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彼にだけ私の魔力は甘いらしい  作者: もんどうぃま


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15 婚約披露



 ついにその日が来た。披露宴会場は美しく飾られ、参列者も着飾っていてとても華やかな空間だった。会場の雰囲気に反し、参列者は不安気で、皆情報交換に余念が無い様子だった。晴れの場で慶事を待つというより、まるで街の雑踏にいるかのようだった。と言うのも、最近メレンドラ伯爵家の評判は大変悪かったのだ。


 メレンドラ家の面々が別人になったかのような傍若無人な振る舞い、資金難を感じさせるような図々しい言動、多くの苦情が王宮に上がっていた。ゼーマンの試練を受けさせるべきでは?と言う声もあり、次期ゼーマン侯爵のネイドは様々な調整に追われていた。


 ドラゴニア大公が社交界に顔を出さなくなって十数年。突然現れたドラゴニアを名乗る怪しい男。以前のような人を圧倒する雰囲気が失くなった、本物なのか?等々、ある意味有名な二人の婚約が発表されて以来、話題の中心は二家の婚約だった。それに加えて、静観を続けるフォレスター公爵家や、失踪したボーランディア公爵の事も改めて話題になっていた。


「エルシー・フォレスター公爵閣下!リルム・フォレスター様!」

係の男が二人の名を呼ぶと、話題の公爵が突然女性を帯同して現れ、会場に動揺が走った。すぐ切り替えて一斉に礼の体勢に移り、二人の顔を直接見ないようにする様は、まだ秩序は守られているんだとエルシーを安心させた。


 腕を組んで堂々と歩く二人は王族のために用意された席の近くに置かれた椅子に座った。顔をあげて二人を見た参列者は、あの美しく素敵な女性がどの家からフォレスターに嫁いだのかをコソコソと探り合った。二人の仲睦まじい姿に心酔する者もいた。


「リュカルド・ドラゴニア大公閣下!ミレーユ・ドラゴニア・メレンドラ伯爵!」

婚約披露案内があった二人と名前が違うのに家の組み合わせが同じ二人の登場に会場内は騒ついた。


 しかし、最近の舞踏会でドラゴニアを名乗っていた男とは比べ物にならない存在感を放つリュカを見て、こちらが本物だと本能的に察したほとんどの者は先ほどと同じような体勢になった。リュカとミレーユが歩き出すと、ルネが飛び出してきた。


「ミレーユ!あなた何をしているの?伯爵はあなたじゃないでしょう?当主の指輪を持ち逃げしたくせに、指輪を持っているから自分が伯爵だって言いたいわけ?あんたみたいな泥棒は、この大事な婚約披露の場に相応しくないのよ!この恥知らずが!」


 ルネはジュマイヤを大声で呼び寄せた。ジュマイヤの両肩を掴んだルネはジュマイヤをグイッとミレーユの方に押し出した。

「この人が伯爵でしょう?出奔した挙句、勝手に伯爵だと名乗るなんて図々しい!さっさと出ていけ!あんたみたいな阿婆擦れが来る場所じゃないんだよ!」


 リュカはミレーユをエスコートする左腕に右手を乗せて、ミレーユの手を握り締めた。ルネの言い分を聞いて、周囲の人々はまたざわつき始めた。噂で聞いていたルネの言動を初めて見て、面白がったり喜んだりしている人もいたが、大半は眉を顰めていた。


「お父様とお母様は妖精の樹に帰りました。お父様がジュマイヤ叔父様に襲われる前に伯爵位は私が継ぎました」

ミレーユの声はリュカの魔法に乗って会場中の人に届いた。周囲のざわつきはさらに大きくなった。


「せ、精霊王様、ご、御出座!」

係の男の動揺した声が会場に響いた。彼も魔法で声を大きく響かせているのか、騒然とした会場内でも声がよく響いた。礼の体勢を先の二組よりも深くして会場中が精霊王を迎える。


 精霊王の荘厳さに、ルネとジュマイヤも流石に見様見真似で体勢を変えた。リュカとミレーユは真っ直ぐ精霊王を見た。「おじさまじゃない方の精霊王だわ」とミレーユは考えていた。


