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世界遺産 100万年前のイースター 7 ### 第7話:魔物の行進と獣の精霊神(キマイラ)

## 第一章:血に染まる原生林と狂乱の蹄音


国境の聖なる交易壇にて「法の精霊神・ジャスティス」を拘束から解放し、両大陸を支える等価性の力学を復元してから数日。破滅の冬至へと向かう世界の因果は、より具体的かつ凶暴な質量を伴って、私たちの前にその牙を剥き出しにしつつあった。


私の名はレオナルド・ダ・ヴィンチ。かつてフィレンツェの馬喰たちの喧騒の中で、馬の筋肉の複雑な連動を凝視し、あるいは鳥の尾羽の微細な動きから彼らの行動心理を解き明かそうとしていた、動物行動学の先駆者を自負する男だ。

だが、三十歳という肉体と知性の絶頂期を得てこの百万年前の並行世界「イースター」に転生した私は今、その科学者の眼と探偵の冷徹なる執念をすべて注ぎ込み、東の大陸「ギガンティア」の北方に広がる、黒き岩肌の剥き出しになった峻険たる山岳地帯に潜んでいた。


「レオナルド様……見てください。あんなにたくさんの恐ろしい魔物たちが、まるで一つの生き物のように整列して歩いています。でも、あの眼は……あれは生きてるものの眼じゃありません……!」


私の衣服の胸ポケットから、冷や汗に羽を濡らした妖精族の少女チッタが顔を出し、眼下の広大な谷底を指差して小さな身体を震わせた。

彼女の手には、風の精霊神シルフィードが宿る竪琴が、大気を伝わってくる異様な「脳波の不協和音」を感知して、キィキィと細く不快な警告音を立てていた。


「生物が自らの生存本能インスティンクトを失い、他者の意志に従うとき、そこには必ず自然の摂理を歪める『不条理な外力』が働いているのだよ、チッタ。私たちはその狂気のシステムを、解剖学的に解体せねばならない」


私は岩陰に巨躯を潜め、背負っていた音響増幅器の集音プレートを谷底へと向けた。


そこを埋め尽くしていたのは、私の記憶にある地球の生物の尺度を遥かに超越した、凶暴なる大魔物の軍勢であった。


翼を広げれば教会の尖塔をも覆い尽くす、火を吐く巨竜「ワイバーン」の群れ。


地中から巨岩を突き破って這い出してきた、胴体の直径が私の身の丈ほどもある、鋼鉄の甲殻を持つ大百足「メガ・ペード」。そして、三つの頭を持つ巨狼や、角に電撃を纏った巨獣たち。


本来ならば、彼らはそれぞれの縄張りを持ち、自らの生存のためにのみ戦う孤独な野生の王たちである。互いが出会えば血で血を洗う死闘が始まるはずの魔物たちが、今は不気味なほど整然と、ムルムル将軍の「ゴリアテの鉄槌」の軍旗の下、西の大陸リリパトスを侵略するための『生ける兵器』として行進させられていたのだ。


