳の新しいページを開いた。

世界はまだ、深い霧と謎の中に沈んでいる。


5:第四の怪異・消えた影の容疑者たち


その日の夕刻、さらなる怪異が城を襲った。

城の食堂に集まったのは、領主であるドラキュラ公爵、執事アルベルト、警備隊長ガルム、薬術師セシリア、そして近隣の領地から急遽訪れたという吸血鬼の評議員、ハインリヒ男爵だった。

ハインリヒは精緻なモノクルを調整しながら、不機嫌そうに俺たちを見下ろした。

「ダ・ヴィンチ殿とやら。

君の噂はかねがね聞いているが、この城で起きている超常現象は、君たちが持ち込んだ呪いではないかね?

現に、君たちが来てから、城の結界は不安定極まりない」


「男爵、言葉が過ぎますぞ。

ダ・ヴィンチ殿は我が主が頼りにする高名な探偵だ」


アルベルトが静かに窘めるが、その瞳の奥には何かしらの焦燥が見え隠れしていた。

「ウミャア……」


ウララが、ハインリヒ男爵の足元に近づき、ふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。

そして、ハインリヒの影があるはずの床を、不思議そうに前足で叩いた。

「……おや?

ハインリヒ男爵、あなたの影……形が歪んでいませんか?」


ルカが声を上げ、全員の視線がハインリヒの足元に集中した。

ハインリヒの背後から伸びる影は、確かに彼の衣服の形をしていなかった。

それは、まるで巨大な『振り子時計』のような、規則正しい歯車の輪郭を持った影だった。

「な、なんだこれは!

私の影が……なぜこんな形に!」


ハインリヒが動揺して後退りする。

影は床の上でカチ、コチ、と音を立てるかのように、一秒刻みで不自然に左右に揺れていた。

「【画家】、展開」


俺の視界は瞬時に白黒の静寂に包まれた。

影の輪郭に刻まれた光の粒子を分析する。

この影は、ハインリヒ本人のものではない。

「この影は、別の場所に存在する『ある機械』の影が、魔術的な遠近法パースペクティブによってこの男の足元に投影されているだけだ。

つまり、本物のハインリヒ男爵の影は、すでに誰かに盗み取られている」


「影を盗む?

そんなことが可能なのか?」


ガルム隊長が唸る。

「ああ。

影とは存在の『陰影キアロスクーロ』そのものだ。

絵画において光と影を分離するように、優れた術者であれば、存在の明度だけを削ぎ落としてキャンバスに封じ込めることができる」


俺は、食堂に飾られている歴代領主の肖像画の数々を見上げた。

それらの肖像画の中に、奇妙な共通点を見出した。

すべての肖像画に描かれた人物たちの足元には、影が全く描かれていないのだ。

「アルベルト殿。

この肖像画を描いたのは誰だ?」


「……それは、代々の城廷画家にございます。

ですが、最後の肖像画が描かれたのは、約百年前……。

それ以降、城廷画家は途絶えております」


アルベルトは表情を崩さずに答えた。

「嘘ですね。

この肖像画のキャンバスの端に付着している絵の具の匂い、これは先ほど関所の道標で見つけた『水銀顔料』と完全に一致する。

アンド、この顔料の配合は、俺自身のスケッチブックに記されたレシピと全く同じだ」


俺の指摘に、食堂の全員が静まり返った。

「つまり、この城の『時間』を狂わせ、影を奪っている犯人は、俺の発明や絵画の技術を完全に模倣している。

いや、あるいは……」


俺は窓の外の深い霧を見つめた。

「未来の俺自身が、何らかの理由でこの惨劇を引き起こしているのかもしれないな」


不吉な仮説が、全員の胸に重くのしかかる。

事件は一度きりの殺人や盗難ではない。

過去と未来、光と影が複雑に絡み合う、巨大な『時の迷宮』。

俺たちは、その未完成のキャンバスの真っ只中に立ち尽くしていた。

第一のパズルはまだ、一枚のデッサンすら完成していない。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。

モンダーヴィオ城 

1部  [依頼書?そんなものは出していない] ローマ編


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