Ⅰ 【100年に一度の幸福】 ①
あらすじ
十七歳。鳴瀬高校二年生の川水透は、四月のある日、道端で出会った占い師から無理矢理に占なわれることになる。その占いの結果、ある〝必然〟が六月一〇日の梅雨真っ只中に待ち受けているらしい。その必然に怯えながらも六月一〇日は案外すぐに訪れる。その日玄関外へと妹に蹴飛ばされ、母親に威圧され、死期を感じつつ、覚悟が決まり、自分の受容力を高めることに成功する透。そんな彼の登校の最中、必然は突然に。その必然は、お菓子のオマケとおかっぱ頭の少女〝紫無月陽花〟の復讐を連れ込み、透自身の本質をさらけ出させる。そして気付く透、〝必然〟は内側にいた。自身の本質を知った透は、復讐に加担。初めは自身の負い目を理由に復讐に加担する透であったが───。
四月某日朝八時ちょうどの頃。天気は晴天。登校中。
鳴瀬高校二年、川水透。怪しい占い師と出会う。
「かわみずとおるぅ・・・」
背中の方から、微かに聞こえた自身のフルネーム。最初は聞き間違いだろと思い、足を進めたが、あまりにも同じ声のトーンのままボソボソーっと復唱し続けられたため、あー無視できまいと振り向き、友人間では定評のある微笑みを軽く見せ、静かにキレる。
「やめてもらっていいですか?恥ずかしいです」
「どうも占い師です」
振り向けば、道端に占い師?と名乗る者。占い師はパイプ椅子に座り、自身の目下に用意してある小さな机には、濃い紫色をした膝が隠れるくらいには長さのあるテーブルクロスを敷き、机の中央の位置には、座布団みたいなアレの上に水晶玉を乗せている。ちなみに座布団みたいなアレも濃い紫色をしている。
そして「私はいかにも占い師ですよ」というようなこれまた濃い紫色のローブで全身を包み込んだ格好と女児が嗜むような宝石の装飾品風玩具(と思う)を多数身に纏い、その感じを出している。声とその装飾の方向性からして女性か?ローブで顔が見えない。左手の親指にはピンク色のハートの形をした指輪がねじ込まれている。特に目立っていた。可哀そうな親指、あれも玩具か。ローブからたまにブランブランさせて見え隠れさせている両足には白を基調とし、緑の横ラインを大きく真ん中に入れたスニーカーが履かれている。キャラ作りに少し甘さも見えた。
一方、透のじっくりとした観察をものともしない占い師は、水晶玉をいろんな角度から覗いては三秒に一度鋭い眼光でチラチラとこちらの様子を伺っている。素で挙動不審なのか占い師としての演出なのか。
「どうぞこちらへお座りになって」
「いいえ」
首をしっかりと横に振る。
その後自然と流れるように、占い師と向かい合えるように用意されたパイプ椅子。客観的にケンカをしていると見て取られてもおかしくないような問答を幾数回繰り返し無理矢理にそこに座らされる。
よく見ると机上にある表札のような木の板に「バッボラギの母」と書かれていた。
〝どこ?〟
なにかその場所の距離感とか規模感で占い師の「なんとかの母」名乗りは、評価されているのか。聞いたことのない土地の名前だな。
これは彼女のスペックが高い方なのか?低いのか?その土地は広いのか?狭いのか?
でもそれより。
「あのー」
「当てました。占い師なので」
「何を」
「お名前」
「あー」
いやそんなことより、ダサい。ダサすぎる「バッボラギの母」。やけくそ?
透は、自分の名前が当てられたことなど既に二の次。
「いやそのー、気になっていたのですが、あなたのその活動名?と言えばいいですか?」
「活動名、あぁ。ハイハイ。あっ‼フフフッ♪」
・・・。
「気になりますぅ?」
「インパクトがあるので」
占い師は俺の耳元に口を近づけ、若干早口で囁く。
「母たちより授かりました」
「わぁ」
誰だこいつにはバッボラギだなと思った「なんとかの母」共。やりやがったな。
名付け母親は複数人いるのか。多分だけど貴女なんちゃって占い師扱いされているんじゃないかな?
