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第五話  シベリア

 第五話    シベリア



 日曜日、愛留が部屋でのんびりと過ごす。

 「暇な日曜日だ…… こんな時に慎ちゃんが来てくれたらな~」



 すると、 『ドンッ―』という音とともに慎之介がやってきた。


 「いたた……」 慎之介が腰を押さえていると

 「慎ちゃん?」 愛留は目を丸くする。



 「なんだ、愛留か…… また愛留の時代に来てしまったんだな……」

 困った顔をする慎之介は、どこか嬉しそうだ。


 「慎ちゃん、何してタイムスリップしたのよ……?」

 「いや~ 早くに城の仕事が終わって、縁側で昼寝をしていたら落っこちてな……」 慎之介が恥ずかしそうにしていると


  「なかなかのマヌケさんなのね……」 愛留は苦笑いをする。


 「それより愛留、あのシュワシュワのあるか?」 慎之介が訊くと

 「シュワシュワ? あぁ、コーラね」 愛留はキッチンにコーラを取りに行く。



 「これこれ♪ すっかり頭から離れなくてな~」 慎之介はニコニコしてコーラを飲み始める。


 (すっかり現代にハマったな……) 愛留はニヤッとした。



 「少し、愛留の時代の町並みを見てみたいのだが……」 慎之介は、お菊から外食をしたことやプリクラを撮ったことを聞いていたのだ。


 「そっか、慎ちゃんは外に出ていなかったね。 行こうか」 二人は外に出掛けようとするが、


 「ストップ! 慎ちゃん、刀はダメ! ここに置いていって」 愛留が慌てて止める。


 「どうしてだ? 武士たる者、刀は命と一緒だぞ」

 「それは江戸時代! 今は令和ですから」 愛留が強く言うと、慎之介は渋々と刀を置いていく。



 そうして外に出ると、慎之介はブツブツ言っている。

 「何かあったら守ってやれなくなるぞ……」


 「いや、戦もなければ山賊もいませんから……」 愛留は苦笑いになってしまった。



 そして着いたのは駅前の喫茶店。


 「パスタとピザでも食べてみる?」 愛留はメニューを広げて選んでいると、

 「ぱすた? あぁ、お菊が言っていたやつ! 俺も食べたい」 慎之介は目を輝かせる。



 「すみません。 これと これと…… 最後にこれ!」

 愛留が注文していると慎之介は周りをキョロキョロしている。


 周りの客も慎之介をチラチラと見ていた。


 (確かに侍じゃ、見るよね……)



 そうこうしている間に料理がやってくる。

 「どうぞ、慎ちゃん」


 「いただきます」


 慎之介が初めてのパスタを口にすると、

 「おぉ…… これがパスタかぁ 味が濃いけど美味い♪」 慎之介は、パスタとピザを完食してしまった。


 「こちらが最後のタピオカでございます……」 店員が持ってくる。


 「これこれ♪ だいぶ置いている店が少なくなったけど、ここは置いているのよね~♪」 愛留が飲み出すと、慎之介は目を強ばらせている。


 「どうしたの?」 愛留がキョトンとすると、

 「愛留、それ蛙の……」 「それ以上言わない!」 愛留は察したようだ。



 「あ~ 満足した♪」 慎之介は満腹で喜んでいる。

 (なんだかんだで慎ちゃん、タピオカも全部飲んだし)


 「しかし、あれは何だ?」 慎之介が指をさす。


 「あれは車、自動車とも言うのよ。 その奥には駅があって、電車も走っているの」


 「なんだか時代の移り変わりって凄いな…… 見たこともない者ばかりだ」

 そして、慎之介が周りを見ながら歩いていると


 「慎ちゃん、前―」 慌てて愛留が慎之介の腕を掴むが、慎之介と愛留は電柱にぶつかった。



  “チリンッ―”