だが、チッタの言う通り、彼らの瞳には野生特有の爛々とした輝きは一切なく、ただ濁った紫色の「呪詛の光」が怪しく明滅していた。


「おいおい、ダ・ヴィンチの旦那。こいつは骨が折れそうだぜ。

魔物どもの脳髄に、ムルムルの奴が開発した禁忌の魔術の『毒の棘』が深く突き刺さっていやがる。

あいつらは自分の意志じゃなく、頭の中の痛みに怯えて歩かされてるんだ」


腰の鞘の中で、戦いと守護の精霊神が宿る愛剣クラレントが、激しい義憤の振動を私の脳内に響かせた。


「ああ。ムルムル将軍は精霊神の器物を溶かすだけでなく、生きている魔物たちの『野生の理』をも支配の道具として歪めたのだ。

第七の戒律『大地のすべての生ける血を、不当な戦いの道具とせぬこと』へ


の明確な違反。

これほどの規模の精神支配を維持するためには、生物たちの本能の根源を司る、もっとも高位の『野生の心臓』がどこかで利用されているはずだ」


私は集音器のダイヤルを細かく回し、魔物たちの行進の足音の奥底、空間の割れ目から聞こえてくる「真実の音」へと照準を合わせた。


## 第二章:獣の精霊神キマイラの涙と本能の拒絶


私が周波数を魔物たちの脳波の基本振動(アルファ波)へと同調させたその瞬間、私の頭の中に、野生のすべての悲哀と絶望が混ざり合った、凄まじい「咆哮」が叩き込まれた。


行進する魔物たちの影が不自然に長く伸びて互いに結合し、谷底の岩壁の表面に、ライオンの頭、山羊の胴体、そして蛇の尾を持つ、幻影の巨獣の輪郭が浮かび上がった。

しかし、その幻影の身体は、無数の黒い魔術の茨によって幾重にも縛り付けられ、三つの頭のすべての瞳からは、溶岩のように熱い「血の涙」が絶え間なく流れ落ちていた。


『……おお……知性の光を持つ者よ……我が子供たちの脳を、野生の誇りを救ってくれ……!』


その声は、森のすべての木々を震わせる咆哮でありながら、我が子を奪われた母親のような深い絶望に引き裂かれていた。


『我が名はキマイラ。このイースターの大地に生きるすべての魔物と獣の野生、そして生存の本能を司る「獣の精霊神」である』


「初めまして、野生の血統キマイラ


私は手帖を開き、魔物たちの瞳の発光パターンを素早く記録しながら語りかけた。


「君の子供たちが、自らの本能に反して破壊の道具として消費されようとしているのを見た。探偵として、私はこの不条理な大量洗脳のロジックを解き明かし、彼らを解放したい。彼らの脳に何が施されているのか、私に生物学的に教えてほしい」


キマイラの山羊の頭が、苦しげに角を突き上げた。


『ムルムル将軍の魔術師たちが、我が本体が眠る秘密の祭壇に『狂気の呪詛アンチ・インスティンクト』の楔を打ち込んだのです。

彼らは私の力を逆用し、魔物たちの脳内にある『恐怖と服従のスイッチ』を強制的に固定してしまいました。レオナルドよ……本能が狂わされれば、生物は単なる肉の機械と化します。

冬至の夜、私の子供たちは一切の痛みを忘れた肉弾(捨て駒)として、西の大陸の亜人たちを踏み潰すための最初の波壁として使われるでしょう。その戦いの後には、野生の絶滅しか残されていません……!』


「恐怖と服従の強制固定か。実に見事な、だが生命への最大の冒涜エラーだね」


私は羊皮紙の上へ、ワイバーンやメガ・ペードの脳の構造図と、彼らの聴覚神経に届いている魔術的支配波の「波形サイクル」を猛烈な速度で描き写していった。


生物の行動は、すべて脳内の微細な電気信号と、外部からの刺激への反応によって決定される。ムルムル将軍の洗脳術は、特定の魔術的「低周波」を大気中に流すことで、魔物たちの脳の判断力を麻痺させ、将軍の命令を「絶対的な生存命令」であると錯覚させていたのだ。


『……ああ……呪いの波が強まる……我が意識が、また子供たちを狂わせる……!』


キマイラの蛇の尾が激しく岩壁を叩いた瞬間、谷底を行進していたワイバーンの群れが一斉に空へと舞い上がり、その濁った瞳で岩陰にいる私の巨躯を捉えた。


彼らは大きな翼を羽ばたかせ、口内からフィレンツェのすべての建物を一瞬で灰にするほどの、超高温の獄炎ファイア・ブレスを吹き出しながら、私たちに向かって急降下してきた。


「チッタ、君は風の精霊神シルフィードの風を使い、ワイバーンたちの翼の周囲の空気密度を急激に変化させておくれ。彼らの滑空の揚力バランスを奪うんだ。クラレント、君は彼らの炎の熱量を吸収し、大気を凍らせて彼らの視界を遮断してくれ!」


