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彼にだけ私の魔力は甘いらしい  作者: もんどうぃま


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10/16

10 ゼーマン


「おかえりなさい。森はどうでした?」

「最高だった」

「おや、リュカご機嫌ですね」

「収穫が大き過ぎた」

「そうなんですか?良かったですね」


 リルムは呆れた顔でリュカを見ていたが、話が終わったのを見て精霊王に言った。

「キリヤが木に頼んで退いてもらったし、もう移せるよ」

「では早速家を移しましょう」


 精霊王とリュカとキリヤで移すからと部屋でのんびりするように言われ、リルムとミレーユはミレーユの部屋でお茶をしながら待っていた。

「家ごと移せるってすごいわね。荷物を纏めなくて良いのよ。楽だわ」

「アタシは初めてのことだからそういうもの?って感じ。人の世界で暮らすの初めてだからワクワクしてるんだー」


「私も森で暮らすのは初めてだから楽しみよ」

「あ!終わったみたいだよ?」

「え!もう?早いわね。リルム、行きましょ?」


 五人は玄関ホールで一緒になった。

「まずはこちら部屋の説明をさせてください」

精霊王に案内されて小さな部屋に入った。床には美しい緑色の魔方陣があった。精霊王の世界との出入り専用の部屋で、精霊王に許可された者しか扉を開けられない。いつでも帰ってきて良いと言われたミレーユは、故郷ができたようで嬉しかった。


 玄関ホールから森へ出ると、精霊王の姿が変わった。

「え!おじさま?お菓子をくださった優しいおじさま!」

「そうなんです。ふふ。早速驚いてもらえて嬉しいです。森に入ったら姿が変わるようになっているんです」

精霊王は嬉しそうに笑った。それを見ていたリュカが無言で精霊王とミレーユの間に入ってきた。


「精霊王、ゼーマン侯爵家に挨拶に行っても良いですか?大叔父と大叔母、それにメレンドラの使用人が無事か知りたいのです」

ミレーユはリュカが見えていないかのように精霊王に話しかけた。


「ああ、ミレーユはシメオンの姪孫でしたね」

「大叔父のシメオンは祖母のアマンディーヌの兄なんです。大叔父をご存知なんですか?」

「ええ。毎年お祭りがあるので、その時にご挨拶に伺っているんですよ。その時に幼いミレーユにお会いしたんですよ」


「そうだったんですね。あまり覚えていなくて」

「姿を変えていましたから、分からなかったと思います。さあ、いつもすまし顔のシメオンを驚かせましょう」


 リュカは精霊王の袖を引っ張った。

「ねえ、精霊王、後で記憶の中のミレーユの姿共有して」

「そう言うと思って念写しておきましたよ。はい。どうぞ」

「はー、さすが。ありがと。はぁ。可愛い。好き過ぎる」

会話が聞こえたミレーユは顔を真っ赤にした。

「リュカ。お願い。しばらく黙っていて」

リュカは精霊王に貰った姿絵にご満悦で話を聞いていなかった。


「さて、シメオンには先触れを出さずにこのまま挨拶に行きます。ゼーマンの屋敷はここから近いので、今から出しても私たちの方が先に着いてしまいますからね。ミレーユがあの家で暮らすのに使用人も何人か必要ですからついでにお願いしてみましょうか。人の世界の建物は劣化しますし、人が暮らすには人の手が必要です」

「精霊王、お心遣いありがとうございます」

精霊王は静かに首を横に振った。

 

 ミレーユは改めて森の家を眺めた。立派な造りだが不思議と森の中にあっても違和感がない。新しい生活が始まることへの期待が膨らんだ。


 ミレーユたちは精霊王の案内で小径を抜け、ゼーマンの屋敷に来た。森の中は美しく、徒歩でも苦にならない距離であっという間だった。


「みんなと会えるかしら」

ミレーユが門番に取次を頼んで皆で待っていると、

「ミレーユ!」

女性が玄関から飛び出てきた。

「ジェイドおば様!」

二人はしっかりと抱きしめ合った。


「あなたが行方不明になったって聞いて心配していたのよ。メレンドラの使用人がたくさん訪ねてきたし、あなたの婚約者だという男性が居座っているし、一体何があったの?」


「ジェイド、まずは屋敷の中に入ってもらいなさい」

「シメオンおじ様!」

「そうね!こんなところで話している場合じゃないわよね。ごめんなさいね」

ジェイドはミレーユの頭を何度も撫でた。

「ネイドおじ様はどちらに?」

「王宮よ。昨日急に呼び出されたの」


「何かあったのかしら。シメオンおじ様、ジェイドおば様、ご心配をおかけしてすみません」

「ミレーユ…またこうして会えて良かったわ」

「無事でよかった」

ジェイドはミレーユを抱きしめた。シメオンはその二人を包み込むように抱きしめた。


「シメオン、ジェイド、お久しぶりです。再会を邪魔してすみません」

「あなたは!大変失礼いたしました」

ジェイドは慌ててカーテシーをした。

「こちらは私の友人のリュカ、リルム、キリヤです。ミレーユと共に森の家で暮らすので、挨拶に来ました。あと、使用人を少しお貸しいただけたら嬉しいのですが」


「もちろんです。手配いたします。どうぞこちらへ」

「ありがとうございます」

ジェイドがミレーユの腕を抱きしめて離さないので、リュカは少し拗ねていた。無言で精霊王について行く。ミレーユはおしゃべりなイメージのジェイドが緊張して無言になってしまったことに驚いていた。精霊王はやはり気楽に話す相手ではないのだろう。今後どう振る舞うべきか……