 同時に二人の鈴が鳴ると

 「いてて…… ここは?」 慎之介がキョロキョロする。


 「なんか寒い……」 愛留が身体を震わせている。



 「あそこに人が……」 愛留と慎之介が走りだすと、そこには馬に乗った外国人がいた。


 「#%○&△?」 聞いた事もない言葉にポカンとする二人。

 すると馬に乗った外国人がムチを振る。



 「いかん! 逃げるぞ、愛留」 慎之介は愛留の腕を掴んで走り出す。 二人は森の中へ逃げ込んだ。


 そして森を抜けると鉄の柵があり、その奥には小屋があった。

 「愛留、あそこにも馬に乗ったヤツがいるぞ」 慎之介が耳打ちをすると、二人は裏手に回った。


 (何? この臭い……) 愛留が鼻をつまむ。 そこは小屋の裏手、便所などがある場所だった。


 「厠だな……」 慎之介も顔をしかめると、そこに一人の男がやってくる。



 「何をしているんだ?」 男が話しかけると、

 「日本語……あなたは日本人ですか?」 愛留は驚いたように返事をする。



 「早く逃げろ! 殺されるぞ」 男が慌てて手を払う仕草をすると、

 「ここはどこなんだ?」 慎之介が訊く。


 「ここは、誰かがシベリアとか言ってたな……」


 シベリア抑留……昭和二十年頃、日本は第二次世界大戦で敗北。 ソ連(ソビエト連邦)は武装を解除され無抵抗の日本兵や民間人を拉致し、モンゴル北部のソ連の領土へ連行していた。


 その数、五十七万五千人にのぼると言われていて

 寒さや飢えなど、厳しい環境下の中で日本人は働かされていた。


 「ゲホッ ゲホッ」 男が咳をする。 押さえた手には血が付いていた。


 「大丈夫ですか?」 愛留が声を掛けると

 「なに…… こうやって何人もの人が亡くなったんだ…… 怖くないよ」 男がニコッと微笑む。



 「しかし、このままでは死んでしまう。 早く出よう!」 慎之介が柵を引っ張る。


 「辞めておけ。 ここでは無駄だ。 こうして日本語で外の人と話せたことを嬉しく思うよ」 男は涙を流す。


 「そんな……」 愛留も涙を流し始めると、

 「俺は 田中 徹治って言うんだ」 男が自己紹介をする。



 「私は、愛和 愛留…… こちらは慎之介さん」 愛留が紹介すると

 「そうか、その服装だと今の人じゃないんだな?」


 「はい。未来からやってきました。 私達の頃は平和で幸せな毎日を送れています。 それはきっと、田中さんのような方々が築いてくれたんですよね……」


 愛留は涙が止まらなくなっていた。

 慎之介は黙って下を向いている。



 「そうか…… 先の日本は平和なんだね。 もし、生きて日本に帰れたら見てみたいな……」


 田中が笑顔を見せた瞬間だった。


  “ドンッ―” 田中の顔に血が付く。 後ろからソ連兵が発砲していたのだ。


 「田中さん―? 田中さん―」 愛留が声を掛けるも、田中は仰向けに倒れたまま返事をしなかった。


 ソ連兵が叫びながら愛留たちの方へ走ってくると

 「愛留、逃げるぞ!」 慎之介は愛留を引っ張り逃げていく。



 冬のシベリア。 辺りは雪しか見えない。

 段々と距離が近くなり、 「捕まるっ……」 覚悟をしたときに二人は崖になっていた場所から転げ落ちてしまう。



  “チリンッ―”


 鈴の音が聞こえた瞬間、愛留は自分の部屋に落ちていた。


 「いたた……」 愛留は起き上がり、自分の部屋を見回す。

 (帰って来たんだ……)


 しかし慎之介はいなかった。


 「慎ちゃん、自分の時代に帰れたかな?」 そんな心配をしつつ、椅子に腰を掛ける。


 (田中さんが無事に日本に戻れたか分らない…… ネットで探してみようかな)


 愛留はパソコンデスクを向き、椅子を回転させる。

 そこには、残っていた雪が小さく部屋に溶けていった。



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