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第1話 愛留の鈴

 第一話    愛留めぐるの鈴



 夏の風が身体にまとわりつく。 蝉の声がうるさいくらいの時間に、ある一家が病院に来ていた。



 「おばあちゃん、大丈夫?」

 こう話すのが、愛和あいわ 愛留めぐる 16歳。 高校一年生だ。


 「どうだろうね…… お婆ちゃんも歳だからね」 弱気になって言うのが祖母の愛子である。


 愛子は身体を壊し、入院して三ヶ月になる。



 「お母様、まず休んでくださいね……」 愛留の母親である俊子は、そう言って部屋を出ようとすると


 「愛留…… ちょっと」 愛子は愛留を呼び止め、手招きをする。

 「お母さん、先に出てて」 愛留が言うと、俊子が病室から出て行く。



 「おばあちゃん、どうしたの?」 愛留が顔を近づけると、

 「お前に渡しておこうと思ってね」 愛子は、布団から手をだして愛留に鈴を渡す。


 「鈴……?」 愛留が不思議そうな顔をすると、

 「この鈴はね、変わった音色の時に……」


 その時、愛子の容体が変わっていく。



 「おばあちゃん? おばあちゃん?」 愛留が声を掛けても返事をしない。 愛子の苦しそうな顔を見ると、「誰か―」 愛留が大きな声を出す。



 「どうしたの?」 俊子が病室に入ってくる。

 「おばあちゃんが―」 愛留は、ベッドにあるナースコールを無心で押した。




 2時間後のことだった。

 「あなた……」 俊子の旦那であり、愛留の父親の春男が病院に駆けつける。


 「ううぅぅ……」 愛子は生涯を閉じた。



 通夜、葬儀などを経て愛留は一週間ぶりに学校へ行った。


 「愛留……」 友人の里美が駆け寄ってくる。

 「里美……」 愛留が小さな笑みを見せると、里美はホッとした表情になる。



 「愛留、お婆ちゃんが好きだったもんね……」

 「うん、最後に立ち会えて良かったよ……」


 こんな慰めとも言える会話をしている時、

 「これ、どうしたの?」 里美が指を指す。


 「これ、おばあちゃんが最後に渡してくれた鈴なんだ。 最後に「音色が変わった時に……」って言って亡くなったの。 結局、何のことだか分からなくてさ」


 愛留は鈴を振って見るが、『カラカラ……』としかいわない。


 「古そうだし、イマイチな音ね……」 里美は苦笑いになるが、

 「ま~ おばあちゃんが渡してくれたから大事にしたいんだ」 そう言って、愛留はスマホのストラップとして身につけていく。



 そして学校帰り、愛留はスマホを見ながら下校している。

 (仏壇に供える饅頭でも買おう。 どこの店がいいかな……) そんな調べ物をしている時、大きなクラクションが鳴り響く。


 「えっ?」 愛留が顔を上げると、一台の車が愛留の方に突っ込んでくる。



  “キイィィン ” 耳鳴りのような音が鳴り、


  “チリンッ……”

 これは、愛留が聞いた最後の音だった。



 交差点で赤信号から青に変わるのを待っていた愛留。 そこに突っ込んできた一台の車。 大破した車のボンネットからは煙は上がっていた。



 「どうした―?」 交差点には多くの人が駆け寄ってくる。 そして顔面が蒼白になった運転手が降りてきて


 「やっちまった…… ここにいた女の子は?」 運転手は車の下を覗き込むが誰もいない。


 慌てて周囲を見るが、飛ばされた様子もない。


 「どこに行ったんだ……」 運転手はヨロヨロと歩いて探し回っている。

 警察が来て、運転手は事情聴取をされる。


 「それで、轢いた女の子は?」 警察が聞くと、

 「私も探していまして……」 運転手は泣き出してしまう。


 その後、運転手は救急車で病院に搬送された。




 「いてて……」 愛留が意識を取り戻す。

 「あれ? 車に轢かれて…… ここ、どこ?」 愛留は周辺をキョロキョロする。


 「なんで草むらに? 確か、駅前の交差点で車に轢かれて……」

 愛留は独り言を言いながら、汚れた服を手で払っていく。



 すると、草むらの奥から人の声が聞こえてくる。

 (誰か居るのかな?) 愛留はそっと草をかき分けて様子を見てみると、



 「観念しろ!」 という声が聞こえてくる。


 (何これ?) 愛留の目に入ってきたのは、腰を抜かした男と斬りかかろうとしている男がいた。


 「わっ― わっ―」 愛留は驚き、声をあげてしまう。

 すると、声に気づいた刀を持った男が愛留の方を見る。


 「やべっ― 撮影の邪魔しちゃった」 愛留は腰を低くし、撮影の邪魔にならないように隠れる。


 「邪魔が入ったか…… 命拾いしたな」 刀を持った男は、足早に去っていった。



 男が去った後、愛留が頭を下げて出てくる。

 「すみません…… 撮影の邪魔をしてしまいまして……」



 「撮影? 何のことだ? こちらこそ命を救ってくれて、かたじけない……」

 腰を抜かしていた男は愛留に頭を下げる。


 (助けた? 私が? 車に轢かれそうになった時、誰かを助けたっけ?)

