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彼にだけ私の魔力は甘いらしい  作者: もんどうぃま


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3 魔力


 暇を持て余したリルムはリュカの髪の毛をクルクルと弄り出した。

「いいなぁ、リュカは。ミレーユの魔力が貰えて。

ん?その割に満ちて無くない?」


「うるさいな。使い切ったんだよ。この世界の扉を開けるのに」

「いやいやいや。ミレーユの魔力量からしたらそんなの余裕でしょ?」


「調節を間違ったんだよ」

急にボソボソと話すリュカ。

「え?何?聞こえない!」

「あー!もう!調節を!間違ったんだよ!」

「は?」

「好みの魔力が嬉しすぎてドーンと使っちゃったんだよ」

「え。リュカ、人の世界で何かやっちゃったでしょ?」

「ちょっと建物が壊れただけ」


「あの時の音!」

ミレーユは焦りだした。

「あの小屋の中にお母さまの家具もあったのよ?あと、私の大事なブランケット!あなたの事も包んであげたのに!」

「ブランケットはこうなっちゃった」

リュカはポケットから小さな布を出してヒラヒラと振って見せた。


「端切れじゃない!」

「ごめ、いや、お前が勝手に俺を包んだから、大きくなった時に破れたんだよ?なんならお前が壊したんだ!」


「りゅーかー。それはお子様すぎるよ。嫌われちゃうよー?」

精霊王の傍にいたリルムはミレーユの隣にパタパタと飛んできて、二対一の構図になった。見た目が幼い女の子のリルムが、自分より大きな美少年を叱る姿はなんだか面白い。


 その様子を眺めながら精霊王は静かにお茶を飲んでいた。こちらのやり取りを見て笑っている妖精や、不思議そうに見ている妖精、こちらへの関心が無い妖精に分かれた。自分の体より大きな本の上で、パタパタと飛びながら読書を続けている者もいて、三者三様だった。


 リルムは腕を組みながら少し上から目線で言った。

「リュカ、あなたミレーユの魔力を吸って、巨大な何になったの?」

「ドラゴンに決まってるだろ?」

ミレーユはリュカを見た。

「あの小さなドラゴンの姿で小屋を壊したの?」

「あの大きさは魔力を使った後だよ。それに壊したわけじゃなくて、勝手に壊れたんだ。ミレーユの魔力が一気に体に満ちて、すごく良い気分になって、体が大きくなって」


「魔力の量で体の大きさが変わるの?」

「まだ本調子じゃないから制御できなかっただけ」

「それで私たちは空から落ちたのかしら?」

「空から落ちたんですか?」

二人のやり取りを微笑ましそうに聞いていた精霊王は驚いた顔でミレーユとリュカを交互に見た。


 リュカは気まずそうに話し出した。

「制御に失敗して建物が壊れて焦ったから、空の高い所の方が安全だと思ってミレーユを連れて転移したんだ」

「転移もできるの?」

「当たり前だろ?ドラゴンなんだぜ?」

「ごめんなさいね。ドラゴンの事よく知らないから」

「あ、世界が違うからか。人ってめんどくさいな。何も覚えてないのか。ま、俺は全て覚えているけどな」

リュカはミレーユを少し馬鹿にするような顔で見た。


 ミレーユは苛ついたがその先を質問するために我慢した。

「ドラゴンで転移してどうなったの?」

「上空に着いて飛ぼうとしたら魔力が足りなくなって、落ちた」

「私、なんで無事でいられたのか不思議だわ」


「一応足で持ったし、掴めたし。それで、声をかけて起こそうとしたんだ。今まさに落ちてるのに呑気に眠ってたし、俺の体に直接触れているものしか一緒に転移できないから、あの時はとにかく必死だった」