でも自慢げな顔してるしなぁー。えげつなくニマニマした笑顔とドヤァーという顔。
ローブの中からちょいちょい散見される顔立ちは整って見えるのに、今のその表情は嫁入りキツッいな。バッボラギとは、美人の顔をこんなにもキツッい顔に変形させられる程の土地なんですか?
「フッ。あなた・・・なるほどぉぅ」
「はい?」
え、まさか。俺の心を読んでいるのか?
「惚れましたね私に」
おいおい、楽しませてくれるな。馬鹿言ってんじゃねーぞ。
この占い師にバッボラギは過大評価だ。荷が重い気がします俺。
「惚れてないぃっす」
「あら、そうですか」
ダメだ。早く立ち去りたい。
「それでは占いを始めます」
「頼んでないです」
「頼んでなくてもよいのです。あなたは、今日私に占われる。これは必然です。どうあがいても川水透という人間は、今日、この日、私に占われる。そう私の占いに出ていました」
なんか人を言い包めるのにそういう言い回し都合いいな。あと今同じようなこと二回聞いた感じする。
「お金無いです」
「お代は結構です」
「時間もあまりないです」
「必然‼今日この日私に───」
「わかりました早く始めましょう占い」
占い師ってどこもこんななの?
透は、身に着けていた腕時計を気にし、自分にはあまり時間がないぞというそぶりを占い師に見せる。
こういうの女子ならテンション上がるのか?俺はなんかめんどくさいと思ってしまう。朝の情報番組の占いとか当たってようが外れてようがケチを付けるタイプだ。適当に言う事聞いて、うんうん言っておくか。
「オホンッ、では試しに」
「うんうん」
始まるぞ。
「今日私が占ったことに対して、あなたは逃れることができない。例えば」
「うんうん例えば?」
え、こわ。
「こちらの木の板をお持ちください」
「はあぁー?はい」
ちょうど手のひらサイズに落ち着く正方形の木の板。
「その木の板を左手の手のひらの上に乗せ、目一杯左腕を横水平に伸ばしてください」
言う通りにしよう。
「右左どっちにですか?」
「左の方に」
まぁそら左か。
「こうですか?」
「はい、そうです。いきますよ~!32」
急速カウントダウン。
「え、えっ」
な、なんだ!なんだぁ!?手品か?手品なのか?なんだバッボラギ!その鬼気迫る目は!
「1!GOTOFA~~LL‼・・・鳥のフン」
・・・。ふんぅぅ。
「・・・。」
「・・・。」
「叩いていい?」
「叩かれたくないです」
木の板の上には、ハトのフン。
「これで信じていただけましたか?」
「もっとこう他にわからせてやるぞってやり方なかったんですか?パイ投げの要領でこれをあなたの顔に投げつけたい気分ですいざ投げつけましょう」
「何でですか!普通に嫌ですよ!糞投げつけて欲しそうですか私!?」
「いや、そういうことじゃないんですけど・・・。話を戻します。あなたにはこの鳥のフンが、さっきの時間、この場所に落ちてくるのが見えていたと?そういうことですか?」
「いかにも。占い師ですので」
「占い師すげぇー、鳥のフンをえい」
「なぁっ!?ぷわーっ‼投げるなぁ‼」
避けられた。神回避。なんだその怒り方は。
「これ俺にどう関係があるんですか?」
「ツーン」
バッボラギさんはわかりやすくへそを曲げてしまったご様子。
「じゃあ、まぁ。行くんで」
「ちょちょちょ!ちょい待ってぇーよん!」
なんだ待ってぇーよんって。
「君の周辺情報を先に見ることができるの、断片的ではあるけれど」
周辺情報の先読み・・・。占いの定義わからん。
「やっぱりそういうことですか。それは凄いですね。未来予知ってやつですか?」
「そうかな~?どうかな~?気になるかな~?」
「・・・。この先俺の身に一体何が起きるんですか?」
「何かな~?怖いことかな~?デンジャラスかな~?」
「はよいえや」
「なっ。ひどい!言い方がきつい!」
「早く教えてください。ねぇ早く。早く!早く!」
「あ、あせらせるな!」
「早くしないと学校に遅れてしまうので。ほら、パッパして。パッパパッパ」
「ちょっと待って!準備が!」
バッボラギさん曰く、今日俺がここを通ることも知ってた、らしい。見えていたか。
「そんなに急がせなくても!大変なことなんですよ?あなたにとって!これから起こることは!!」
〝必然〟、ね。これから起こることもなのか?
