第7話 先代勇者の亡霊
「勇者よ。予の前に立つだけあって、見事な力だ。返礼に予も面白いものを見せてやる!」
ドラメシュアが言うと同時に、それまで黒一色だった空間の背景が変わる。まるで夜空を流星が走るような光の線が足元から天頂まで、明滅しながら周囲を彩った。
景色の変化とともに、黒雲を割って小さな影が出現する。
「誰か出てきたよ?」
「あれ、女の子に見える」
四人の視線が集中する先にいたのは、人間の少女だった。
十代中盤ほどで赤い長髪が腰までを流れる。胴体と胸を覆う鉄製の鎧はひび割れており、その衣装も穴が開くなどボロボロになっている。茶色の瞳は虚ろにジダイたちを見つめていた。
当惑する一行のなかで、一際顕著な反応を示したのはジダイだった。
凝然と視線を少女に注ぎ、その口はだらしなく開かれている。全身を硬直させてジダイは少女を見つめた。
ジダイの異変に気付いたネイロが気づかわしげに問いかける。
「ジダイさん、どうしたんですか?」
「セイギだ……。どうして、セイギが?」
ジダイが呟いたのは、十三年前に相棒として一緒に戦った先代勇者の名前だった。
驚愕しているジダイへと禍々しいドラメシュアの声が降り注ぐ。
「予は前の勇者を倒し、その肉体を取り込んだのだ。この人間を媒介にし、平界の霊力を収集して魔力に変換させた。そうして完全体となることができたのだ! 予を称えよ! 崇めよ!」
ドラメシュアの哄笑がジダイの全身を打ち据える。
「この人間は予の道具として役に立ってくれた!」
ジダイの血液が急沸騰する。
霊力を込めた足で地を蹴って跳躍。最高点に達すると渾身の拳を連打した。ジダイの激怒を凝縮したような光弾がドラメシュアに打ち込まれ、幾度も苛烈な爆発を上げる。
「セイギを弄びやがって!」
ジダイは両拳を握って咆哮を放つ。燃え盛る闘気を両手から具現化させ、激烈な光条をドラメシュアに突き刺した。
眩い爆光のなかでジダイが息切れしながら着地する。
激しい攻勢の代償でジダイが帯びる白銀の光が弱まっていた。それでもジダイは再度の攻勢をかけるために全身の力を撓める。
その前に小さな手が伸ばされた。
「落ち着けよ。ジダイが我を失っていたら、俺たちだってどうしたらいいか分からないぞ」
スバルがジダイを見上げていた。その一言で落ち着きを取り戻したジダイは、苛立ちを押し出すように息を吐く。
「すまない。あれは、セイギなんだ……」
「先代の勇者だよな」
「ジダイさんの、相棒だった?」
「許せない」
仲間たちの声が、熱したジダイの精神を冷まさせてくれた。
「おかしいと思っていたんだ。十三年前にセイギは魔王にかなりの損傷を与えたはずだ。それなのに、この短期間に完全体になるだなんて」
「魔王が言ったように、セイギさんの肉体を取り込んで霊力を集められるようにしたってわけ」
「ああ。魔族でも霊力を収集できるから、その霊力を取り込んだんだ。よくも、セイギを……」
歯を噛みしめるジダイへとドラメシュアが語りかける。その声は少女のものに変わっていた。
「この勇者の力と予の魔力を合わせれば、神族にも負けることは無い」
その肉体を操るドラメシュアの感情に合わせてか、セイギが口元を歪ませて笑みを浮かべる。
「許さねぇ!」
ジダイに同調して三人も一撃を放ち、再三の爆発がドラメシュアを襲った。
黒雲の内部から起こった爆発がその表面を爆散させるも、その巨大さからは微々たるものに過ぎない。
「お前たちの力は分かった。ここからは予の力を見せてやろう」
魔王のなかから登場したのは、ドラメシュアに取り込まれた先代勇者であるセイギの亡骸でした。
勇者の肉体を取り込むことで平界の霊力を溜め、それを魔力に変換して復活を果たしたようです。
魔王もネコジタを作って遠方の状況を探ったり、セイギを取り込んで復活を早めたりと、なかなか裏で動いていたみたいですね。
ドラメシュアがセイギの肉体を取り込む、という設定は最初から決まっていました。
ラスボスが魔王といえども、見た目は可愛い女の子の方がいいですからね。
さあ、私が考えたドラメシュア=セイギに勇者よ、勝つことができるかな?




