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【紅き孤高の狼、レッドウルフ(Red Wolf)編】 第五部:『月夜の還元と赤き余韻(決行直後〜大団円)』

【紅き孤高の狼、レッドウルフ(Red Wolf)編】

第五部:『月夜の還元と赤き余韻(決行直後〜大団円)』

よろしくお願いします

【紅き孤高の狼、レッドウルフ(Red Wolf)編】

第五部:『月夜の還元と赤き余韻(決行直後〜大団円)』


「屋上だ! 屋上に怪盗レッドウルフがいるぞ! 全員、階段を上がれぇぇっ!!」


ローマ市警の警部による錯乱した怒号が、重厚な石造りの回廊に激しく反響していた。 手に銃や長槍を構えた数十名もの警備隊員たちが、重い甲冑の音をガタガタと鳴らしながら、ボルゲーゼ美術館の最上階へと続くらせん階段を雪崩のように駆け上がっていく。


二階の『サファイアの間』に残されたガラスケース。 そこには、四十年間展示され続けていた精巧なガラスの偽物ではなく、満月の青白い光を浴びて神々しく深く青い輝きを放つ、正真正銘の**本物の『真夜中のサファイア』**が静かに佇んでいた。

そしてその横には、ヴァレンティーノ伯爵たちの不正を暴き、本来の所有権がボルゲーゼ美術館にあることを証明する本物の鑑定書と、流麗な筆致で書かれたレッドウルフからの感謝状。


怪盗レッドウルフは、警察が六十四時間という膨大な時間をかけて築き上げた『鉄壁の重警備網』そのものを光と影のレンズへと仕立て上げ、指一本触れることなく、密閉されたガラスケースの中へ本物の至宝を「返還(すり替え)」してみせたのだ。


「レオナルド! 私たちも急ぎましょう! レッドウルフが屋上から逃げてしまうわ!」


見習いから正規へと昇格した探偵助手、フランチェスカが、銀色の甲冑を夜光に跳ね返させながら、見えない長剣の柄に手をかけて叫んだ。

その腕には、ふさふさとした極上のグレーの毛並みを誇るペルシャ猫の『キララちゃん』が抱きかかえられている。


「みゃあ!」 キララちゃんも気高く首筋を伸ばし、夜の気配を察知して激しく鳴いた。


「先生、屋上へ続く幾何学アーチの扉が開放されています! 上空の風の光波長が、急速に乱れています!」


俺のもう一人の直属の探偵助手、結晶族の少年ルカが、自身の透き通る結晶体を青白く発光させながら、階段の踊り場で鋭く指摘した。


「慌てるな、二人とも。レッドウルフの描く下絵デッサンは、まだ最後の一筆を残している。急がずとも、奴は俺たちが来るのを待っているさ」


俺――レオナルド・ダ・ヴィンチは、コートの胸元で愛らしくサファイアブルーの瞳を輝かせる純白のシャム猫『ウララちゃん』の頭を優しく撫でた。


「ふにゃあ……」 ウララちゃんは満足そうに喉を鳴らし、俺の胸元で小さな鼻先をすり寄せてくる。


俺たちは万能スキル【画家ピクチャー】のモノクローム視界を研ぎ澄ませ、警察官たちの後を追うようにして、満月の冷たい光が降り注ぐボルゲーゼ美術館の最高峰――最上階屋上テラスへと足を踏み入れた。


屋上テラス――そこは、ピンチョの丘の頂から帝都ローマの夜景を一望できる、吹き抜けの壮大な高台であった。 雲ひとつない夜空には、冴え冴えとした満月が巨大な銀貨のように浮かび、遠くバチカンの大聖堂や古代の円形劇場コロッセオのシルエットを静かに浮かび上がらせている。


テラスの周囲には、追いついた数十名の警察官たちが銃を構えて半円状に包囲網を敷いていた。 しかし、誰一人として一歩も前へ踏み出すことができずにいた。


テラスの最先端――夜空へと突き出たギリシャ風の装飾彫刻の最頂点に、一人の男が立っていたからだ。


背には、血のように鮮やかな赤色を誇る『長いマント』。 顔には、月光を浴びて妖しく光る『銀と赤の狼の仮面』。 初夏の夜風を受け、赤いマントがパサリ、パサリと優雅な音を立てて夜闇に翻っている。


「う、動くな! レッドウルフ!」

警部が血走った目で銃口を向け、声を震わせながら叫んだ。


「お前のトリックはすべて破破られた……いや、お前が何をしたかは分からんが! とにかく本物のサファイアはケースの中に戻された! お前の負けだ! おとなしく手を挙げて投降しろ!」


警部の滑稽とも言える叫び声に、夜空の最頂点に立つ赤き狼は、緩やかに肩を揺らして笑った。


「フフフ……負け、かね? 警部どの」


その声は、低い低音でありながら、夜風に乗ってテラスにいる全員の耳奥へと心地よく染み渡るような、圧倒的な気品と美学に満ちていた。


「私は最初から予告したはずだ。『真夜中のサファイアを連れ去る』とな。四十年前、強欲なる権力者によって暗闇へと連れ去られていた『真実の輝き』を……今夜、私はこの館の正しき場所へと連れ戻したのだよ」


