第3話 慎之介、来たる
第三話 慎之介、来たる
菊とタイムスリップしたことにより、二人は激しく動揺している。
「お菊さん、その格好じゃ注目を浴びちゃう……」
菊は江戸時代の着物を着ており、髪も昔の髪結いをしている。 どう見てもマニアな人か、何かの撮影と思われてしまう事を考えた。
(私も、最初は撮影だと思ったしね……)
愛留は、菊を連れて自宅に入った。
「ただいま~」 愛留が声を出すと、 「遅かったのね……」 奥から母の俊子がパタパタと玄関までやってくる。
「おかえり……って、その娘は?」 俊子が目を丸くすると、
「友達なの。 少し、部屋に寄ってくことになって……」 愛留が答える。 そして菊の腕を掴み、部屋に案内をした。
(随分、古風な友達ね……) 俊子はポカンとしている。
「すみません。 なんか騒がせてしまって……」 菊が困った顔をすると、
「ううん。 大丈夫よ♪」 愛留は笑顔で菊を落ち着かせている。
「それで、ここはどこ?」 「ここは私の部屋よ」
「まさか? 愛留さんの部屋ってことは……」
「そっ♪ 私が生きている時代。 つまり、お菊さんが生きていた時代から三百年くらい先の日本なのよ」 愛留が説明しても、菊の思考が追いついていなかった。
「本当だったのね…… タイムスリップと言っていたやつ……」 菊は愛留の部屋を見回している。
「せっかくだから、未来の時代を楽しみましょ♪」 愛留が言うと、菊はニコッとするが、不安な表情も出ていた。
すると、一階から愛留の母親の俊子の声がする。
「愛留、お母さん出掛けるから洗濯をお願い」
「はーい」
「じゃ、早速……」 愛留が菊を誘い、脱衣所に向かう。
「これは……?」 菊が見たことのない物体に驚いていると、
「これが洗濯機。 ここに洗濯物が入っているから洗剤を入れます」
“ピッピッ”
「はい、終わり」 愛留がドヤ顔をする。
「あの、愛留さん…… 終わりって……?」 菊がポカンとする。
「あ、何か動きました……」
「これね。 勝手に洗濯して、終わったら教えてくれるのよ」
愛留が説明すると、菊は涙を流す。
「お お菊さん?」 愛留が驚いていると、
「だって、冬の寒い時に川で洗濯をしなくていいと思うと……」
(確かに、しんどいわな~) 愛留が苦笑いをする。
それから掃除機や冷蔵庫など、現代では普通になっている物を見せていく。
「なんて未来とは素晴らしいのでしょう…… 愛留さん、これを持って帰りたいのですが」 菊の目は本気だが
「持って帰っても、電気がないから使えないのよ……」 愛留は現実を伝える。
(家の中の物をお菊さんに渡したら、お母さん怒るしね……)
「そうだ! お菊さん、お腹空かない?」 愛留が訊くと、菊が頷く。
愛留がニコッとすると、二人はファミリーレストランに向かった。
「あの……ここは……?」 菊は初めての場所に動揺していると、
「ここはファミレスと言って、江戸時代だと料理茶屋ってとこかしら……」
愛留は学校で習った記憶を思い出し、それっぽく答えていく。
「お菊さんは現代の食事なんか知らないもんね……私が選んでもいい?」 愛留が店員を呼ぶと、注文を始める。
「なんか、時代が違うと落ち着かないわ……」 菊がソワソワしていると料理が運ばれてくる。
「おまたせしました。 オムライスとミートソースパスタ、パフェでございます」 店員が皿を置いていくと、
「おむ…… ぱすた…… ぱふぇ?」 菊は聞いた事もない料理が理解できずにいる。
「まぁまぁ、食べてみて」 愛留が言うと、菊がオムライスを食べる。
