Hold My Hand
気持ちが落ち込んでいたときに、レディー・ガガさんの「Hold My Hand」の歌詞を読んで号泣した実体験と、実際に、友人との間で起こったことをモチーフに作りました。温かい友情物語です。
アンジェリーナのライブコンサートに参戦をしたのは初めてだった。会場内は、私と同年代の集団で賑わっていた。バンドがステージに現れる度に、歓声が上がり、音楽に合わせて、手拍子をする人も大勢いた。私もつられてノッていた。そして…。
ついに、アンジェリーナのバンドが出てきた。スポットライトに照らされ、元気よく挨拶をする彼女の姿を見て、なんだか心が落ち着いた。優しい低音ボイスが、耳に心地良かった。会場の隅の方で、
「アンジェリーナ‼」
と、誰かが声を上げた。アンジェリーナが笑顔で応える。
「今日は、レディー・ガガさんのHold My Handを歌わせてもらいます!…」
Hold My Hand. 聴いたことがない歌だ。同じアカペラサークルのメンバーらしき集団から、「フー!」という歓声が上がった。
「それでは、お聴き下さい!」
アンジェリーナの元気の良い声と共に、ステージが暗転した。6人組にだけスポットライトが当たり、曲が始まった。アンジェリーナの低くカッコイイ声が、会場内に響いた。こんなに聞いていて心地の良い歌声など、これまで聞いたこともないと、強く思った。と、そのとき、
「Why'd you take so long to tell me you need me? I see that you're bleeding. You don't need to show me
again...(どうして、私に頼ってくれるまでにそんなに時間がかかったの?ここまですごく辛かったよね。もうわざわざ伝えてくれなくてもわかるよ…。)」
胸がぎゅっとなるのを感じた。目を閉じて、切なそうに歌い上げるアンジェリーナ。ドキドキが止まらなかった。すると、私の視線を感じたのか、アンジェリーナは、私の目をまっすぐ見た。そして、
「So, cry tonight. But don't you let go of my hand. You can cry every last tear. I won't leave 'til I
understand. (だから、今夜は泣きな。でも、私の手は離さないでほしい。泣きたいだけ泣けばいいよ。君の気持ちがわかるまで、私はどこにも行かない。)」
と、歌い切った。すぐさまアンジェリーナは視線を反らし、続きを歌った。しかし、私の頭の中では、アンジェリーナがさらりと歌い上げた詞がまだこだましていた。
アンジェリーナとは、進級以来、全然会えていなかった。授業を一緒に受けようかとも思ったが、彼女には、もっと仲が良く頻繁に遊びに行く友人が沢山いたため、誘いづらくて、結局諦めてしまった。初対面のときから意気投合した彼女は、私にとって、レアなタイプの友達だった。私にも友達が何人かいるのだが、常に一定の距離感がある上、なかなかオープンになれなかった。どうして周囲の人間のような友達付き合いができないのだろうかと、常に自問自答を繰り返していた。しかし、アンジェリーナは違ったんだ。彼女といるときに、緊張した覚えなど、まずない。アンジェリーナといるときは、自分でも驚くほど自然体でいられた。しかし、アンジェリーナは、他の人間と同様、当たり前のように友達と出かけるタイプだったので、彼女から見たら、私は、浅い関係の友達の1人にすぎないだろうと常に考えていた。とても寂しかったが、人間関係にはどうやら気持ちの温度差というものがあるようなので、致し方ないと諦めていた。
だから、すごく意外だったんだ。久々に会った時に、アンジェリーナはすぐさま私の元気がないことを指摘した。私は、悩み事を沢山抱えていても、相談することが苦手な人間だった。だから、気のせいだよ、元気だよと、ごまかした。それでも、アンジェリーナは引かなかった。
「今度私のバンドがライブに出演するから来てよ。」
チケットを手渡して、アンジェリーナが言った。そのとき、チャイムが鳴り始めた。私はそのとき空きコマだったが、アンジェリーナは授業があったようだったので、「またね。」と、言うと、教室の方へ走り去って行った。
気が付くと、泣いていた。アンジェリーナの声が、歌詞が、会場全体が、胸を圧倒した。アンジェリーナ達のバンドが退場した後も、私は暫く涙を流していた。手をぎゅっと握られているような、そんな気がしていた…。
コンサートが全て終わり、帰宅してすぐにアンジェリーナのインスタグラムを開き、
”今日は素敵なライブイベントに招待してくれてほんとにありがとう!気持ちが楽になったよ。”
というメッセージを送った。暫くすると、アンジェリーナから返信が来た。
”いいのさ、いいのさ、礼はいらんよ。また会おうね。”
短いこのメッセージを読み終えて、スマホを閉じた。また、泣いていた。