『お安い御用だ、旦那! トカゲどもに、本当の空の飛び方を教えてやろうじゃねえか!』


クラレントが空中を乱舞し、ワイバーンたちが吐き出した獄炎をその刃で次々と吸収しては、絶対零度の冷気へと変換して大気中に放出した。熱気と冷気が激しく衝突し、谷底は一瞬にして一寸先も見えないほどの濃密な「白いウォーター・ヴェイル」に包まれた。さらにシルフィードの風が乱流を起こし、揚力を失ったワイバーンたちは互いに空中で衝突し、悲鳴を上げて地面へと不時着していった。


その濃霧の中、私は完全に自らの知性の内側へと潜り込み、彼らの洗脳を部分的に解除するための「音響兵器」を組み立てていた。


## 第三章:野生の覚醒「共鳴音叉レゾナンス・フォーク」の発明


「魔物たちの脳が、特定の低周波によって支配されているのなら、その支配波と完全に干渉し合い、彼らの脳の自立神経を強制的に覚醒させる、絶対的な『逆位相の高周波(目覚まし時計)』を作ればいい」


私は、背負っていた携帯用の工具箱から、東の大陸の「チタン鋼」と、先ほどのバルカンの戦いで得た「鉄の精霊神の聖鉄」を取り出し、その場で長さ数メートルに及ぶ、二本の巨大な「音叉フォーク」を鋳造し始めた。

万物は数であり、振動なのだ。


「生物の聴覚は、自らの縄張りを守るための固有の『共鳴振動数レゾナン・フリークエンシー』を持っている。特にワイバーンは高音の風の鳴り響きを、メガ・ペードは大地の細かな震動を嫌う」


私は音叉の表面に、顕微鏡でしか見えないほどの微細なスリットを幾何学模様のように刻み込んだ。


このスリットを風が通り抜けるたび、音叉は魔術的な支配波を物理的に相殺する、驚異的な調律波ウェイクアップ・コードを発生させる仕組みになっていた。


私は完成した、青白く輝く巨大な二本の音叉――**『理性の共鳴音叉レゾナンス・ディ・キマイラ』**を地面の岩盤へと深く突き刺した。


「チッタ、君の竪琴の出番だ。シルフィードの風を、この音叉の先端に向かって一気に叩きつけておくれ。この谷全体に、野生の本当の歌声を響かせるんだ」


「はい、レオナルド様! 魔物たちの心を取り戻すために……いっけぇぇぇ!」


チッタが竪琴のすべての弦を力強く掻き鳴らすと、一陣の爆発的な突風が巨大な音叉の隙間を駆け抜けた。


ウォォォォォン……!


空間そのものが震えるような、どこまでも透明で、そして大自然の威厳に満ちた「高音の響き」が、白い霧を吹き飛ばしながら谷底全体へと一気に拡散していった。


## 第四章:ゲリラ戦と野生の反逆カウンター・フォース


その調律波が魔物たちの耳へと届いた瞬間、行進していた軍勢の動きがピタリと停止した。


彼らの脳内に深く突き刺さっていたムルムル将軍の支配の波動が、音叉の放つ逆位相の共鳴によって分子レベルで相殺され、彼らの瞳を覆っていた不気味な紫色の濁りが、パラパラとガラスが割れるように剥がれ落ちていった。


「グルルル……!」

「ギャアァァァ!」


洗脳から部分的に目覚めたメガ・ペードやワイバーンたちが、自らの頭を激しく振り、周囲にいる「ゴリアテの鉄槌」の巨人の監視兵たちを、本来の「敵」として正しく認識し始めた。彼らの瞳には、野生の王としての誇りと、自由を奪われていたことへの凄まじい怒りの炎が燃え上がっていた。