 愛留は気が動転していて、思い出せていなかった。


 「とにかく、礼をしたい。 こちらへ……」 愛留は理解が出来ないまま、男が案内する方へ歩いていく。


 「私は坂田さかた 慎之介しんのすけと申す。そなたは?」


 「そなた?って、私? 私は愛和 愛留と言います」

 「めぐる殿か…… もう少しだ。 さ、さっ」 慎之介は、笑顔で愛留を案内すること20分。 そこには江戸家屋のような家があった。



 「あの…… 私、何でここに? エキストラか何かで出されるのでしょうか?」

 愛留が訊くと、

 「えきす……何だって? よく分からないが、此処が私の家だ。 さっ、入ってくれ」


 愛留から見ると、慎之介は30代半ばくらいに見える。 誠実そうな男性だった。


 (こんな役者、いたかしら……) 愛留はテレビが好きだが、観たことのない俳優だな……としか思っていなかった。


 すると、奥から女性の声が聞こえる。

 「おかえりなさい。 遅かったです……ね」 奥から出てきた女性は、愛留を見ると言葉を詰まらせる。


 すると、女性の声が低くなり 「そちらの女性かたは?」

 慎之介を睨む。


 「さっき、辻斬りが出ての…… この方が助けてくれたんだ」 慎之介がニコッと微笑み、説明をすると


 「まぁ…… これは失礼しました。 さっ こちらへ……」

 女性は家の中に案内をする。



 「あっ、すみません……」 愛留も頭を下げ、居間に進んでいく。



 女性がお茶を持ってくると、愛留が頭をさげて茶を飲む。


 「さっきは助かった。 めぐる殿は、どちらへ行かれるのか?」 慎之介が訊くと、

 「おばあちゃんの仏壇に饅頭を供えようと、駅前の店に向かっていました。 そしたら車が突っ込んできて、皆さんの撮影の邪魔までして、本当にすみません……」


 愛留は何度も頭を下げるが、

 「えきまえ…… くるま…… さつえい……」 慎之介は言葉を繰り返し、ポカンとしている。


 (なんつー顔しているのよ。 誰でも分かる単語じゃないのよ) 愛留は慎之介の表情に腹が立ってきていた。


 (でも、撮影の邪魔したんだから文句も言えないか……)


 すると、慎之介の横に座っていた女性が話し出す。

 「大丈夫ですか? 日も暮れてきましたし、今夜はお泊まりください」 女性が微笑むと、 「それがいい…… 休んでいかれよ」 慎之介が微笑む。



 「私は、慎之介の妻で菊と言います」 菊は膝を付けて挨拶をする。

 「私は 愛和 愛留です」 愛留も正座をして挨拶をすると


 「めぐる様なんて、珍しい名前ですね。 では、夕餉ゆうげの支度をしてまいります」

 そう言って、菊は台所へ向かっていく。



 「あの…… ここは?」 愛留が訊くと、「ここは尾張だが……」 慎之介が答える。


 「終わり?」 (はぁ……やっぱり私は車に轢かれて死んでいたのね……)

 愛留は涙を流すと、


 「愛留殿? いかがされた?」 慎之介がアタフタしだす。


 「どうされました?」 奥から菊がやってくると、


 「やっぱり慎之介さん……」 菊が慎之介を睨む。

 「違う! 聞け、お菊!」 慎之介が慌てると、 「問答無用です」 菊は大声で叫びながら慎之介の頬を叩く。



 「んっ? このシーン、迫力あるな~」 愛留は、まだ撮影だと思っていた。



 そして、愛留が拍手をする。 (なかなか、こんなシーンは見れないから)

 そんな愛留を見て、慎之介と菊は固まってしまう。



 そして、食事をしながらお互いの事情を話すと

 「何やら、最初から違っていたようだな……」 慎之介が理解を示す。



 「それで、愛留殿は何処から来たのかな?」 

 「はい。 吉祥寺ですが?」 愛留が答える。


 「ここは、尾張なのだが……吉祥寺とは?」 慎之介がポカンとしていると、

 (終わりじゃなく、尾張…… まさか、これって本物??)

 愛留の顔が青ざめていく。



 (どうして? これは何時代?)


 「今、何年ですか?」 愛留が慎之介に訊くと

 「今か? 享保四年だが……」


 「享保四年……」 愛留が下を向く。 

 「愛留殿……?」 慎之介が顔を覗き込むと、


 「今の将軍は誰ですか?」 慌てたように愛留が訊く。


 「将軍様か? 紀州の吉宗様だが……」 

 「あの暴れん坊将軍か……」 愛留は、祖母の付き合いでよく時代劇を観ていた。



 「何のことだか知らないが、それがどうした?」 慎之介と菊はポカンとしている。


 (よく分からないが、死んだ訳じゃなく江戸時代に来てしまったのね……)

 意外にもドライに頭を整理していく愛留であった。



 「なんか楽しいわ~ でも、もうよい五つ…… 油も高いし、寝ましょう」

 菊が言うと、布団が敷かれていく。 宵五つ……夜、十九時から二十一時。



 「なんか、すみません。泊めてもらって……」 愛留は礼を言うと、布団に入っていった。



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