第十五話 崩れる仮面と、痛いくらいの独占欲
「……日和」
低く、ひび割れた声。 その場に似つかわしくない、冷ややかな空気を纏った遙斗が、ゆっくりと二人のもとへ歩み寄ってきました。
日和は心臓が止まるかと思いました。いつも太陽のように笑っている遙斗の瞳が、今は暗い夜の底のように冷たく沈んでいます。
「……遙斗? 部活の朝練は……」
「そんなのどうでもいい。お前……何してるんだ、ここで」
遙斗の視線が、日和の隣にいる悠真を射抜きました。悠真は一瞬だけ気圧されたような表情を見せましたが、すぐに日和をかばうように一歩前へ出ます。
「何って、見ての通りだよ。日和ちゃんが泣きそうな顔をしてたから、話を聞いていただけだけど」
「お前が聞く必要はない。……部外者は、すっこんでろよ」
「部外者? ……君こそ、日和ちゃんが今、どうしてこんなに苦しんでるか分かってないんじゃないの?」
悠真の静かな、けれど芯の強い言葉が遙斗の逆鱗に触れました。遙斗は悠真を無視して、日和の腕を強く、けれど拒絶を許さない力強さで掴みました。
「っ……痛い、遙斗……!」
「戻るぞ、日和」
「ちょっと、放してよ! 遙斗には関係ないじゃん!」
「関係ないわけないだろ! おれが……おれがどれだけお前のことを……」
遙斗の言葉が途切れます。その瞳には、怒りだけではなく、今にも崩れそうなほどの「不安」が滲んでいました。 日和を避けていたはずなのに、いざ自分以外の誰かの隣で笑う彼女を見たら、心の中の何かが音を立てて壊れてしまったのです。
「……行かせないよ。日和ちゃん、嫌がってる」
悠真が遙斗の肩を掴み、制止しようとしたその瞬間でした。
「二人とも、そこまでにしなさい!」
中庭に、鋭い月菜の声が響き渡りました。 全力で走ってきたのか、肩を大きく上下させている月菜が、三人の間に割り込みます。
「月菜……」
「遙斗、あんたその手! 日和が痛がってるでしょ、放しなさい!」
月菜に一喝され、遙斗はハッとしたように指先の力を緩めました。日和は自由になった腕をさすりながら、震える瞳で遙斗を見つめます。
「……はぁ、全く。どいつもこいつもバカばっかり。悠真くん、悪いけど今日はもう帰って。このバカ 2人のことは、私がなんとかするから」
月菜の気迫に押され、悠真は少し悔しそうにしながらも「……分かった。日和ちゃん、また明日ね」と言い残し、その場を去っていきました。
静まり返った中庭。 月菜は、今にも泣き出しそうな日和と、顔を青くして立ち尽くす遙斗を交互に見て、深くため息をつきました。
「……さて。遙斗、あんたに言いたいことが山ほどあるわ。……覚悟はいい?」
月菜の「お節介」という名の救済が、今、始まろうとしていました。