「はあ?」

リュカの素っ頓狂な声が静まった会場に響いた。

「おまえ!そこで何をしてるんだよ!」

ミレーユが不思議に思ってリュカの指差した方向を見ると、リュカそっくりなミニドラゴンが肩に座っていた。


「来たぞ」

「来たぞ、じゃねぇよ。何やってんだってこっちは聞いてんの!」

「落ち着け、おまえ一人だけうるさいぞ。すぐ分かるから黙ってろ」

「リュカ、注目を浴びていますよ?席に座りましょう」


 精霊王に促されて渋々移動し始めたリュカとミレーユは背後から何かに引っ張られた。正確には、引っ張られたのはミレーユの髪の毛だったのだが、繋がっていたリュカも同時に引っ張られてしまった。


「痛い!」

ミレーユの声を聞いてリュカが振り返ると、ルネが可愛らしく整えられたミレーユの髪を引っ張っていた。


「汚い手で触るな!その手を放せ!」

リュカは魔法でルネの手を払い除け、ミレーユを抱き寄せた。

「こっちの話はまだ終わってないんだよ!メレンドラはアンジェリカのものだ。それにそのドラゴニアは偽物だろう?アンジェリカの婚約者が本物のドラゴニア公爵だ!」


「お静かに」

魔法が籠った声で精霊王が言うと、何か話している様子のルネから音が聞こえなくなり、ルネはその場に縫い付けられたように動かなくなった。リュカとミレーユはハッとした様子で精霊王を見た。精霊王はゆっくりと頷いた。


「参りましょう」

いつの間にか席に座っていた王族の席の隣にリュカとミレーユの席が用意してあった。精霊王は肩にミニドラゴンを乗せたまま王族と挨拶を交わした。精霊王への王族の振る舞いを見てルネは顔色を変えた。動こうにも動けず、焦りが深くなっていく。精霊王は王族を背にして立ち、会場をゆっくりと見渡した。


「皆さん、こんにちは。今日はお伝えする事があります。リュカ、ミレーユ、こちらへ来てください」

リュカとミレーユは精霊王の隣に並んだ。


 並び立つ三人の美しさと、その存在感の大きさに参列者は圧倒された。一人、また一人と目線を下げ体勢を低くしていく。畏怖する者に対する礼を尽くした。


「皆さん、顔を上げてください。こちらの、私の古くからの友人、リュカルド・ドラゴニアがツガイを迎えました。私の愛し子、ミレーユ・ドラゴニア・メレンドラ伯爵です。私の大切な二人のお披露目の席に立ち会った皆様には祝福を授けます」

精霊王から無数の真っ白な花びらが舞い上り、会場中に広がっていった。


「ぎゃー!」

恐ろしい叫び声が聞こえた。ルネがいた辺りに何かが蹲っていた。いつの間にかその周囲には戸惑った様子のアンジェリカとユリウス、目が虚ろなジュマイヤがいた。


「何なの?この汚いのは誰なの?嫌!近づかないで!私たちはまだ入場していないのに!私の楽しみを奪ったのは誰?」

オロオロするユリウスの横で、髪を振り乱して怒り狂うアンジェリカ。ジュマイヤは何かをぶつぶつと呟いている。


 あまりの光景に参列者は壁際に寄って、なるべくユリウス達から離れようとした。逃げ出そうとしたユリウスは何かに阻まれ、アンジェリカから離れられないでいるうちに、恐怖からか座り込んでしまった。


「我らがドラゴニアを語った愚か者がいるようだな」

ミニドラゴンから低い声が響いた。ユリウスとアンジェリカはハッと顔をあげてドラゴンを見た。ドラゴンはゆっくりと人の姿に変わった。


「おまえもドラゴニアだと言うなら、ドラゴンの姿に変わってみろ」

「ヒィー!」

ユリウスは恐怖に満ちた顔でその男を見た。何かを思いついたような顔をして、ニヤリと笑ったユリウスは、リュカを指差して言った。

「あいつだってドラゴニアを名乗っています!」


 リュカはため息をついた。

「はぁ。特別だぞ?今最高に気分が良いからな」

リュカはドラゴンの姿に変わった。ユリウスは腰を抜かして、今更ながら自分が恐ろしい事に巻き込まれていた事に気づき、心の底からルネを呪った。アンジェリカはドラゴンが恐ろしくて、静かに隣で震えていた。


