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彼にだけ私の魔力は甘いらしい  作者: もんどうぃま


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9/16

9 困惑



 翌朝ミレーユが目覚めると、部屋に妖精の姿は無かった。ホッとしたような少し寂しいような気持ちのまま、洗面所で顔を洗い、朝の支度を整える。


 扉をノックする音がした。

「どうぞ」

ミレーユの応えを待って扉が開いた。

「おはよう!ミレーユ!」

リルムだ。朝から元気で可愛らしい。支度を手伝ってくれたリルムの案内で、精霊王が居る部屋へ通された。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」

「おはようございます、ミレーユ。よく眠れましたか?」

「はい。この世界へ来てからぐっすり眠れて嬉しいです」

「ここは魂の故郷ですから、落ち着くのかもしれませんね」


「故郷?」

「精霊王、ついに現れたぞ!」

リュカが勢いよく扉を開けて入ってきた。

「あ、ミレーユ。おはよう。今日も可愛らしいな」

「あ、ありがと。おはよ」


「リュカー、面白いんだけど」

リルムはミレーユの横でニヤニヤしていた。

「なんだ、リルムいたのか」

「いたよ!ずっと!」

甘い言葉を息をする様に言うようになったリュカの事を考えるのはやめて、怒っているリルムも可愛い、とミレーユは考えていた。


「ミレーユは、俺を見てて」

ミレーユの顎を人差し指にのせて、リュカは自分の方を向かせた。驚いたミレーユの顔はだんだん赤くなっていき、言葉を発することができない。リュカは嬉しそうに笑った。

「ミレーユ、おはよ」

頬に軽く口付けをして、また嬉しそうに笑った。


 ギギギギと音がしそうな動きでで精霊王を見たミレーユは頬が染まり涙目になっていた。恥ずかしさが限界を超えたようだ。リュカは嬉々として小瓶を取り出し、ミレーユの涙を手に入れた。そしてまた石を作る。


 精霊王は深くため息を吐いて、指をパチンと鳴らした。リュカが瞬時にミニドラゴンになった。リュカは咄嗟にミレーユの腕に抱きついた。キリヤがミレーユからリュカを剥がそうとしたが、離れない。ミレーユは困り顔でキリヤに首を横に振って見せた。諦めたミレーユの膝で、前向きに抱っこしてもらったリュカはご機嫌だった。


「リュカ、何があったのか話してもらえますか?」

精霊王の言葉で思い出したのか、拗ねたような表情になった。

「ミレーユの婚約者を見た」


 リュカの話によると、ミレーユの荒らされた部屋を片付けに行った時、屋敷が急に騒がしくなったそうだ。全ての荷物を燃やし尽くして部屋を清浄化したリュカは、姿を消して屋敷内を見て回った。すると応接室に、男と偽者の父親ジュマイヤがいた。



ーーーーーーーーーーーーーー

「急なご依頼があると聞いたのですが、何かありましたか?」

「商人のくせに生意気な言い方だな。貴族が呼んだら文句を言わずにさっさと来ればいいんだ!」

「大変失礼いたしました。ご依頼をお聞かせいただけますか?」


「ふんっ。生意気な。まあ、良い。ミレーユを探してほしい。タウンハウスの周辺や商店街、森にはいなかった。もしかしたらゼーマンのじじぃところかもしれん」

「いなくなる直前、どこにいたのか教えていただくことは?」


「この家の敷地内だ。今は敷地内にはいない。ミレーユの婚約者のお前が責任を持って探してこい。見つからなかったとしても、約束通り金は払ってもらうぞ。お前がさっさとミレーユを手懐けておけば良いものを!ノロノロしくさって!商人のくせに貴族に逆らおうなどとは思わないことだな」


「……承知しました。」

その時リュカは、その男と目が合った気がした。姿は消えているし、気配も抑えている。「何者だ?」男は、姿を消しているリュカを見てフッと笑ったように見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「その人が私の婚約者?」

「やっぱり会いたい?」

「うーん。興味はあるけど、その人と婚姻を結べと言われたら即答は無理ね。どんな人か知らないと、会ってみたいとは思うわ」


「……やっぱり人の方が良いのか?」

ミニドラゴンの姿のままのリュカが不安そうにミレーユの顔を見た。

「良いとか悪いとかじゃなくて、単純な興味かしら?本来なら、貴族同士の結婚に自分の気持ちは関係ないわね」


「俺はそんなのはやだよ。ちゃんと愛し合いたい」

ミレーユは真っ赤になった。リュカを抱きしめたまま立ち上がり、リュカを精霊王に渡して席に戻った。


 精霊王は、急に離されてショックを受けた様子のリュカの頭を撫でた。

「それで?リュカはその後何を聞いたのですか?」

不貞腐れた様子のリュカは拗ねたまま話し始めた。


「知らない」

「え?」

「そこまで聞いてすぐ帰ってきたから知らない」

そう言ってリュカはプイッと横を向いた。ミレーユは深く息を吸って吐き出した。


「リュカの話を聞いた限り、私の婚約者、と言うよりは私を買った商人という印象だったのだけど」

ミレーユは精霊王を見た。精霊王の隣で、キリヤは心配そうにミレーユを見た。

「人の世界の本によると、ほとんど年配のお金持ちが若い女性を買うイメージなんだけど……」


「その男、俺くらいの年齢だったけど?」

ミニドラゴンから人の姿に戻り、ミレーユの隣に席を移しがらリュカが言った。

「しかも割と綺麗な顔立ちなんだ。ミレーユがあいつを気にいったらどうしよう……」


「うーん。何かが不自然ですねぇ。まあでも、考えていても仕方ありませんし、情報を得るためにもゼーマンに協力をお願いしに行きましょう。人の世界のことは人に聞くのが一番です。まずは、家を妖精の森に移しましょう。ゼーマンの屋敷にミレーユは行ったことがあありますか?」


