第五話 放課後の証拠写真と、親友の包囲網
昨日の雨が嘘のように、窓の外には突き抜けるような青空が広がっていました。 けれど、日和の心の中は、いまだに昨日の「雨の日の記憶」で波立っています。
狭い傘の中で触れ合った、遙斗の肩の逞しさ。 自分にだけ向けられた、少しだけ低くて甘い声。 そして、無意識に彼の袖をギュッと掴んでしまった、自分の指先の感触。
(……あんなの、夢だったって思いたいのに)
下駄箱で靴を履き替えていると、背後から忍び寄るような足音が聞こえました。
「ひよちゃん、おっはよー! 昨日は『いい雨』だったねぇ?」
心臓が跳ね上がりました。振り返ると、そこには三日月のような目でニヤニヤと笑う月菜が立っていました。小学校での出会いから数年、日和が最も恐れている「月菜の直感」が、今朝も冴え渡っています。
「……おはよう、月菜。何のことよ、意味がわからないわ」
「とぼけちゃって。私の目は節穴じゃないんだよ? ほら、これ」
月菜が突き出してきたスマホの画面には、衝撃的な光景が映し出されていました。 一つの青い傘に身を寄せ合い、まるで世界に二人きりしかいないような雰囲気で歩く、自分と遙斗。 そこには、普段の「ツン」とした日和ではなく、少しだけ肩をすくめて、頼りなげに遙斗の袖を掴んでいる「女の子」な日和の姿がバッチリと記録されていました。
「なっ……! なんでこれ……! 月菜、あんたストーカーなの!?」
「失礼な。塾の帰りにコンビニに寄ったら、偶然『映画のワンシーン』みたいな二人が歩いてきたから、指が勝手にシャッターを切っちゃったんだよ」
月菜は楽しそうにスマホを胸に抱えました。
「いいよねぇ、この袖を掴む指。サクラの約束から10年。ついに『ツン』が崩れる歴史的な瞬間ですよ、これは!」
「け、消して……! 今すぐ消しなさいよ! 月菜のバカ!」
日和が顔を真っ赤にして奪い取ろうとしますが、月菜はひらりとかわします。
「ダメ。これは二人の結婚式の披露宴で、私が友人代表のスピーチをする時に、特大スクリーンで流すんだから」
「結婚……っ!?」
その言葉に、日和は一瞬だけ言葉を失いました。 あの時交わした指切り。まだ「恋」も「結婚」も本当の意味を知らなかった、あの純粋な約束。 月菜にからかわれることで、その約束が現実味を帯びて迫ってくる感覚に、日和の顔は火が出るほど熱くなりました。
そこへ、何も知らない遙斗が背後から現れます。
「おはよう、二人とも。朝から元気だね。……日和、昨日はちゃんと温まって寝たか? 風邪引いてない?」
昨日と変わらない、真っ直ぐすぎる優しさ。 その笑顔を見るだけで、昨日の傘の中の距離を思い出してしまい、日和はパニックに陥りました。
「……っ、バカ遙斗! あんたのせいで、変な写真撮られたじゃない! 責任取ってよ!」
「えっ、写真!? なんのこと……あ、待ってよ日和!」
日和は逃げるように廊下を走り出しました。 後ろで「あはは、今日もツンデレ絶好調だねぇ」と笑う月菜の声と、「日和ー! 責任取るって何のことー!?」と叫ぶ遙斗の声が響いていました。




