11 再会
「ふふふ。あの男はフェンリルです」
「「「え?」」」
この時の三人の表情も揃っていてすごく面白かったらしい。精霊王はしばらく肩を震わせていたが、胸に手を置いて何とか自分を落ち着けたようだった。
「彼は長年フォレスター公爵家の当主をしているフェンリル、エルシー・フォレスターその人です。水鏡でナディーヌを見た時に映っていた小さなフェンリルがいたでしょう?あれがエルシーです。恐らく何らかの縁でジェラルドとナディーヌを保護したのでしょう。そのまま面白がって、というかまあ、一応は心配して、ミレーユの婚約者になれるよう交渉したのでしょう。リュカが見たのもエルシーで間違いないですか?」
リュカは頷いた。
「俺と同じくらいって言っただろ?」
「エルシーはリュカよりも人として暮らしている時間が長いので、いくら幼馴染と言えど、同じと言うのは難しいかもしれませんね」
「大した問題じゃないだろ?人型の聖獣ってのも同じだし、腐れ縁だし。あいつ、ちょっと前までは俺が姿を消してたら見つけられなかったくせに。面白かったのに、俺のこと見えてたし」
「リュカとエルシーが同じかどうかはさて置き、私たちは先ほど、フェンリルの嫁選びの現場に立ち会い、フェンリルとの縁を得ました。人の世界で言うと、お祝い事のお裾分けのようなものです」
「にも、と仰いましたか?」
シメオンは額に汗をかいている。ジェイドは少し震えているようだ。精霊王は人としての姿から本来の輝かしい精霊王の姿になった。シメオンとジェイドは床に跪き、感激して涙を流した。ミレーユは二人のそんな様子を初めて見て驚いた。やはり精霊王は特別な人なのだ。自分の様な振る舞いが許されていることに感謝した。
「ミレーユもこちら側になりつつあるんだな」
リュカが嬉しそうにミレーユの頬を撫でた。赤面したミレーユを見る余裕のないシメオンとジェイド。
「このゼーマンの地は、永年に渡り精霊王である私との約束を果たして来ました。その間私の加護は高まり、この地に悪意ある者が入れないと言われていたのはこれに起因します。そして、あなた方の大切なお孫さんであるミレーユですが、ここにいるドラゴン、リュカルド・ドラゴニア大公のツガイです。ミレーユが大切にしているあなた方もこの領地も、ドラゴンの祝福を授けられるでしょう」
シメオンとジェイドはハッと顔を上げてミレーユを見た。精霊王を前にしても動じず、ドラゴンをあしらっていた姪孫。初々しい様子ではあるものの、彼女は堂々とドラゴンの隣に立ち、ドラゴンはミレーユを愛おしそうに見ている。二人は涙を流したまま手を取り合ってミレーユを見てはお互いを見て頷き合った。
「この地はこれから、精霊王である私と、ツガイの大切なものをも護るドラゴン、嫁選びに立ち会った縁を得たフェンリル、この三者の祝福を受けた地となります。心して暮らすように」
精霊王とリュカの魔法陣が広がった。少し遅れて二つの魔法陣に呼応するようにもう一つの魔法陣が見えた。エルシーの魔法陣だ。三つの魔法陣はどんどん広がって領地を包むように光った後消えた。
シメオンとジェイドは手を取り合ったまま涙を流していた。そこにネイドが帰ってきた。部屋に通されたネイドは精霊王に気付き、すぐ跪いた。
「あなたが次代のゼーマン当主ですね。私は精霊王。お祭りの時にまた遊びに来ます。共に楽しみましょう」
精霊王はゼーマン邸に来た時の姿に戻った。
「では私はシメオンと次代の当主ネイドと美味しいお酒が飲みたいです。さあ、シメオン、これで顔を拭いてください」
精霊王はそう言ってシメオンに布を手渡した。シメオンは布を受け取ったものの、涙でぐちゃぐちゃの顔を拭くのを躊躇ったが、精霊王が待っているので拭くことにした。素晴らしい触り心地だった。拭いても濡れない不思議な布だったのでジェイドの顔も拭いた。
二人の様子を嬉しそうに見た後、
「さあ、行きましょう。ゼーマンのお酒と料理が楽しみなのです。そうそう、ジェイド、これからミレーユが妖精の森で暮らすので、困らないように手配をお願いします。さて、キリヤは私と一緒に行きましょう。屋敷の中も案内してもらって、参考にすると良いですよ」
