第四話 雨の日の相合い傘
(……なによ、あの子。遙斗にラブレターなんて)
他校の女子に手紙を渡されていた遙斗の姿が、頭から離れません。 放課後の昇降口。日和は激しく降り出した雨を眺めながら、ギュッと胸のあたりを握りしめました。
「日和。……まだ怒ってるの?」
背後から、聞き慣れた、けれど今は少しだけ聞きたくない声がしました。 振り向くと、そこには自分の青い傘を手にした遙斗が立っていました。
「……怒ってないわよ。ただ、あの子に返事しなくていいのかなって思ってただけ」
「返事ならさっき断ったって言っただろ? おれには、あの日からずっと決めてる人がいるんだから」
遙斗はそう言うと、当然のような顔をして、日和の隣で傘を広げました。
「ほら、これに入って。……このままじゃ、日和が濡れちゃう」
「……別に、走って帰るからいいわよ。遙斗こそ、その大事な手紙が濡れないように守ってればいいじゃない」
わざと突き放すような言い方をして、日和は雨の中へ飛び出そうとしました。 けれど、それを遙斗の大きな手が制止します。
「ダメだよ。風邪ひくし。……それとも、俺と帰るのいや?」
日和は黙り込み、促されるままに狭い傘の下へと入りました。
一歩歩くたびに、遙斗の肩が日和の肩に触れます。 日和が感じていた「他の誰かに取られるかもしれない」という不安が、彼の体温を感じることで、じわじわと甘い痛みに変わっていきました。
「……ねぇ、遙斗」
「ん?」
「……あの子のこと、可愛いと思った?」
ポツリと、我慢できずに溢れた言葉。 遙斗は少しだけ驚いたように目を見開き、それから、いたずらっぽく笑いました。
「……日和、それって嫉妬?」
「ち、違うわよ! ただの確認! バカ遙斗!」
日和は顔を真っ赤にして、遙斗の脇腹を軽く小突きました。 遙斗は「痛いなぁ」と笑いながらも、傘が日和の方へしっかり傾くように持ち直しました。
「……おれにとっては、ツンツンして怒ってる日和が、世界で一番かわいいよ」
「……っ、うるさい」
日和は遙斗の制服の袖をギュッと掴みました。 雨の音にかき消されそうなほど小さな声で、「……ありがと」と呟きながら。
あの刺さるような嫉妬は、彼の隣にいる安心感で、少しずつ溶けていくのでした。 けれど日和はまだ気づいていません。 二人の後ろで、月菜がすべてを見守りながら、楽しそうにスマホのカメラを向けていることに。