「な……なにを詭弁を! お前は怪盗だ! 窃盗犯だ! 警察を愚弄し、まんまと盗みを働いた犯罪者なのだぞ!」


警部が引き金をかけようとした、その時だった。


「そこまでにしてもらおうか、警部殿」


俺はコートの胸元から炭筆を取り出し、静かな足取りで警察官たちの包囲網を割り開いて前へ出た。


「ダ、ダ・ヴィンチ殿……! なぜ止めるのです!? 奴は目と鼻の先にいるのですよ!」


「警部、お前のその鉄砲の弾は、奴の服の裾にすら掠りもしないよ。なぜなら……奴がこの屋上に立った瞬間から、このテラス全体が奴の『光と影の反転キャンバス』に変貌しているからだ」


俺の言葉に、最頂点に立つレッドウルフが、仮面の奥の瞳をサファイアのように輝かせて口元を微かに緩めた。


「流石だな、万能の天才探偵レオナルド・ダ・ヴィンチ。私のパースペクティブ(構図)を、そこまで克明に読み解いてくれる者がこの時代に居ようとは……実に光栄な夜だ」


「レオナルド……! レッドウルフの反転キャンバスって、どういう意味なの!?」

フランチェスカが見えない長剣を構えながら尋ねた。


「簡単なことさ、フランチェスカ。奴がこの屋上に現れてから、月光の角度、テラスの白大理石の反射光、そして奴が手に持っているあの『一輪の赤い薔薇』……。それらすべてが、警察諸君の目と意識を一点に釘付けにするための『完璧な焦点デコイ』として機能しているのだよ」


俺が炭筆で月光のラインを指し示すと、助手のルカが息を呑んだ。


「あ……! 警察の人たちが構えている銃の影……! 影の向きが、月光の位置と微妙にズレています! 目の前に見えているレッドウルフの姿は……本物ではなく、下層の屈折鏡から投影された『完璧な立体光像ホログラム』です!!」


「な……なにぃぃぃっ!?」 警部と警察官たちが一斉に驚愕し、目の前のレッドウルフの姿を見つめ直した。


「フフフ……察しが良い助手殿だ。だが、完全な虚像というわけでもないよ」


ペディメントの上のレッドウルフが、胸元から本物の『一輪の赤い薔薇』を取り出し、それを指先で優しく弄んで見せた。


「私は確かにここに居た。そして、探偵殿……君と直接言葉を交わしたかったのだよ。四十年の時を経て、この館に正しき光を取り戻す……私の『六十四時間の絵画』の最後の鑑賞者としてね」


「レッドウルフ……」

俺は膝の上のウララちゃんを優しく撫でながら、虚像と実像が交差する赤き影を見つめた。


「お前の描いたシナリオは見事だったよ。六十四時間という膨大な時間を予告することで、警察自身に展示室の中に強烈な投光器とミラーを設置させ、完璧な『カメラ・オブスキュラ(暗室屈折装置)』を作らせた。

そして決行の時刻、正午から満月へ至る光の屈折率の交差点を利用して、ガラスケースの分子構造を一時的に透過させ、外部から本物のサファイアを光の波に乗せてケースの中へ還した……」


「その通りだ、ダ・ヴィンチ殿」

レッドウルフが優雅に一礼した。


「美しき芸術は、特定の権力者や強欲な個人の金庫の中で死蔵されるべきではない。それは広く人々の目に触れ、心を豊かにするために存在する。私はただ、奪われていた『真夜中の青』を、人々の元へ還したに過ぎないのさ」


「ですが! あなたのやったことは法を無視した不法侵入であり、警察を混乱させた大罪です!」

フランチェスカが凛とした声で一歩踏み出した。


「おや、気高き騎士の嬢ちゃん。法とは何のためにあるのかな? 真実を隠蔽し、偽物を人々に拝ませるための法ならば……私は喜んでその法を破る悪党オウルフとなろう」


「くっ……!」

フランチェスカは言葉を詰まらせたが、その瞳にはレッドウルフの放つ美学に対する、確かな敬意の色が混ざっていた。


「さあ、月が一番高く昇る刻だ。私の舞台の幕を降ろすとしよう」


レッドウルフが手にした一輪の赤い薔薇を、夜空へ向かって静かに掲げた。


「警察諸君。四十年前の不正を裁くのは、君たちの仕事だ。ヴァレンティーノ伯爵と、悪徳館長たちの罪の証拠は……下層の修復室の金庫の中に、鑑定書と共にすべて残してある。正しき法を執行したまえ」


「な……なにっ!? 不正の証拠まで残してあるだと!?」

警部が目を見開いた。


「では、探偵殿、そして美しき助手たちよ。またいつか、世界のどこかで光と影の不調和が生まれた時……再び相まみえよう!」


レッドウルフが一息で赤い薔薇の茎を吹き折った瞬間――!