「やったぁ!」
精霊王とキリヤ、シメオンとネイドの四人は部屋から出て行った。
続いて部屋にノックの音が響いた。
「サラです」
「お入り」
「サラ!無事で良かった!」
扉が開いてサラが入ってくるとミレーユは泣きながらサラに抱きついた。
「ミレーユ様?ミレーユ様こそご無事で何よりです!後から合流した者たちに行方不明になったと聞いて、気が気ではありませんでした」
「私こそ!最後にサラを見たのは倒れて気を失っていた姿だったのよ!私のせいでサラを傷付けてしまったと思って、心配で心配で」
「あの後、ナディーヌ様の騎士が助けてくれたのです。先発隊はあの夜のうちにゼーマン侯爵家に辿り着きました。後発隊も無事合流して、一部はこのお屋敷で働かせていただいています。他の者は領地内の様々な場所で仕事を得て暮らしています。本当に良くしていただいて感謝しかありません」
二人の会話を聞いていたジェイドは「若い子たちがこんなに苦労して」と涙を流していた。
「ミレーユ様、使用人が必要だと伺いました。是非また私どもをお使いください。街で暮らしている者の中にも希望者がいると思います。よろしくお願いします」
サラは深々とお辞儀をした。
「別室にメレンドラの使用人を集めますので少々お待ちください。では私は少し失礼します」
「おば様、ありがとうございました」
「いいえ。本当に良かったわ。皆は言わないだろうから私が言うけど、逃げてきた時、体に傷を負った者もいたのよ。本当に痛ましかったわ。無事だったとは言っていたけど、皆どんな思いでこの屋敷に辿り着いたのか……」
「おば様……」
「今日は泣いてばっかりでごめんなさいね!リュカルド様の御前で申し訳ございません」
ジェイドはリュカに向かってカーテシーをした。
「構わん。ミレーユの大切な人だ。まだツガイになれてはいないが、もしなれなかったとしてもあなたを俺の大叔母として敬おう」
「光栄です。が、ツガイではないのですか?」
「まだ返事を貰っていないし、儀式を経てツガイになるから、まだそうではい。俺にとってはツガイではあるのだが」
「何だか難しいですが、全てが良い方向に向かうことをお祈りいたします」
「うん。ほんとそう」
扉がノックされた。
「ミレーユ、そろそろ集まったみたいね。行きましょう!」
「そ、そうですね。おば様、参りましょう。リュカはどうする?」
「一緒に行く。変な奴がいないとは思うが、目を光らせておかないとな」
ジェイドは曖昧な微笑みでミレーユを見た。ミレーユもただ微笑み返した。
ミレーユたちが部屋に入ると、幼い頃からの使用人たちがいた。皆ミレーユと再会できた喜びで泣いていた。
「みんな!無事でよかった」
サラが代表して前に出た。
「ミレーユ様、全員またミレーユ様の下で働きたいと申しております」
「ありがとう!この数ヶ月のゴタゴタで、あなた方の生活を変えてしまってごめんなさい」
使用人たちは皆首を横に振った。誰が横暴だったかは皆が知っていた。
「森の中にある家に住むことになったの。その家で何人か働いてもらえたら嬉しいんだけど、いちどに全員に働いてもらうのは難しいとも思うの」
使用人たちは相談を始めた。ジェイドに交渉をして侯爵家で働かせてもらいながら、交代制で森の家に対応してくれることになった。騎士も警備をしてくれる。
「ありがとう!助かるわ。こちらはリュカよ。一緒に住む人のうちの一人よ」
「リュカルド・ドラゴニアだ。しばらくしたらうちの屋敷からも使用人が来る。仲良くやってくれ」
全員リュカに礼をとり、それを見たリュカは頷いた。
「早速今から屋敷で働いてもらおう。早速今日から何人か行けるのか?」
「はい」
「よろしく頼む」
「おば様、また会いにきます」
「いつでも気軽に来てちょうだい。ナディーヌとジェラルドの件もあるし、また相談しましょうね」
「そうですね。一つずつ、一つずつ、ですね」
二人はしっかりと抱き合ってから別れた。




