表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者様の保護者  作者: 小語
第2章 クレナの盆地の聖女
8/51

第2話 〈聖女〉メノウ

 メノウに従って歩く一同は静寂に包まれていた。


 メノウは自ら口を開くことは無く、普段はお喋りなスバルとネイロも様子を窺っているため口を開く者はいない。


 それまでジダイの横に並んでいたネイロが小走りになり、先行するメノウの横に並んだ。


「あの……メノウちゃん、て呼んでいいかな?」

「いいよ」


 笑顔で問いかけるネイロに対して、その無表情と抑揚の無い声音からどのような印象を抱いているかは推し量れないが、メノウは素直に頷いている。


「やった。ネイロのことはネイロって呼んでね。あと、スバル君!」


 ネイロに呼ばれたスバルは仕方なさそうに足を速めて二人の少女に並ぶ。ネイロを挟んでメノウへと顔を向けた。


「スバルっていうんだ。よろしく」

「スバル……君」


 メノウがスバルに視線を止める。スバルも間近で見て初めてメノウの美貌を意識したのか、両目を見開いて逸らさなかった。二人に挟まれるネイロは左右に目線を往復させると、手でスバルの顔を強引に正面へと向けさせる。


「ぐえッ、ネイロなに……」

「あはは。メノウちゃん、どうして一人で魔族と戦っていたの」

「わたしは聖女だから」


 ネイロはその意味が分からずに小首を傾げるだけだったが、反応したのはジダイだ。驚いたジダイが声を上げる。


「聖女? クレナの盆地の聖女が君ってことか⁉」

「そう」

「そりゃ、会えて光栄だ」


 ネイロとスバルが不思議そうにジダイを振り返る。魔王の居場所すら知らなかったこの二人なら、聖女の存在を知らなくてもしようがないとジダイは肩を竦めた。


「クレナの盆地の聖女ってのは、神族に近い霊力を持って魔族を倒している有名な存在だ。一説だと勇者にも匹敵する霊力を宿していて、この地域の守護神みたいなもんだ」

「メノウちゃんて凄いんだー!」


 尊敬に顔を輝かせるネイロの称賛を浴び、初めてメノウの面に感情らしきものが浮かぶ。照れたように頬を赤く染め、顔を前に向けた。


「別に大したことないから」


 ネイロがその先の言葉を放とうとしたとき、唐突にメノウが足を止める。それに合わせて立ち止まった一同の視界には、壮大な光景が広がっていた。


 樹木は途切れ眼前は崖になっている。見渡す限り円を描くような崖の高さは五十メートル以上はあるだろう。岩肌には二ヶ所白い線が引かれており、川水が崖下へと流れている。


 崖の下は周縁部が水で満たされていて、その水が澄んでいるのは崖上から注ぐ流れと、どこかに穴でもあって水が循環しているのかもしれない。盆地の中心にある陸地に街並みが広がり、街までは四方から細い通路が水上に伸びていた。


 クレナの盆地。特異な地形で有名な場所がまさにここだった。


「すごーい!」

「ひょえー。よくあんなところに住んでるなー」

「こんな景色、そうそう拝めないな」


 三人がそれぞれの驚きを示していると、メノウが先頭を切って歩き出した。その進む先が崖だったので、ジダイが慌てて追い縋る。


「おい、そこは!」

「大丈夫。ちゃんと階段があるから」


 そう言うとメノウは崖際に沿ってジダイに横顔を見せて歩を進める。その姿は徐々に下がって地面へと消えていった。


 ジダイが崖際によると、メノウの背中が階段を下りていくのが視界に移る。崖の岩肌に階段が斜めに刻み込まれており、何度か折り返して崖下まで通じていた。


「ほう。これで下まで降りるのか。行こう」


 景色に見惚れている二人に声をかけ、ジダイも階段を下りていく。


 しばしの間、スバルとネイロの雑談だけが音響を満たす。四人が崖下近くまで達すると、そこに流れる水音が加わった。


「メノウ様ー! こちらですー!」


 男性の大声が響いたので下を覗き込むと、階段を下りた先の広場のような足場で手を振る三人の人物がいた。


 一同が最下部まで辿り着くと、待ち受けていた三人のうちで最も年長の男性がメノウに問いかける。


「メノウ様、お疲れさまでした。魔族はどうなりましたか?」

「だいじょぶ。ちゃんと滅しました」

「それは喜ばしいことでございます! ……して、後ろの方々は?」


 髪も髭も白い初老の男性が、不審を瞳に湛えてジダイたちを見ている。


「旅をしている人たちだって。こっちがネイロちゃん、あっちがスバル君、後ろがジダイ」

「ジダイさん、な……」


 釈然としない顔で付け加えるジダイには頓着せず、メノウは男性たちと会話を続ける。


「悪い人たちでは無さそうだから、カクレアに案内したいの」

「それは良いですね! いや、みなさま長旅ご苦労様です。クレナの盆地のカクレアはいいところです。どうぞこちらに」


 笑顔で三人の男性に引率され、一同は水上に築かれた通路を歩む。レンガ造りの白い通路はまっすぐにカクレアへと伸び、ジダイたちを導いていた。


 やがてカクレアに辿り着いた一行は土を踏む。この街は水上に建設されたのではなく、元からある島を開拓してできあがったらしい。


「ありがとう。みんなはもう帰ってちょうだい」

「メノウ様、お客様のご案内は?」

「わたしが街を案内するから。泊まるのもウチにする」

「そう仰るのでしたら」


 男たちはメノウに会釈をして踵を返していく。メノウはジダイたちに向き直ると、カクレアの街を指さした。


「ここがカクレア。少し街を案内してあげる」

「やったー!」


 ネイロが飛び跳ねて喜色を露わにする。いつもより言動が騒がしいのは、同年代の少女に会えた嬉しさからだろう。


 メノウに引率されるジダイは街並みを観察する。


 街の入り口の門を潜ると大通りらしい広い道の両脇に店が並んでいる。水に囲まれているからか、建物はほとんど木製で風通しのよいつくりをしている。石材は土台など一部にしか使われていない。


 料理を描いた看板がある飲食店や小間物屋などが軒を連ねており、道路の空いた場所には果物や野菜を売る露店が開かれ、商人が威勢のいい呼び声を上げていた。


 大通りを歩く人々にも住人に混じって旅装の人間が多く、街全体に活気が溢れている。これも聖女であるメノウがこの地域を守っているためだろう。


「今日も魔族を倒してくれたんですってね! いつもありがとうございます!」

「聖女様、ありがとう!」

「カクレアが平和なのも聖女様のおかげってもんです!」


 メノウは面に笑顔を貼り付け、手を振って応じている。聖女として振る舞うメノウは、どこか辟易しているようにジダイには見えた。

ファンタジーにはお約束の聖女。このお話の聖女はメノウちゃんです。

スバルとの距離感とネイロの関係はどうなっていくのでしょうか。

この若さで聖女と奉られているせいか、少し疲れているように見えますね。


名前のメノウの由来は、瑪瑙(めのう)の不思議な模様みたいに、作者から見ても何考えているか分かんねえから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