第六話 最強の助っ人と、スマホの中の決定的瞬間
平和な時間は、長くは続きませんでした。 その日の放課後。日和が月菜と一緒に校門を通りかかると、そこには昨日の「あの制服」が、またしても遙斗を呼び止めていました。
「……また、あの子だ」
日和は反射的に、近くの太い樹の陰に隠れました。 他校の女子生徒は、昨日よりも必死な表情で遙斗に詰め寄っています。
「遙斗さん! 一度振られたくらいじゃ、私、諦められません! だって、あの幼なじみの人は、いつも遙斗さんに冷たいじゃないですか! 私の方が、絶対に遙斗さんを笑顔にできます!」
隠れて聞いている日和の胸に、鋭い痛みが走りました。 (……そうよね。あの子の言う通りだわ。私、いつも遙斗にバカばっかり言って……)
日和が自分の不甲斐なさに俯き、涙をこらえたその時でした。 隣にいる月菜が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて一歩踏み出したのです。
「ちょっと失礼。外野がうるさいから、お姉さんが教育してあげようかな」
「えっ、月菜!? 待って……!」
日和の制止も聞かず、月菜は颯爽と遙斗たちの間へ割り込んでいきました。 突然の乱入者に、遙斗も他校の女子も目を丸くします。
「誰ですか、あなた……」
「あはは、私はただの『二人の一番の理解者』よ。君、さっきから見てれば、日和が冷たいとか、遙斗を笑顔にできないとか、勝手なことばっかり言っちゃって。……何も知らないんだねぇ」
月菜はそう言うと、制服のポケットからスマホを取り出し、画面を女の子の目の前に突きつけました。
「ほら、これ見て。昨日撮ったばっかりの、ホカホカの最新作よ」
画面に映っていたのは、一つの傘の下、肩をぴったりと寄せ合って歩く遙斗と日和の姿でした。 しかも、日和が恥ずかしそうに遙斗の袖をギュッと掴んでいる、あの決定的瞬間。
「え……っ、なにこれ……」
絶句する女の子に、月菜の猛攻は止まりません。
「ひよちゃんはね、素直になれないだけなの。この二人の間には、君が一生かかっても入り込めないような、深ーい『約束』があるんだから。ねぇ、遙斗?」
月菜がチラリと遙斗を見ると、彼は顔を赤くしながらも、どこか嬉しそうに頷きました。
「うん。……おれの隣は、世界で一人、あいつにしか譲るつもりはないんだ」
「……っ、そんなの……っ!」
他校の女の子は、スマホの中の「幸せそうな二人の空気感」に圧倒され、泣きそうな顔で走り去っていきました。
「ふぅー、一件落着! 隠れてないで出てきなよ、ひよちゃん!」
月菜が樹の陰を指差すと、そこには顔を真っ赤にして、茹で上がったタコのように震えている日和がいました。
「る、月菜……! あんた、なんてことしてくれたのよぉ!」
「いいじゃん、これで邪魔者は消えたんだから! 感謝してよね?」
「責任取ってって言ったのは日和だろ?」と笑う遙斗に、日和は「遙斗と月菜のバカ!」と叫ぶことしかできませんでした。
けれど、日和の心の中には、月菜が見せてくれたあの写真の自分が、驚くほど幸せそうだったことが焼き付いていました。日和と遙斗、そして月菜の3人しか知らない「結婚の約束」。 それを守るために、月菜が動いてくれたことが、日和には恥ずかしくも、ほんの少しだけ心強かったのです。