 応接室に通され、ソファに座った。リュカが急いでミレーユの横に座る。ミレーユは態度が変わらないリュカを見てなんだか安心した。


 精霊王は大きなソファの真ん中に座り、両脇にリルムとキリヤが座った。ミレーユの方を向いて精霊王が微笑んだ。

「ミレーユ、いつも通りで良いんですよ?」

「あ、ありがとうございます」

自分の戸惑いを見透かされた気がして、恥ずかしくなった。


「この部屋には、幼いミレーユが遊んでいた記憶ありませんね」

精霊王がミレーユに聞いた。

「この応接室に入ったのは実は初めてなんです。お母様の部屋の近くに子供部屋がありましたし、先日葬儀で来た時は別棟にいたので」


 応接室の扉が開いて、侍女がティーワゴンを運んできた。

「ミレーユが好きだった物を料理人にたくさん作ってもらったのよ。召し上がって」

ジェイドが皆に勧めた。


 たくさんのお菓子とお茶が積まれたティーワゴンを見て喜ぶミレーユとリルム。キリヤは本で読んだティーワゴンを実際に見ることができて喜んでいる。リュカは喜ぶミレーユを見て喜んでいる。精霊王は楽しそうな姿を見て微笑んでいる。ミレーユとリルムは楽しそうにお菓子を選んだ。


「ミレーユがお友だちと楽しそうに過ごす姿を見ることができるなんて、嬉しいわ。本当に無事でよかった。もちろん落ち着いてからで良いんだけど、何があったのか教えてちょうだい」

ジェイドはハンカチで嬉し涙を拭いながら言った。


 ひとしきりティータイムを楽しんだミレーユはゆっくりと話し始めた。

「ジェイドおば様、まず最初にお伝えしたいのは、母が生きているかもしれないという事です」

「なんですって?ナディーヌが?だってお墓に……」

「元々体は無かったのです」


「そんな…宝玉があったんでしょう?」

「あれはアマンディーヌお祖母様の物だと精霊王が仰っています」

ミレーユはジェラルドに関しても知り得た事を話した。ジェイドは頭を抱えてしまった。


「つまり、ジェラルドは浮気はしていなかったのね?」

「そうなります。そして今は家を乗っ取られた状態です」

「ジュマイヤは子爵家に養子に出たのよね?」

「養子先で実子が生まれた頃にジュマイヤは亡くなったと言われていたんですが、アンジェリカの話から推察するに、市井で生きていたのではないかと」

「なんて事……誰か!ネイドに早馬を出してちょうだい!」

執事は会釈をして素早く部屋から出ていった。シメオンは隣でジェイドを抱き寄せた。


「ミレーユ、メレンドラの家は今どうなっているんだ?」

シメオンが心配そうに聞いた。

「伯爵を自称してお父様のフリをしているジュマイヤ、その妻ルネ、娘のアンジェリカが支配しています。母が雇った使用人は全員解雇されて、こちらにに向かった筈なんですが……」


「あぁ、ここに来た使用人は全員保護したから安心してほしい。あとで会いに行くと良いよ。皆ミレーユのことを心配していたよ。そう言えば、ミレーユの婚約者を名乗る男も来ているよ」

シメオンの話を聞いて隣のリュカが殺気を発した。ミレーユは咄嗟にリュカの手を取った。殺気が急速に和らいだ。


「おじ様、その人は私の婚約者ではありません。実は、こちらのリュカから求婚されていまして、前向きに考えているところなのです。諸問題が片付いたらお返事をしようと思っていて……」

リュカは急に機嫌が良くなって、ミレーユの手を撫でた。


 部屋の外が騒がしくなった。

「おやめください!」

「困ります!」

「僕の婚約者ははどこだい?」

「見つかってしまったか……」

シメオンはため息まじに呟いた。


「やあやあ!君が我が婚約者かな?可愛らしい方だ!」

突然入ってきた男は部屋の中を見渡すと、リルムの前に跪き手を取って甲にキスをした。リルムは冷たい目で男を見た。

「私はリルムよ。ミレーユじゃないよ」

「そんな事はどうでもいい。僕と契約してほしい」

「私が誰なのか分かって言っているの?」

「もちろん」


 リルムは精霊王を見た。精霊王は頷いた。

「いいよ。でも少しだけ時間をちょうだい」

「もちろん」

リルムはミレーユの前に座ってミレーユの手を取った。


「残念だけど、一緒に暮らせなくなっちゃった。相手を見つけてしまったの。でも寂しくないように遊びに行くね。ミレーユ。大好き」

リルムはミレーユの手に口付けを贈った。それが妖精の祝福だと知らなかったミレーユは、驚いたままで何も言えなかった。


「良いよ」

リルムがそう言うと、その男はリルムを抱きかかえた。

「重畳だ。あ、ジェラルドとナディーヌはフォレスター公爵家で保護しているから安心して。今はまだ会わせてあげられないけど、今は急ぐから近いうちに、ではまたね」

男はリルムを愛おしそうに抱きかかえたまま消えた。


 ミレーユたちは呆気に取られていた。後からリュカに聞いた話だが、シメオン、ジェイド、ミレーユの三人は揃ってギギギギと音がしそうなくらいゆっくりと精霊王の方を見たんだそうだ。それを見た精霊王は思わず吹き出してしまった。あんなに精霊王を笑わせることができるのはなかなかいない、とリュカは感心していた。



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