第二十話 十年の先、永遠の約束
控室の窓から差し込む朝の光は、今日という日を祝福するようにどこまでも透き通っていた。 鏡の中に映る自分は、白いレースとシルクに包まれ、まるで自分ではない誰かのように見える。
「……ふぅ」
ひとつ、深く息を吐き出す。 心臓の音が、ドレスの胸元を小さく揺らしているのがわかった。 嬉しいはずなのに、なぜか指先が少しだけ冷たい。そんな心地よい緊張感に包まれていた、その時だった。
コンコン、と控えめながらも確かな音でドアが叩かれた。
「日和、準備できたか? ……って」
入ってきたのは、タキシードをビシッと着こなした遙斗だった。 いつも見慣れているはずの彼。けれど、凛とした正装に身を包んだ姿は、今日という日の特別さを改めて突きつけてくる。
日和の姿を見た瞬間、彼は言葉を失い、月菜の予言通りにふらりとよろけた。
「……日和、お前……綺麗すぎて、心臓止まるかと思った」
その呆然とした表情が可笑しくて、同時にたまらなく愛おしくて。日和の口元から、自然と笑みがこぼれ落ちる。
「ふふ、大げさね。……遙斗こそ、すごく似合ってるわよ」
二人の間に流れる空気は、あの頃よりもずっと深く、確かな甘さに包まれていた。 遙斗はゆっくりと歩み寄ると、まだ何もはめていない日和の左手を、壊れ物を扱うようにそっと取った。
「……10年前のあの画用紙、覚えてるか?」
少し掠れた彼の声が、幼かったあの日の記憶を呼び覚ます。
「忘れるわけないじゃない。……今日のために、ずっと大切に持ってたんでしょ?」
「あぁ。……今からあそこで、あれを本物にするんだな」
遙斗の視線が、サイドテーブルに置かれた小さなベルベットの箱へと向けられた。 中には、これから二人が誓い合うための結婚指輪が二つ、静かに並んでいる。
「あの時はおもちゃの指輪だったけど……今度は、一生外れないやつを贈るから」
バージンロードの先で、遙斗が日和を待ち構えています。 そしてついに、静寂の中で指輪が交換されました。
日和の指に、遙斗の手で指輪が滑り込みます。 ひんやりとしたプラチナの感触と、それをはめてくれる遙斗の手の震え。
「日和。これから一生かけて幸せにする。おれの隣は、死ぬまでお前だけのものだから」
「……当たり前でしょ。私の隣も、ずっと遙斗だけなんだから」
二人は顔を見合わせ、幸せそうに笑いました。 10年前、桜の下で交わした小さな指切り。 それは、たくさんの不安や遠回りを経て、世界で一番甘くて、絶対に破れない「永遠の約束」になったのでした。
(完)