「もしかして、足で掴んでた服だけ転移してたかもしれないって事?」

意外と危機的状況だったことにゾッとした。

「間に合ったんだから良いじゃないか」

「ダメだったかもしれないんでしょ?」


「そんな事言ったって無事だったんだから良いだろう?」

「そういう問題じゃないの。あ!」

「今度は何?」

「私があなたのツガイって何?」

「あぁ。不本意だけど。決まった事だから。まぁでも、やっと会えてホッとしたよ」

少し照れくさそうな顔をした。


「え。いつ決まったの?」

ミレーユは無意識ではあったが、嫌そうな顔をした。見た目は好みだったが、言動が不愉快だった。

「おまえが、生まれた……」

照れながら話し始めたリュカは、ミレーユの表情が目に入った途端、小さなドラゴンの姿に変化した。そして涙をポロポロと流した。


「なんか、心臓が痛い。ミレーユ、そんな目で俺を見ないで。笑って」

突然の変化にミレーユは戸惑った。

「どうしたの?痛いの?」

ミレーユはミニドラゴンの頭を撫でてハンカチで涙を拭いた。ミレーユは精霊王を見た。

「精霊王、どうしたんでしょう?」


 精霊王は困ったような顔でミレーユを見た。

「リュカにとって初めてのことが続いて、情緒が不安定なんです。そうですね…… ミレーユ、何かしてほしいことはありませんか?」


「急にそう言われても……」

ミレーユは手を胸の前でギュッと握って考えていた。

「あ!家具!」


「家具ですか?」

「お祖母様から受け継いだお母様の大切な家具が埃まみれで放置されていたのを思い出しました。私が受け継ぎたかったのに、あの家に置いてきてしまって……」

「ミレーユ、悲しいの?なんか俺も悲しい……」

この世の終わりのような顔で泣き出したリュカを見て、ミレーユの胸も痛くなった。ハンカチでリュカの頬を拭いた。


「泣かないで。リュカ、笑ってる方が素敵よ」

「本当?」

上目遣いで見るリュカ。ミレーユは優しく微笑んだ。途端に顔を輝かせたリュカをリルムはニヤニヤしながら見ていた。


「リュカ、ミレーユ、こちらに来てください」

精霊王の声が頭の中で響いて、二人は精霊王を見た。精霊王が手を上げるとふわりと浮いて、ストンと椅子に座った。精霊王がお茶を淹れてくれる。

「心が静かになるお茶です。まずは飲みなさい」


 精霊王の言葉通り、体が勝手にお茶を飲む。美味しい。不思議と心が穏やかになった。

「ここは私の世界ですから、干渉するのも自在です。もちろん普段はこんな事しませんよ。お約束します」


 精霊王もお茶を飲んでいる間、リュカとミレーユは静かに待っていた。

「お茶を飲んだら、ミレーユが気にしていたお母さまの家具をこの世界に移しましょう。大切なものなんですよね?私もリュカが眠っていたという家具に興味がありますし」


「いいんですか?ありがとうございます!」

嬉しそうなミレーユの顔を見て、周囲も皆嬉しくなった。


「そうですね、『時の間』からの干渉を許可しましょう。ただし、持ち帰って良いのはお母さまの家具だけです。残念ながらブランケットは端切れの状態でこの世界に入ってしまいましたから、諦めてください。秩序が乱れますから」


 二人はコクコクと無言で頷いた。すっかり落ち着いた様子の二人を見て、精霊王は言った。

「良いですか?持ち帰る家具はナディーヌの家具だけです。ミレーユ、思い浮かべてください。なんの家具がありましたか?」

「前開き戸付きのライティングデスク、引き出しがあるタンス、クローゼット、椅子の四つです」


「その四つですね?では小屋が壊れて、リュカが天空に転移した直後の時間に繋げます。家具は何処にしまいましょうか」

リュカは美少年に戻った。

「俺の空間に入るよ。多分その指輪の収納庫より広いから」

「ありがと。どう考えても椅子しか入らなかったからどうしたらいいか考えていたの」


「まぁ、ミレーユは俺のアレだからな」

「……感謝するわ。よろしくね」

「任せろ!」

リュカは心底嬉しそうに笑った。ミレーユはドキッとした。


「では、準備は良いですか?制限時間は…… 二分程ですね。小屋が壊れた後意外と早く人が集まってしまいました。よほど大きな音だったんでしょうね。ふふっ。それほどにミレーユの魔力は心地良かったんですか?リュカ」