「そこで蹲ってるやつ、お前のカレンの仇だぞ」

「ほう?」

人に戻ったリュカにそう言われたドラゴンは、ルネだった塊を見た。その時塊は起き上がった。


「なーんだ。カレンのドラゴンだったのね?怖がって損しちゃったわ」

ルネだった塊は、若い女の姿に変わった。横にいたアンジェリカは別人のように年老いた姿になっていた。喋れないようで、床に座り込んでいる。

「ひぃぃぃ」

ユリウスは一気に年老いた自分の腕を見て悲鳴をあげた。


 参列者は精霊王が結界を張ったことに気づき、ほとんどの者は静かになった。他の者も「下手に今動いたら危ない」と周囲の人に言われ黙ったが、参列者たちには緊張が走った。


「カレンを助けられなかった愚かなドラゴンなんか怖くないわ。だって私の力の方が上よ!笑っちゃうわ!カレンを見捨てて尻尾を巻いて逃げたくせに、ノコノコと顔を出すなんて!ドラゴンなんて小物はどうでもいいの。やっと会えたわ、精霊王。私、あなたに会いたかったの。私はあなたのツガイよ!私がそう決めたの。さあ!早く私の手を取って、二人で幸せになりましょう?」


 精霊王は精霊王の世界から手元に杖を呼び寄せ、床をトンッと突いた。

「ギャー!」

ルネだった女は雷に焼かれた。

「ヒドイわ。私はあなたの大切なツガイなのに……」


「今です。三回目です」

精霊王の言葉を聞いたエルシーとリュカは魔法陣を発動した。一瞬で足下に広がった魔法陣は美しく、ミレーユは状況を忘れて見惚れていた。


 ミレーユは自身の魔力がリュカに流れていったのが分かった。かなりの量が流れたはずだが、一向に減らない。リルムがツガイは泉だと言ったのを思い出した。


「はぁ。甘くて溺れそう」

「リュカ!声に出ちゃってますよ」

魔法陣は何度も花開き、その美しさに会場中の人々は感嘆した。


 ルネだった女の体は徐々に解れていった。その様子すら美しく、今まさに命が散っている事を忘れて見惚れてしまった。ルネだった女の体は消えた。精霊王は残った魂を呼び寄せ妖精の鎖で封じた。


「あなたの罪は三つです。一つ、数多の人の未来を奪った事。二つ、この国を守護する聖獣に害をなした事、三つ、ツガイを騙った事です。今後、生まれ変わる事を禁じます」


 ルネだった魂は絶望したように何かを叫んでいたがその場にいた者には何も聞こえなかった。精霊王は精霊王の世界から呼び寄せたランタンの中にその魂を入れて封をした。


「お騒がせしました」

精霊王はそう言って、床に転がっていた二人の幼子と一人の赤ちゃんを転移させた。行き先はゼーマンにある幼児院だ。一番純真だった頃に戻った彼らを育て直すためだ。


 床には宝玉が残っていた。

「リール、あの女はいなくなりましたよ?」

精霊王がそう言って宝玉に祝福を贈ると、石は大きな光になり、燃え上がった。炎が反転するとフェニックスになった。


 フェニックスは背伸びをするかのように大きく美しい羽根を広げた。そして徐々に羽根を閉じると人の姿になった。腕に一人の女性を抱いていた。


「おかえりなさい、リール。あなたがコーラルですね?あなたが生まれ育った時代からはだいぶ時が経ってしまいました。遅くなってしまってごめんなさい。やっと時が収束しました」


 コーラルは泣きそうな顔をしたが、無理に笑って首を横に振った。言葉がなかなか出てこないようだった。精霊王はコーラルに向かって頷いて、優しい微笑みを返した。


 精霊王は手を上げた。

「ここに、リール・ボーランディア公爵の帰還を宣言します。皆さんに新たな祝福を!」

今度は紅色の花びらが舞った。わぁっと歓声が上がる。その花びらは王都中に広がって、小さな奇跡をいくつも起こした。


 精霊王は王族の方に歩いて行き、王とその家族に特別な祝福を与えた。

「あなたの御代がこの先素晴らしいものでありますように。宿願を果たせた祝いです。末永いこの国の隆盛を祈ります」

精霊王の足下に跪いた王は感激の涙を流した。





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