『な、何ごとだ!? 魔物どもの制御が利かないぞ!』


『術式が逆流している! メガ・ペードが、俺たちの足場を崩し始めた!』


谷底の各地で、巨人の技術兵たちのパニックに陥った叫び声が響き渡った。


洗脳を解かれた魔物たちは、自分たちを縛り付けていた巨人の檻や装甲をその鋭い牙で噛み砕き、監視兵たちに向かって一斉に反逆の牙を剥いた。ワイバーンたちは巨人の兵士たちをその巨大な爪で掴んで虚空へと放り投げ、メガ・ペードは地中を激しくのたうち回り、巨人の戦車の車輪を次々と粉砕していった。


「作戦は第一段階成功だ、チッタ」


私はノートに、洗脳が解除された魔物たちの行動パターンを素早く記録しながら告げた。


「彼らの洗脳は完全に解けたわけではない。ムルムル将軍の本陣にあるキマイラの本体(祭壇)が解放されない限り、この効果は一時的なものだ。

だが、これで敵の『生ける兵器の軍勢』は完全に機能不全に陥った。彼らは西の大陸へ進軍する前に、自らの足元で暴走する野生の反乱を鎮めるために、多大な兵力と時間を浪費せねばならなくなる」


『……おお……レオナルド……子供たちの魂に、光が戻った……』


岩壁の幻影キマイラの三つの頭が、救われた喜びの咆哮を上げ、その身体を縛っていた黒い魔術の茨が、音叉の響きによって次々と弾け飛んでいった。


『ありがとう、知性の巨人よ。お前が示してくれた生物の理は、我が野生の血統を絶滅の淵から救い出した。

これで、冬至の夜にムルムルが如何なる凶獣を繰り出そうとも、我が本能のネットワークを通じて、彼らの牙を巨人の陣営そのものへと向けさせることができるでしょう』


「私の方こそ感謝するよ、キマイラ。君の子供たちの脳波データのおかげで、私が建造している**『理性の調律器シンフォニア・ディ・ラジョーネ』**の第五層――『本能同調回路アニマ・レギュレーター』の構造が完全に完成した。これで敵の軍勢が発するすべての殺意を、そのまま彼らの精神を恐怖で麻痺させるための『調和の障壁』へと変換する数式が整ったよ」


「レオナルド様、やりましたね! 魔物のみんなが、自分の心を取り戻してくれて、本当に良かったです!」

チッタが私の手のひらに戻り、涙を拭いながら満面の笑みで飛び跳ねた。


## 第五章:野生のノートと、冬至への布石


私はチッタを肩に乗せ、怒れる野生の凱旋を背に、再び東の大陸の我が工房への帰路についた。

今回のゲリラ戦の勝利は、単に敵の兵力を削っただけではない。

ムルムル将軍がもっとも自信を持っていた「圧倒的な魔物の質量による蹂躙」という犯行プロットを、生物の行動心理と音響工学の力によって完全に瓦解させたことを意味していた。生命の野生とは、力で支配するものではなく、その本来の誇りを敬い、調和させるものなのだ。


工房に戻った私は、すぐさま机に向かい、**『理性の調律器』**の第五の巨大な歯車の噛み合わせを完了させた。

机の上の「大白斑の日時計」の針は、時の精霊神クロノスの加護によって、カチリ、カチリと、さらに未来の決戦の日へと向かって正確なリズムを刻み続けている。時間は私たちの知性を祝福するように進んでいる。


「ギガ・ムルムル将軍よ、君がどれほど生ける命を侮り、牙を集めようとも、野生の本能はすでに私の数式の中に調律されている。君が西の大陸を蹂躙せんと魔物たちに行進を命じたその瞬間、君のその凶暴なる兵器そのものが、君たち自身の傲慢さを噛み砕く最大の反逆の牙となるのさ」


レオナルド・ダ・ヴィンチの万年筆は、次なる真理の生命の幾何学を求めて、百万年前のイースターの闇を、どこまでも冷徹に、そして人類の知性の究極の優雅さを以て、美しく描き出し続けていた。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。

よろしくお願いします。

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