「だから!それは、なに!!」
「はいドーン‼」
でかいホワイトボードがバッボラギの母の背中の方から出てきた。
「・・・。」
「───〝50年に一度の不幸とでくわします〟」
ホワイトボードにはそう書かれていた。
「直筆です。byバッボラギの母」
「・・・はぁー」
50年に一度の不幸。嫌だな、普通に。・・・あれ?人生100年時代に50年に一度の不幸?後、もう一回その不幸あるかもの計算か。
いざ言われても嫌だなくらいで実感が湧かない。
「なんかーわかんないですね。どう反応すればいいですか?」
「とりあえず驚いて。どぞ」
「なっ!なんだってぇ~!」
「安っぽくてありきたりで全然な感じしますけど声が出ているので良い反応ですね」
「それはあんまりの驚きだったってことですね」
「あんまりです」
まぁとりあえず。
「聞きましょう。俺がこれからでくわすらしい50年に一度の不幸ってやつを」
「はい」
「内容、見えるんですか?」
「見えると思います。今から一緒に見てみましょう」
「おー、お願いします」
「精度を上げます。ではこちらの水晶玉の上に唾液を」
「え?」
「唾液を」
「それからー」
「それから?」
「これと、これっと。後このフェーズを、とそれから」
「ふぇーず」
「後この符を使って」
「ふ?長くない?多くない?」
「占いというのは急いては事をし損ずると密接であり───」
「わかったわかった何も言わないから手進めて」
「カッッ‼」
「うるさい」
「あなたのその発言は占い師との融和性にヒビを入れ、ひいては占いに───」
「黙りまぁす、だまりますよー」
内容が気になりました。あといらない時間食って遅刻しました。
*
六月一〇日
天気は、かなりの大雨。占い師の話によると、俺、川水透は、今日六月一〇日に、50年に一度の不幸とでくわすらしい。思っていたよりも結構先の日のことだった。だが、いざ当日を迎えると体の震えが止まらない。それは内容が内容だっただけに・・・という訳がある。
「あなたの不安を煽るだけ煽って申し上げにくいのですが、結局のところあまり〝50年に一度の不幸〟というものの内容について、お伝えできることがありません。すみません。実は見てもらってわかると思いますが、ほぼ見えないんで。なんかこれすごいドシャ降りの雨で、水晶ワイパーでもきついんですよ。でも、このオーラ、この雰囲気間違いなく50年に一度の不幸です。日付はわかります。水晶の表面の方に出るんで。なになに?六月一〇日?うぁっ!
