第十四話 牙を剥く親愛、あるいは宣戦布告
月菜の低い声が、放課後の教室に響きました。 鼻歌を歌いながら遙斗の机を片付けていたさらなは、動きを止め、ゆっくりと月菜の方を振り返りました。その顔には、相変わらずの無垢な笑顔が張り付いています。
「やりすぎって……何が? 遙斗くん、荷物置いたまま探しに行っちゃったから、綺麗にしておいてあげようと思って」
「そういうこと聞いてんじゃないの。……あんた、屋上で日和に何言ったわけ?」
月菜は一歩、さらなとの距離を詰めました。いつもは明るく振る舞っている月菜ですが、その瞳には親友を傷つけられた者の、鋭い光が宿っています。
「日和ちゃんに? 別に、普通にお話ししただけだよ。『付き合ってないなら、私が彼女になってもいいよね』って。……だって、本当のことでしょう?」
さらなは小首をかしげ、事もなげに言いました。その迷いのない言葉に、月菜は鼻で笑います。
「ふん。付き合ってなきゃ何をしてもいい、ね。……あんたさ、二人の『10年』を、たった数日で追い越せると思ってるわけ?」
「10年でも20年でも、名前がないなら同じだよ。……今の遙斗くんを不安にさせてるのは、思い出にすがって逃げてる日和ちゃんでしょ? 私は、今の遙斗くんを笑顔にしたいだけ。それのどこが悪いの?」
さらなの正論に近い攻撃に、月菜は拳をぎゅっと握りしめました。さらなは続けます。
「月菜さんも、日和ちゃんの味方のつもりなら、早く教えてあげたら? 『もう、あなたの居場所はないよ』って」
「……あんた、本当にいい性格してるわね」
月菜は冷たく言い放つと、さらなの脇を通り抜け、カバンを掴みました。
「でも、残念だったわね。……遙斗がどれだけ馬鹿でも、遙斗の『特別』は最初から決まってんのよ。あんたがどれだけ隙間に入り込もうとしても、そこ、鉄壁だから」
月菜はそれだけ言い残し、教室を飛び出しました。 向かう先は、日和と遙斗がいるはずの中庭。
一方その頃。 中庭の入り口で、日和と悠真が親しげに話す姿を、遙斗は拳を白くなるまで握りしめて見つめていました。 昨日、日和を不安にさせてしまった自覚はある。でも、自分以外の男子に、あんなに穏やかな顔を見せるなんて――。
「……日和」
低く、ひび割れた声。 その場に似つかわしくない、冷ややかな空気を纏った遙斗が、ゆっくりと二人のもとへ歩き出しました。




