第十一話 放課後の密談と、突きつけられた現実
放課後。 ホームルームが終わっても、日和は席を立つことができず、ぼんやりと窓の外を眺めていました。
「ねぇ、日和ちゃん。……ちょっと、いいかな?」
不意に声をかけられ顔を上げると、そこにはクラスメイトのさらなが立っていました。いつも明るい彼女にしては珍しく、少しだけ真剣な、決意を秘めたような瞳をしています。
「……さらなさん? どうしたの?」
「屋上で、二人だけで話したいことがあるんだ。……ダメかな?」
日和は戸惑いながらも、月菜と遙斗が部活や委員会で席を外しているのを幸いに、さらなの後を追って屋上へと向かいました。
オレンジ色に染まり始めた屋上。風が少し冷たく感じられます。 さらなはフェンスを背にして立ち、まっすぐに日和を見つめました。
「日和ちゃん。……単刀直入に聞いてもいいかな? 日和ちゃんと遙斗くんって、付き合ってるの?」
心臓がドクンと跳ねました。一番触れられたくない場所に、さらなの手が伸びてきたような感覚。
「……え? それは……」
「みんなは『付き合ってるに決まっている』って言うけど、私、本人に確かめたくて。二人は、そういう正式な関係なの?」
日和は言葉に詰まりました。 10年前の約束はある。でも、今、二人は付き合っているわけではない。告白されたこともなければ、恋人らしい契約を結んだこともない。何より、今の遙斗がその約束を覚えているかすら分からない。
「…………ううん。付き合って、ないわ」
日和は、自分でも驚くほど小さな声で、けれどはっきりと答えました。 今の自分たちの関係は、ただの「幼なじみ」という名前の付いた、形の無いもの。
「……そっか。教えてくれてありがとう」
さらなは一瞬だけ驚いたような顔をしましたが、すぐに前を向いて続けました。
「私、遙斗くんのことが好きなの。だから……付き合っていないなら、私が彼女になっても問題ないよね? これから、本気で遙斗くんにアタックしてもいいかな」
さらなの言葉は、濁りのない真っ直ぐなものでした。 日和は何も言えず、ただ小さく頷くことしかできませんでした。
さらなが去った後、一人残された屋上で、日和は膝を抱えて座り込みました。 「付き合っていない」という事実を、自分の口で認めてしまった重み。 そして、さらなのように真っ直ぐに想いをぶつけられない自分と、約束を忘れてしまったかもしれない遙斗。
(……このままだと、遙斗は本当に行ってしまうのかもしれない。私じゃない、誰かのところへ……)
今まで遙斗が注いでくれていた無自覚な愛情が、いつか自分から消えてしまうかもしれない。 募る不安に、日和は溢れそうになる涙を必死にこらえていました。




