第12話 保護者として
ジダイが目を覚ますと、どこまでも白く続く空間が目に映る。
「あ、ここは? 俺は魔王と戦っていたはずだけど」
浮遊感のなかでジダイは周囲を見渡す。白い空間にはジダイ一人だけだった。
「ジダイ」
名前を呼ばれてジダイは正面に目を戻す。そこには紅茶色の長髪と茶色の瞳を有する少女、セイギが立っていた。
「セイギ! 久しぶりだな!」
思わずジダイが笑うと、セイギも笑顔で応じる。
「うん。ジダイ、立派になったね」
「セイギは変わらないなあ」
「そりゃあ、まあね」
セイギが苦笑を浮かべる。
「それより、ここはどこなんだ? どうして、こんなところに?」
「あー、そうそ。ジダイにさ、言いたいことがあったの」
「どうしたんだ?」
「うん。私との約束、守ってくれたんだね」
ジダイが怪訝な表情になると、セイギは腕を組んで笑う。
「大切な仲間と出会って、魔王を倒してくれた」
「ああ。そうだった」
「嬉しかったなー。私のこと、ずっと覚えていてくれたんだね」
「当たり前だよ。俺がセイギのこと忘れるはずないだろ」
セイギが照れたように視線を逸らす。
「魔王も倒したし、俺もセイギと一緒に……」
ジダイが手を伸ばすと、その指先から逃げるようにセイギが後退した。
「どうして?」
「ジダイ、約束を守ってくれてありがとう」
「セイギ?」
「また一緒に旅をしようね。でも、こっちに来るのはゆっくりでいいよ。それまでは、あの子たちと楽しくやっといて」
セイギは踵を返して立ち去っていく。
「待ってよ。俺もセイギと一緒に……」
「ううん。ジダイには、まだやることがたーくさんあるんだから」
後ろ姿を見せるセイギが手を振った。
「ジダイさん!」
「目を開けろよ、ジダイ!」
「ジダイ……!」
騒々しく名前を呼ばれ、ジダイは目を見開いた。
目に染みるような蒼穹が広がり、逆光になった三人の影がジダイを見下ろしている。顔に生温かい雫が幾つも垂れ、ジダイは鬱陶しげに首を振った。
「クソ、なんだ。セイギは?」
「やった、起きたー!」
「心配させやがって!」
「寝起きからご挨拶な言葉ね……!」
自分に降りかかる三人の声を聞き、ジダイの意識が鮮明になる。視界も光に慣れ、それぞれの顔が明瞭に見えた。
「ネイロ、スバル、メノウ」
ジダイの顔を覗き込む三人は安心したように笑みを漏らした。
「ジダイさん、魔王は倒しましたよ! ジダイさんのおかげです!」
「言い眺めだぜ。俺たちが守った景色だ」
「みんな生きていて良かった。ついでに、ネコジタも無事だから」
聞き慣れた年少の仲間の声に安堵しつつ、ジダイは問いを発する。
「俺は死んだんじゃなかったのか」
「ああ。勇者の力が人間を傷つけるわけないだろ」
スバルの言葉を聞いてジダイは納得する。
ジダイとセイギを貫いた勇者の力は、魔王であるドラメシュアのみを傷つけ、ジダイには無害だったのだ。
「そうか。覚悟していたってのに、拍子抜けだな」
そう言ったジダイは、仲間たちが涙を流していることに気付いた。
「どうして泣いているんだ。まだ悲しいことなんて、何一つ起こっていないはずだろ」
「人間は悲しいときだけに泣くわけじゃないんですよ」
「そういう恥ずかしいことを言わせるなよ」
「それだけ口が利けるなら、もう泣く必要は無さそうだけどね」
仲間たちの言葉を聞いて、ジダイは目を閉じる。その目から涙が零れるのを止めることはできなかった。
「セイギ。そっちに行くのは、もう少し先になりそうだ」
勇者の力が人間を傷つけるはずはなく、何とかジダイは生きていました。
久しぶりに会ったセイギも、ジダイが約束を果たしてくれてうれしそうでした。セイギと話しているときのジダイは少し幼いような喋り方になっている気がします。
ジダイが目を覚まして喜ぶ子どもたちも良かったです。
お人好しのおっさんではなく、本当の仲間として認められているようでジダイもうれしそう。
ネコジタもちゃんとメノウが回収してくれました。
「まだ悲しいことなんて、何一つ起こっていないはずだろ」
このセリフが好きです。最初はスバルがネイロに言っており、それを覚えていたネイロが魔王戦でスバルに言っています。
ジダイも二人が言っていた言葉を覚えていたようです。




