⒊王都での仕事
パーティの後、男性から求婚の手紙がやって来るーーーーなんて事はなく。
父ノルマンからは美人なのになんでだろうな?なんて言われて軽く落ち込んだ。
ロレーヌ領は王都からさほど離れていないが、小さな領地なので、その中で美人の部類でも王都では通じないんだな、とヴェラリアは身に沁みて実感した。
(もういっそ、平民の誰かと…)
自室で刺繍を施しながらそんな事を考えていた時だった。扉がノックされ、侍女が入ってくる。
「ヴェラリア様、ノルマン様がお呼びです。」
「分かったわ。」
パーティでの成果ゼロの話は既に終わっているし、なんの呼び出しかしら、と考えながら父の執務室に向かう。
「やあ、すまないね。実は突然なんだが、ひと月ほど王都で仕事が入ったんだ。」
「へぇ、どんな仕事ですか?」
「魔術管理部門の記録係に欠員が出てね、大急ぎで人員募集しているが最短でも1ヶ月は採用にかかるらしい。」
「大変ですね。」
「悪いがヴェラリア、行ってくれないか?」
「え⁇私ですか?エミルではなくて?」
エミルは弟の名前だ。
何故有能な弟ではなく、自分なのか?ヴェラリアは戸惑っていた。
「記録係といっても、書類を確認して捌くのが主な仕事だそうだ。仕事は現場でちゃんと教えてもらえるし、給金もでるぞ。それにーー」
(あ、この流れはまたアレだ)
「王都でひと月も過ごせば、いい相手の一人や二人、できるだろう!ワハハ!」
(ワハハじゃないのよ!もう!)
でも王都で仕事しながら暮らすなんてちょっと楽しそうだな、そう思ったヴェラリアは仕事を引き受けることにした。