第4話 将軍謁見
第四話 将軍謁見
愛留は学校に来ていた。 「体育の授業って、どうしてダルいんだろう……」 愛留がボヤいて居る場所は体育館の倉庫。
「ボヤくな、ボヤくな」 親友の里美が手伝っている。
愛留は当番で、ボールを出す係になっていた。
「しかし、バレーボールくらい自分で出せ!ってのよ」 愛留がボールを出しているとき、思わずボールを踏んでしまう。
「キャッ―」 愛留が声を出した時、 “チリンッ―” 鈴の音が聞こえてしまう。
(まさか?) その瞬間、愛留は体育館の倉庫から姿を消してしまった。
「大丈夫? ……って消えた? ちょっと愛留?」 里美はキョロキョロする。
『ドンッ―』 「痛いー」 愛留は尻餅をついていた。
「まったくドジな私……」 愛留が立ち上がると、見慣れない場所に来ていた。
そこは大きな部屋に、畳が敷かれている大部屋だった。
「あれ? ここ何処?」 愛留がキョロキョロしていると、
「何やつ?」 そこには豪華な衣装の男性が立っていた。
「あれ? ここは?」 愛留が男性に訊くと、 「貴様こそ誰じゃ?」 男性が刀を抜こうとしている。
「ちょっと、ストップ~」 愛留が手を前に出すと、男性は止まる。
「んっ? 貴方様は、もしかして殿様?」 愛留が聞くと、
「いかにも…… して、そなたは?」
その問いには愛留も困った顔をして
(未来から来たって言って通じるかしら……?) そんな事を思いながらも、
「すみません。 未来から来た者で、決して怪しい者じゃ……」 愛留は一生懸命に説明をする。
「未来じゃと? 尚更、怪しいじゃないか……」
「本当ですってば~」 愛留が言っても聞いてもらえず、侍たちに連行されてしまう。
牢屋に入れられた愛留は、これからの事を考えている。
(もしかして死罪? 張り付けとか勘弁よ)
そこに牢屋の看守がやってくる。
「妙な真似はするなよ」 看守が睨むと
「すみません、これだけ教えてください。 あのお殿様は誰ですか?」
愛留が訊くと、看守は驚いたようで
「お前、そんな事も知らずに城に入ってきたのか? 将軍様も知らずに、よく来られたな……」 看守は呆れている。
その後、看守が休みに入ると再び殿様がやってくる。
「殿様!」 愛留が声をあげると、 「しーっ」 殿様が指を縦にする。
「そなた、未来から来たと言ったな?」 「はい……」
「名は何て申す?」 「愛和 愛留です…… 貴方様は?」
「儂は八代将軍だ」 男性は周りの気配を感じながら答えると
「八代将軍って、徳川 吉宗様―?」 愛留は驚いて、声が大きくなった。
「静かにしろ!」 吉宗は慌ててしまう。
「それで、くノ一ではないんだな?」 吉宗が訊くと、愛留は頷く。
「静かに。 貴様が知っていることを話せ」 吉宗は愛留の目を見る。
愛留は頷き、近い未来を話し出した。
「吉宗様は、噴火などから災害にあった地域の復興のため、また西日本の大飢饉により享保の改革をしました。 それで目安箱を設置したりして庶民から愛された将軍様と聞きました」
愛留は数日前、歴史の授業で聞いた事を話す。 それと祖母が好きだった『暴れん坊将軍』もよく観ていた。
「よく知っているな…… 貴様が生きた時代はいつなのだ?」
「この時代から三百年ほど先なのですが……」
「そんな先まで私の名前が出ているのか?」 吉宗が驚いていると
「えぇ、とても倹約家で食事も一汁一菜とか……」 愛留が答える。
「まぁ、たまに つまみ食いもしたがな」 吉宗が笑って見せると
(それは知りたくなかったわ……) 愛留は思ってしまう。
「そこまで知っているなら、暗殺などではなさそうだな……」
「何も道具なんか持っていませんし……」 愛留はクルッと回って見せると