梅雨だなぁーやっぱり。これはー?なんか赤いですね色が。赤色が見えます。あ、終わった。終わりでーす。では、お気をつけて」
これが伝えられた占いの内容。えらいザックリだった。内容なんてものじゃない。内容なんてものがない。で、重要なのが、赤色。
これ、血、かな?血だよね?血ですよね?血しかないよね?そうだよ血だよ。やっぱり血だよね?一番先に連想するやつ。血が飛び出る運命?どの程度?致命傷?怖い怖い怖い怖い。
50年に一度の不幸ですよ?震えちゃうよ。無責任だよバッボラギ。こんなこと突きつけるの、あんまりだよ。俺今年でまだ十七の歳よ?ヤバい。家から出れない。足が玄関から出て行かない。ここから外に出たら、終わる?終わる可能性ある?俺?あるよな。50年に一度の不幸だし。多分血だし。人生、か。人生なぁ。今玄関まで来て、自分の人生思い返し、考え直してるよ。俺、やり残したこと、いっぱいあったな。
「兄ちゃん邪魔早く行ってよ」
「妹よ。兄を死地に追いやるつもりか」
「何言ってんの?ち~こ~く!しちゃうでしょ!」
透は、妹から背中を蹴られ続け、玄関外に追いやられる。
「はい、これ傘!」
「うぁっ!?投げるなよ!」
「後、お母さんから伝言。もう私のプリンは戻ってこない。なぜなら!我が息子透の手によって、屠られたからだ。しかし、私は信じている!三個入りパックのプリンとしてではなく、一個でちょっと贅沢な滑らかプリンへと生まれ変わりを果たし、私の元へと帰って来ることに・・・ウルウル。だって」
「あー。学校帰り買ってこいよってことね」
家族には、占いのことは言っていない。どうせ信じてはもらえないだろうし。ちなみに、追い出された玄関の方を一瞬振り向くと、すごい剣幕でこちらを見つめる母親が見えた。
「こりゃすぐ帰りも出来ないか。まぁもうどうせ外出ちゃったわけだし」
透は、傘を開き、その中で少し微笑む。周りにその表情を見せないように。
もうヤケクソだ。どうにでもなれ。
そう思いつつも、やはり足取りは重い。学校に着くまでの間に、見る信号機は三つか四つ、そこの赤。郵便ポストが二つ、そこの赤。赤色に近い屋根をしているお宅が、何軒だ?わからん。雨がザァーザァー降りの中、この先にある赤いものに対し、凄く神経を使いながら警戒する。そして一番細心の注意を払うのは、自身の内にある赤。
「死ぬ可能性もあるんでね!」
こんな独り言を発しても今日の天気では、周りには聞こえない。
「兄ちゃん何言ってんの?頭悪いの?」
おっと、隣に妹がいたんだっけか。その頭悪いは心配の方で?悪口の方で?
「ほら、お前はこっからあっちだろ。一人で行けるか?」
「馬鹿にすんな」
凄い、雨降ってる日の靴の裏でケツ蹴られた。
「べぇー」
「ひっど、痛いです」
とりあえず、妹よ。これからもそうしてたくましく生きるんだぞ。兄ちゃんもしかしたらお前の高校の制服姿見れずに、おっちんじゃうかもしれん。あぁ、良い背中になったな、妹よ。
今日は、非常に感傷的になるな。ウルウルきちゃう。
「お母さん、ちゃんとプリン買えなかったらごめんな」
誰に、何に対しても、感傷的になる。道端のおじさん、こけるなよ。小さな小学生達、水たまりは楽しいよな、でも風邪引かないようにな。犬、可愛いなお前。
今日の透は、視野が広い。そして、誰に、何に対しても軽い一言を添える。一歩、また一歩と足を進ませ続ける程に、余裕と許容や受容のようなものが、生まれ、育まれていく。
そして、事は起きた。
それは、二つ目に見えるはずだった信号機のある交差点前の歩道。歩道の右側面には、色とりどりの紫陽花が咲き誇る。
「もうすぐで、二つ目の信号機。紫陽花、綺麗だなお前ん?」
標的、不安の対象、主悪の根源みたいな、何と呼べばいいのか。あからさまな〝赤〟が透の前に立っている。
「赤い」
間違いない、そう感じる。50年に一度の不幸とは、この〝人〟のことだろう。
「赤い・・・レインコート」
こちらに背を向けた赤いレインコートの人。背丈は、見た感じ自分よりも小柄。顔は、レインコートに着いたフードを深く被っていたため、後ろから見て男性か女性かも見分けがつかない。緊張が高まる。さて、何も起きなければいいのだが。
「スルー、するか」
あの占い的に考えれば、どうにかこうにか絶対にこのレインコートの人と関わりを持つことにはなるのだろう。外れないらしいし。〝必然〟らしいし!だが、万に一つ逃れられる可能性も考慮したい。俺の希望的に。助かりたい。
赤いレインコートを着た誰か、この人の隣に着くまでは、まず早歩きで足音を立てないように向かう。その後、全力で走り去り、そのまま一度渡らなければならない信号機を渡らずに無視し、この歩道をまっすぐに突き進む。途中、曲がり角を曲がり、最後は、遠回りをしてでも曲がり角を上手く使い続け、学校まではなんとか辿り着くという戦法。もし曲がり角を曲がった後も、付いてくるようなら、いろんな道を曲がりに曲がり巻いてやる。この道は、人通りが少ないので、何か事が起きても気付かれづらいが、人通りが少ない分走りやすい。やれる、いける!これなら!