「ゼーマンの屋敷に行くのは母の葬儀以来ですが、幼い頃何度か遊びに行っていたようです。シメオン大叔父様とジェイド大叔母様には可愛がっていただいた記憶しかありません。それにもしかしたら、メレンドラで働いていた皆が無事だったら、会えるかもしれません」


 リュカは嬉しそうに話すミレーユを見つめていた。

「ミレーユが嬉しそうだと俺も嬉しい。ずっと見ていたい」

恥ずかしさで顔を強張らせたミレーユはリュカを見た。

「リュカ、お願いがあるのだけれど」

「なに?何でも言って!」

嬉しそうなリュカ。

「話さないでほしいの」


「え?離さないでほしい?こう?」

リュカはミレーユを抱きしめた。

ミレーユは両手でグイグイとリュカを押して離れようとした。

「違います。ドキドキするような事は言わないでほしいの」


「俺そんな事言ったかな?」

首を傾げるリュカ。

「……必要なこと以外は言わないでほしいの」

「必要なことしか言ってないけど?」

「黙ってて」

「え」

「どれが良くてダメなのか分からないなら黙ってて。話しかけないでほしいの」


 花が萎れるように下を向いたリュカは、

「分かった」

と言って大人しくなった。


 ミレーユはその萎れた姿を見て、胸がチクリと痛んだが、話が進まないしこれ以上は自分が保たない。これも必要な事だと割り切る事にして顔を上げた。

「精霊王、よろしくお願いします!」


「家を移す前にまず、家の設置場所の確認に行ってもらいたいのです。キリヤ、お願いできますか?」

精霊王はキリヤを呼び寄せた。

「ミレーユとリルムも一緒に行こうよ。リュカも黙ってるんなら一緒に来ても良いよ?」

三人とも頷いた。

「他の二人はしゃべって良いんだけど。ま、いっか。じゃあ行こう」


 キリヤが床に向かって手を広げると、足下に魔法陣が広がった。ミレーユは思わずリルムに掴まった。それを横からリュカが剥がしにかかる。ミレーユは上手く逃げられず、両方から抱きつかれたまま転移した。


 四人は森の中に出た。木々に囲まれてはいるものの、少し広い場所になっていて、真ん中にある小さな泉では綺麗な水が渾々と湧き出ている。周囲にはたくさんの花が咲いていた。精霊王の世界の風景によく似ている、とミレーユは思った。


「さてと、家の設置場所の確認だけしてさっさと帰ろ」

リルムはミレーユに話しかけた。リュカは何かに呼ばれたようにミレーユから離れて行った。離れる前に何かの魔法をミレーユに施して「よし」と小声で言った。


「大きな森ね。ここは少し広いけど、木が多いわね。それにしてもこの泉、素敵ね。ここがお庭になったら嬉しいな。でも木があって家は建てられないのかしら?あら?キリヤは?」

「キリヤはもう下見を始めてるよ。大きさとか入り口の向きとか」

リルムがキリヤに手を振りながら言った。キリヤは地面に木々との交渉に夢中なのか、気づかなかった。


「精霊王の世界は広いから気にならなかったけど、あの家結構大きいわよね。まだ外から見てないから分からないけど、メレンドラの家よりも大きく感じたわ」

「内側は広いけど、精霊王が作った家だから見た目と中身は違うよ?だからこの広場でも移せるよ?」


「便利ねぇ」

「まあ、でも諸々考えると少し迫力ある見た目の方が良いよね」

「家を移す場所にある木は切るの?」

「木は退()いてくれるよ?」

リルムが不思議そうに言う。


「人の世界では木は動かないのよ」

「そうなんだ。この森は精霊王の世界の影響が強いから、お願いしたら良い感じに移動してくれるよ。あたしたちに敵意がある人は通さないようにもしてくれるし」

リルムは得意げだ。


 キリヤが戻ってきた。

「家を置く場所にいた木には全部退いてもらったよ。準備できた。あ、そうだ!ミレーユの事知ってるって木が居たよ。大きくなった、とか綺麗になった、とか言ってた」


「キリヤお疲れ。幼いミレーユを知ってる木がいたの?あぁ、それでリュカがミレーユから離れたんだ。変だと思った」

「出た!リュカの収集癖」

妖精組がクスクス笑う横でミレーユは顔を赤くして泉や花を見ているフリをしていた。


「あ!幼い私を知っているって事は、私この森に来たことがあるのね?」

「どうもそうらしいよ?」

キリヤが言った。


「ゼーマン侯爵家が結構近くにあるよ。ミレーユは小さな頃から精霊王の世界ご縁があったんだね!ボクなんか嬉しいな」

「私も嬉しい。あ、リュカ帰ってきた」

ホクホク顔のリュカが戻ってきた。

「はぁ〜、可愛すぎる。この森に住むの楽しみ。用事済んだ?さ、帰ろう」


「リュカ、喋らないんじゃなかった?」

リルムの揶揄いを無視したリュカは足下に魔法陣を出して、ミレーユの手を取って精霊王のもとへ転移した。キリヤは慌てて魔法陣を足して、自分とリルムも一緒に転移できるようにした。









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