「刀なども持たずに城に入ったということか……」
「はい。タイムスリップというヤツでして……」 愛留が困った顔をすると
「明朝、釈放してやる。 今晩は大人しくしておれ」 そう言って吉宗は部屋に戻っていった。
翌朝、看守が愛留のもとにやってきて
「無罪だ。 速やかに城を出られよ」 そう言って、城から出された。
そして城の周りを歩き、武家屋敷が並ぶ所を歩いていると
「愛留? 愛留じゃないか?」 声を掛けてきたのは慎之介だ。
「慎ちゃん―」 愛留は慎之介に抱きついた。
「ちょっ― 私には菊が―」 とても愛妻家の慎之介である。
「とにかく家へ……」 慎之介は愛留を家に連れて帰ったのだが、
「あれ? 慎ちゃんの家って尾張じゃ……」
「あぁ、参勤交代で江戸に来ているんだ。 そこそこの役職なので、屋敷が渡されているんだよ」 慎之介が説明する。
「そっかぁ……」 愛留は膝から力が抜けていく。
「大丈夫か? お菊―」
そこから愛留は脱力から眠ってしまった。
目を覚ますと 「うん? ここは……?」 愛留がキョロキョロする。
「あれ? お菊さん?」
「良かった~ 気づかれて。 愛留さん、ずっと眠っていたのよ」
「おっ! 気がついたか」 慎之介が笑顔でやってくると
「慎ちゃん、ごめんね……」 愛留はショボンとする。
「そんな顔をするな。 こうして、また会えたのだからな。 それで、何をしていたんだ?」 慎之介が訊くと、
「将軍様に会ってたのよ」 愛留が説明をする。
「はい? どうやって拝謁できたんだ?」 慎之介がアタフタしていると
「タイムスリップして江戸城に入っちゃったみたいでさ……」
「江城……とんでもない所タイムスリップしてしまったな……」 慎之介が同情すると、
「でも、慎ちゃんやお菊さんの顔を見たら安心しちゃって……」
そんな会話をして、夕食をご馳走してもらう。
「すみません」 愛留が温かい食事にホッとしていると
「お怪我がなく安心しました」 そこに若い男性が部屋にやってくる。
「この者は、私の雑務をする与六だ。 何かあれば与六か お菊に言ってくれ」 そう言って慎之介は寝所に向かっていった。
江戸時代は寝るのが早い、 朝も早いのだが健康的なサイクルである。
「愛留さん、おやすみなさい」 菊も頭を下げていく。 こうして二日が経ってしまった。
翌朝、愛留は慎之介に挨拶をする。 慎之介は庭で木刀を使い、刀の鍛錬をしていた。
「愛留、早いな……」 慎之介も気づき、挨拶をすると
「愛留、危ない―」 愛留は縁側で足を踏み外した。
「キャッ―」 声を出した瞬間だった。
“チリンッ―” 鈴の音が鳴ると、一瞬で愛留が消えてしまった。
遠目で見ていた与六が走ってくる。
「あれ? 今、愛留様が居たと思ったのに……」 与六が言うと、慎之介は苦笑いをする。
(話しても信じられないだろうし、まぁいいか……)
愛留は体育館の倉庫に落ちてきた。
「おかえり……」 冷めた声で里美が出迎える。
「里美~」 愛留は半泣きで抱きつくと、 「どこに行ってたの?」 里美は真剣な表情で愛留を見る。
「実は……」 愛留は里美にタイムスリップの事を話した。
「へ~ それで、暴れん坊将軍はどうだったの?」 里美が訊くと、
「それが全然! 細い人だったし、優しい人だった」 愛留は楽しそうに話した。
「そうなんだね。 てか、体育の授業が始まっちゃうから急ごうよ!」 里美と愛留がバレーボールを運んでいくと、
「あれ? ひとつ足りないかも……」 愛留が気づく。
その頃、江戸城では
「これは変わった蹴鞠じゃな…… いつの間に」
吉宗はバレーボールを持って不思議そうな顔をしていたのだった。