「うるさいな。仕方ないだろ?本能ってやつだ。たまごから目覚めたばかりだったし、ミレーユの魔力は妙に甘いんだよ」

「甘いってどういう事?」

「……う……行こう」


 精霊王の案内でリュカ、ミレーユ、リルムの三人は時の間の前まで来た。

「では二分経ったら、問答無用でこちらに戻しますから気をつけてくださいね。二人の手が繋がれていれば必ず戻れますから。万が一誰かに見つかったとしても二人の手は繋いでおいてくださいね」


 二人はそれぞれ自分の手を見た。

「時間になる五秒前にベルを鳴らしてあげるね」

リルムが金色のベルを鳴らしてくれた。

「この音が聞こえたら、手を繋いでね」


「リルム、ありがと!」

「帰ってきたら、お礼に魔力ちょうだい?」

リルムは上目遣いでミレーユを見た。

「ふふっ。いいわよ」

ミレーユがリルムの頭を撫でようとすると、リュカはその手を止めて、リルムを胡散臭そうに見て言った。

「おい!それが目的か?」

「いいじゃない。お互いに得じゃない」

リルムが口を尖らせる。


 精霊王は優しい瞳でミレーユとリュカを見た。

「では二人とも、手を繋いで『時の間』に入ってください」

二人は手を繋いで部屋に入った。リュカの顔を見るのが照れ臭くて目を閉じていると、指がパチンと鳴る音とリルムのベルの音が聞こえた。


 ミレーユが空気が変わったのをかんじて目を開けた。目の前にの小屋は無惨な状態になっていた。折れた柱や裂けた木材が転がっている。壁はあるが、空を見上げると屋根がない。遠い空に何か見えるような気がする。


「ほら!急ごう!一回手を離すぞ。どの家具だ?」

「そうだった!このライティングデスクと、このタンスと、あ!あのクローゼット!柱の下になってる!あと、椅子はどこ?」


 ミレーユが指し示した家具を手際良く収納していくリュカ。リュカの空間魔法はかなり大きいようだ。あっという間に吸い込まれていく。

「これと、これを収納庫に入れて、と。ミレーユ!クローゼットがなんだって?あぁ、あの柱か。俺が何とかするから椅子を探せ!」


「屋根が無い!」

小屋の外から誰かの声が聞こえた。


「やばい!誰か来る。急げ!俺は柱を退ける」

「椅子、椅子。どこにいっちゃったんだろ。あ!私のブランケット!」

ミレーユの声が涙声になる。

「今はクローゼットと椅子だ!」

「うん。分かってるけど」

「よし!クローゼット入れた。椅子はどこだ?」


「おい!誰かいるのか?」

小屋の外で誰かの声がした。多分騎士の声だ。ミレーユは小声になる。

「あの棚の後ろ!」

「え?なんだって?聞こえないよ!」

思いがけず大きな声で返事をしたリュカに慌てて近づいたミレーユはリュカの口を手で押さえた。


「そこにいるのは誰だ!お前が小屋を壊したのか?」

小屋の外で騎士が剣を抜く音がした。


 ミレーユは片手でリュカの口を押さえたまま、椅子が転がっている方を指差した。リュカは椅子を自分の方に転移させると収納庫にクローゼットと一緒に収納した。小屋の扉がガチャガチャと音を立てる。


「チリリリリン」


 リルムのベルが鳴った。二人は慌てて手を繋いだ。リュカはミレーユを庇うように立ち、扉の方を向いた。ミレーユは恐怖からリュカの背に縋り付いた。


ガチャガチャ、ガチャガチャ。ジャラジャラ。


「誰だよ!こんなに鎖を巻いたのは!」

騎士が苛立っている。

「よし!もう少しだ」

扉が開く。

「さあ、時間ですよ」

精霊王の声が頭の中に響いた瞬間、二人は『時の間』に戻っていた。





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