喪女の転生、幼女の目覚め
鏡に映っているのは、どこからどう見ても完璧な美幼女。
大きな瞳には長いまつげ。高すぎず低すぎず形よく整った鼻。ぷるんと潤いのある上品な唇。
そのそれぞれのパーツがバランスよく配置された小さな顔は、ロイヤルコペンハーゲンの白磁のように、瑞々しい透明感がある。
ぐひひ。
わたしは心の中で下品で歪んだ笑みを浮かべたのだが、鏡の中のその美幼女は、まるで百合の花が咲いたかのように可愛らしく微笑み返してきた。
そしてわたしは思う。
「これは勝ち確ね」
⚫︎⚫︎⚫︎
わたしは白鳥百合。
日本で一番西にある旧帝大の博士課程を修了後、とあるバイオ系ベンチャー企業に研究員として勤めるリケジョ、二十九歳。
偏差値はそれなりに高かったが、顔面偏差値はお世辞にも高いとは言えない。
ごめん、うそ。
悲しいけれど、顔面偏差値はどんなに甘く評価したとしてもFラン。見る人が見ればGランもあり得るだろう。
年齢イコール彼氏いない歴。
最もわたしを愛してくれた男性は父。その次が祖父。
モテたこともなければ、もはやモテたいとも思っていない。
まあ、あれだ。
いわゆる『喪女』ってやつだ。
この世に生まれ落ちてから三十年弱、男友達どころか、仕事以外でわたしに話しかけてくる男すらいなかった。
でも、こんなわたしにも、かつて『綺麗』と言ってくれた男性が一人だけいた。
わたしはその言葉を忘れていない。ずっとずっと覚えている。
それは、入社直後の歓迎会のときに、同期の芋っぽい男がわたしにかけた言葉だった。
名前は綺麗なのにね――って、うっせーわ!
それ、セクハラだからな!
とは言え、所詮この世は顔か金。
世の中ね、顔かお金かなのよ。
たとえ世界がひっくり返ろうとも変わることのないこの真理。
だからこそ、わたしは死に物狂いで勉強をして、必死で働いてただひたすらに金を貯め込んだ。
すべては、推しの配信に投げ銭をする、ただそれだけのために。
べつに辛くはない。むしろ楽しくさえあったわたしの人生。
しかし、生まれながらに究極のハンデキャップを背負いながらも一生懸命生きてきたわたしの人生は、ある日、唐突に終わりを迎えた。
給料日のその日は、夕方からの推しの生配信に備えるために、半休をとって退社した。
ルンルン気分で軽やかに歩いていたその帰り道。
雲一つない青空。
いきなり落ちてきた雷。
わたしはそれに打たれて、呆気なく死んだ。
まさに青天の霹靂――って、うっせーわ!
まあ、死に方に思うところがないわけではないが、とにかくわたしは死んだのである。
そして、死んでからのわたしは長い夢を見て過ごしていた。
この世のものとは思えないほどの絶世の美女のおっぱいをちゅっちゅしたり、近寄ることも憚られるほどの超絶イケメンから頬ずりされたり、それは長く、とても幸せな夢だった。
そうやって夢の中で過ごしているうちに、長い微睡からゆっくりと目覚めるように頭の中の靄が晴れていき、ある日、わたしは唐突に理解した。
もしかしたらワンチャンあるかもとは思っていた。
最近では猫も杓子も『ちょっとそこまで』ぐらいの気軽さで行くものだから、わたしにも行けるんじゃないかって思っていた。
そして、六歳の誕生日を迎えたこの日、完全に自我を取り戻したわたしは確信した。
わたしは、異世界で幼女に転生したのだ――と。
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