フッ……!


先ほど展示室でも起きたような、朱色の眩い拡散光粉末が屋上テラス全体へと爆発的に広がり、警察官たちの視界を真っ赤な煙幕で覆い尽くした!


「うああああっ! またあの赤い煙だ! 撃て! 逃がすな!!」

警部が錯乱して叫び、数発の銃声が夜空に虚しく響き渡った。


「みんな、目を閉じろ! 光の拡散粉末だ!」

俺の警告に、フランチェスカとルカは素早く服の袖で顔を覆った。


「ふにゃあ!」 「みゃあ!」


ウララちゃんとキララちゃんが、同時に夜空へ向かって高く、力強く鳴き声を上げた!


数秒後――夜風が吹き抜け、赤い煙幕が綺麗に晴れ去った時。


彫刻の最頂点ペディメントの上には、もう誰も居なかった。 そこにはただ、月光を浴びて一筋の風に揺れる……一枚の『赤いマントの切れ端』と、一輪の葉を落とした薔薇だけが静かに残されていた。


「に、逃げられた……! またしても怪盗レッドウルフに逃げられたあぁぁっ!!」


警部が膝から崩れ落ち、頭を抱えて夜空へ向かって叫んだ。


だが、その顔にはどこか、巨大な悪事を暴いてくれた怪盗に対する、妙な安堵の表情も浮かんでいたのだった。


翌朝――。 雲ひとつない澄み渡った初夏の太陽が、帝都ローマとピンチョの丘を神々しく照らし出していた。


昨夜の喧騒が嘘のように静まり返ったボルゲーゼ美術館。 開館と同時に、特別展示室『サファイアの間』には、ニュースを聞きつけた大勢の市民や芸術ファン、そして報道陣が押し寄せていた。


ガラスケースの中に鎮座するのは、四十年の時を経て正しき場所へと還ってきた、本物の国宝――『真夜中のサファイア』。


朝日を浴びたその宝石は、深く、吸い込まれるような紺色の光輝を解き放ち、訪れた人々から感嘆と惜しみない拍手が湧き起こっていた。


「見て、レオナルド……! 本物のサファイアの光って、本当に綺麗な青色なのね……」


展示室の壁際で、フランチェスカが銀の甲冑を優しく輝かせながら、うっとりと宝石を見つめていた。 その腕の中では、ペルシャ猫のキララちゃんが「みゃあ」と満足そうに喉を鳴らしている。


「ああ。ジャンニ老人の作ったガラスも精巧だったが……数百年の地球の息吹が育んだ天然の本物の結晶には、光の奥に『命の波長』が宿っている。だからこそ、見る者の心を打つのさ」


俺はコートの胸元で愛らしくサファイアブルーの瞳をキラキラと輝かせるウララちゃんの頭を撫でながら答えた。


「先生、速報です!」 ルカが新聞の号外を手に駆け込んできた。


「ヴァレンティーノ伯爵と、旧美術館関係者たちが、四十年前の国宝盗難および横領の容疑で、ローマ市警によって一斉に逮捕・拘留されたそうです! レッドウルフが残した証拠書類が決定打となったみたいです!」


「フフ……案の定だな。警察諸君も、これで少しは面目が保たれたというわけだ」

俺は炭筆をポケットに収め、満足げに笑った。


「ひえええっ! あっしも今回の事件では、光が眩しくて目が潰れるかと思ったっすよ! でも、盗みじゃなくて本物を戻す怪盗なんて、世の中には粋な奴がいるもんっすねぇ!」


行商人のコップが、犬耳をパタパタと揺らしながらホッと胸を撫で下ろした。


「さあ、みんな! 探偵としての素晴らしい仕事も無事に終わったことだ! マルコ店長の待つ『老いたる跳ね馬亭』へ帰って、特製のジェラートと冷えた葡萄ジュースで盛大な祝杯をあげようじゃないか!」


フランチェスカの明るい呼びかけに、ルカやコップ、そして周囲にいた自警団の面々も一斉に笑顔で賛同した。


「ふにゃあ」 「みゃあ」


俺の胸元のウララちゃんと、フランチェスカの腕のキララちゃんが、どこか誇らしげに声を揃えて可愛らしく鳴いた。


六十四時間にわたる、探偵ダ・ヴィンチと怪盗レッドウルフの美しき知恵比べ。 『真夜中のサファイア』は正しき輝きを取り戻し、帝都ローマに再び平和と光と影の完璧な調和キアロスクーロが戻ってきた。


俺たちは輝く初夏の陽光を浴びながら、住み慣れたあの酒場への帰路につくため、気高きボルゲーゼ美術館の巨大な門を後にするのだった。


赤き孤高の狼が残した美しき余韻と、風の中にそっと溶けた薔薇の香りを、胸の深くに残したままで。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

リアクションボタンもよろしくお願いします

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

パラレルワールドで魔法と多種族の住む異世界でスキル無しで探偵します。

ローマ編も追加しています。17時投稿です!

よろしくお願いします。

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