シミュレーションは大丈夫。体力勝負だ。動き出そうとした時だった。
何か取り出した。
赤いレインコートを着た誰かは、そのレインコートの内側から急に何かを取り出し始めた。
「あれは」
少し反射で光っている。だが、見るからにわかる。それは、刃物だった。
透が動き出す前に、赤いレインコートを着た誰かは、刃物を急に取り出し、その勢いのまま前方へと走り出した。刃物の先を前に向けている。それはまるで標的は別にいるのかのように。
盲点だった。見えていなかった。赤いレインコートを着た誰かの前には、もう一人、誰かがいたのだ。
「なるほど」
これは、確かに逃れられないな。
「危ない!早く逃げろ!!」
このもの凄いドシャ降りの雨の中だ。俺の声は届かない。距離もそれなりにある。
「クッソ!!」
ほんとクソだよ。
透は、傘を捨て、カバンを捨て、走り出す。両手でしっかりと止める為だ。
だが届く距離じゃない。そう思った時、自然と自分と向き合う時間に入った。諦めの気持ちが足を鈍らせ、より相手に届かせようとしなくなった。自分に降りかかる赤じゃないと知ってチカラを緩めてしまったのも届かない原因の一つだろう。体は正直だった。そこからは両手を届かせようとするフリだった。必死に走るフリだった。久しぶりに自分を思い出せた気がした。
残念ながらここから俺は人が変わる。正しく言えば変わったんじゃない。元がこうだった。
〝必然〟は内側にいた。
それに気づいた時、大きな赤い光が地面から、空から、包み込むように、俺を囲った。赤く光る球、の内。
「今この空間以外の時間は止まっています。こんにちは、或いはお久しぶりです。透さん」
何だ?
「・・・あなたは?」
ハッキリと姿の見えない白くまばゆい光のかたまり。
「あなたは。なるほど。名、ですか?」
「はい」
「雨霜降里町の土地神。つまりこの町の土地神。名を〝バッボラギ〟」
「それはこの町の名が〝バッボラギ〟ということですか?」
「そういうことです」
彼は目の前の存在に対して疑念を抱かない。話半分で聞いており、信じる信じないという心境にすら達していない。周りの状況から見てそういう可能性もまぁあるかという程度。無関心。
「ほんとにあったのか。では、バッボラギの母をご存じですか?」
「認識はしています。彼女があなたに接触したということも」
「関係は?」
「ありません。彼女が私の名を使って活動しているというだけです」
「次の質問です。何故時間を止めたんですか?」
「〝彼女〟を諦めてほしくないからです」
「彼女というのは狙われている人のことですか?」
「違います」
「ではあの赤いレインコートを着た?」
「はい、彼女です」
「理由は?」
「これをあなたに」
土地神は透に知育菓子の箱を投げ渡す。
「彼女がこれに関係していると」
「そういうことです」
「わかりました」
「ではこの空間を解くので彼女を後ろからしっかりと抱きしめてあげてください」
「しっかりと抱きしめる事は必要なんですか?」
「必要です」
・・・。
「わかりました」
「また会いましょう」
「それは、・・・わかりません」
淡々とした会話を終え、透は空間の外に足を踏み出す。その瞬間、空間は解かれ、外の時間が進み始めた。雨も音を立て始める。
透は既に彼女のすぐ真後ろに立っていた。そして土地神に言われたようにしっかりと彼女を後ろから抱きしめた。
「へ?」
彼女は、