「まぁ、美味しい♡ こんなに卵を使って……」 菊は驚きながらもオムライスを頬張る。 菊が生きている時代、玉子が一個500円ほど。 実に貴重だったのだ。
「これはフォークを使って……」 パスタも食べ、パフェも食べていく。
「うわぁ 愛留さん、本当にありがとうございます」 菊は満足したようだ。
「いいえ~ 喜んでもらえて嬉しいです」 愛留も満足な表情だった。
食事を終えて外に出ると、
「せっかくだから記念に撮ろうよ」 愛留がプリクラの機械を指さす。
「これは?」 「これはプリクラって言うのよ」 愛留が説明すると、「ぷりくら……」 菊が不思議そうな顔をする。
「なんだかワクワクしますね♪」 二人でポーズを決める。
そして写真が出てくると、
「随分と精巧に出来た絵ですね~」 菊の時代には写真がない。 世に出てきたのは菊の時代から百年近く後の話だ。 これには菊も驚いている。
「記念にね♪」 愛留は切って菊に渡すと、
「大事にしますね♡」 と、喜んでいた。
それから愛留の部屋に戻ると、
「愛留…… 菊もいたか。 良かった……」 慎之介が膝を落としていた。
「慎ちゃん?」 愛留が驚くと、
「慎ちゃん……?」 慎之介と菊が驚く。
「あ~『ちゃん』って、親しい人に言ったりするのよ」 愛留が説明すると、
「俺の時代だと、最初に『お』を付けたりするのと同じかな? 菊を呼ぶときには『お菊』と呼ぶからな……」 慎之介は落ち着いてきたのか、上手に説明をする。
「でも、どやって この時代に来たのよ?」
「あぁ、それなんだがな……」 慎之介は、富士山が噴火したことで慌てて家に戻ってきたらしい。 そこで菊を探していたら小石が飛んで来た所に鈴の音が聞こえたようだ。
「そうしたら、この部屋に落ちてきたんだ…… 見たこともない部屋の造りで焦っていたら二人が来て……」
「そっか。 これが私の部屋なの。 それで、鈴って?」
「鈴か? 俺の羽織のここ……」 慎之介が羽織の裏をめくって見せると
「あれ? 私と同じ鈴……」 愛留が驚く。 同じ鈴を慎之介が持っていたのだ。
「慎ちゃん、それはどこで?」
「俺は、先祖から渡されてきていると聞いたんだが……」
愛留も祖母から貰ったもので、不思議と運命を感じてしまった。
こうして落ち着いた頃、
「なんか喉が渇くな。 たくさん話したからかな?」 慎之介が喉を押さえると
「飲み物を持ってくるね」 愛留はキッチンに向かい、コーラを運んできた。
「愛留……そんな泥水を……」 慎之介が不快な顔をすると、菊の表情も強ばっている。
「これはコーラと言って、美味しいんだから♪」 愛留がコップに移し、飲み始める。
「じゃ、いただくか……」 二人も飲み始めると
「ブーッ!」 慎之介がコーラを吐き出した。
「喉が―」 叫ぶ慎之介の横で菊も咳き込む。
(あー 炭酸なんてないもんな……) 愛留は静かに謝った。
「しかし、慣れてくると甘くて美味しいな……」 慎之介は二杯目を飲んでいた。
そして時間が過ぎ、慎之介がソワソワする。
「慎ちゃん、どうしたの?」 愛留が聞くと、
「厠なんだが……」 「かわや?」 愛留はポカンとする。
(んっ? 厠…… そうだ!トイレだ!) 愛留は思い出したようで、階段から下を案内すると
「わっ!?」 足を滑らした慎之介と菊が叫ぶ。
階段で “チリンッ―” 鈴が鳴った瞬間に二人は消えてしまった。
「慎ちゃん? お菊さん?」 愛留が呼ぶが返事はなかった。
(まさかのタイムスリップ……)
こうして愛留は、久しぶりの自宅を満喫していくのであった。
(まさか江戸時代の友達が出来るなんて思わなかったよ~)




