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勇者様の保護者  作者: 小語
第6章 ヒアイ高原の決戦
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第6話 魔王との対面

 ヒアイ高原の頂上近く、一際広い高原が目前に迫った上り坂を一行は歩いている。


 すでに低層の雲は眼下に位置し、見下ろせば平野の緑と雲の白が果てしなく広がる。反対に頭上の空は近くなり、中天を過ぎた太陽の光も澄んでいるようだった。


「ここを登り切った先の平坦な地形の一角に、光を吸い込む闇の塊がある。それが魔王の仮の姿だ。油断するな」


 ジダイの言葉に年少の仲間たちは頷いた。


「ネイロはそのまま霊力を溜めていてくれ。魔王を相手に戦闘が始まってから溜める余裕は無いからな」


 ネイロは目をつぶって祈りの姿勢のまま歩いている。転ばないようにスバルが横で肩を支えて誘導していた。ネイロの腰にはネコジタ人形が紐で括りつけられている。


「魔王が現れたら白銀の光……〈白銀お色直し〉で俺たちを強化。全員で短期決戦を仕掛けるんだ。魔王との戦いで長丁場になるとこっちが不利になる」

「分かったわ。一気に勝負をかける」

「勇者であるネイロは当然として、メノウも頼りにしているぞ」

「あー、ごほん、ごほん」

「もちろん、スバルにも期待しているさ」

「おうよ!」


 魔王との戦いが間近に迫っても、いつもの調子を崩さない仲間たちをジダイは頼もしく思う。


「三人とも自信を持つんだ。みんなは、十三年前に魔王と戦った頃のセイギや俺よりも力をつけている。必ず魔王にも勝てるさ」


 ジダイは、それまで伸びていた坂道が途切れていることに気付く。その先は道が平坦になっているせいだ。魔王の居場所が近い証拠だった。


 坂道を登り切った四人は平原に出た。先ほどネコジタたちと交戦した場所よりも少し狭く、遥か奥は切り立った崖になっている。ジダイたちが辿ってきた坂道以外の三方は岩肌の見える崖に囲まれていた。


 そして草原と降り注ぐ日差しの穏やかな景色のなかでは異様にも映る、暗闇を凝縮したような黒いわだかまりが遠目に位置していた。


 ジダイが三人を連れて暗黒の球体の前に立った。


「出てこい、魔王! 勇者一行が来たぞ!」

「臆せずにここまで来るとは、その勇気に称賛を贈ろう」


 それまで周辺の光を吸い込み、表面が揺れ動いていた暗黒の球体から声が放たれる。先ほど空から聞こえた声に紛れもない。


「魔力を取り戻し、完全体となった予の姿を見るがよい」


 魔王がそう言った直後、世界ごと振動するような激しい揺れが一行を襲った。魔王である黒い球体から、幾筋もの暗黒の帯が飛び出して空間に突き刺さる(・・・・・)。そこから空間が玻璃(ガラス)のようにヒビ割れていき、穏やかだった背景が破片のように崩壊していった。


 崩れた空間の奥から現れたのはどこまでも深い暗闇。ジダイたちは暗黒の世界に閉じ込められた。背景は暗く光源も無いのに、不思議とお互いの姿は明瞭に見える空間だった。


「ここはなんだってんだ⁉」

「分からん。十三年前もこんなことは無かった。魔王が完全体になったというのは本当らしい」


 スバルは動揺しつつネイロを庇うように肩を抱いている。


 腰に違和感があってジダイが見下ろすと、メノウが服の裾を掴んでいた。


「メノウ、どうした……?」

「ネイちゃんにはスバル君がいるけど、わたしにはいないから。たまには、いいでしょ」


 さしものメノウも無表情のままだが、恐怖を感じているらしい。


 突如、闇の奥から巨大な存在が迫ってきた。


それは黒雲のように揺れ動き、表面を絶えず流動させている。本体の大きさは推し量ることもできず、見上げれば倒れてきそうなほどの高さ、見通すことのできない奥行きまで暗雲が続いていた。


 その黒雲の一部が左右に伸びて腕のような部位を形成し、その先にある五指が不気味に蠢く。


 ジダイは圧倒されるようにその姿を見上げた。


「あれが魔王、〈罪業のドラメシュア〉だ……!」


 全体が内部から渦巻くような黒雲が魔王の本体だった。中央の本体では稲妻のように、ときおり赤い閃光が発している。


「さあ、勇者よ。予が完全体となった今、三百年の封印からも解き放たれた。この空間は予の故郷である魔界との境。これからあの平界を破壊しつくし、魔界に併呑することとする」

「そんなことはさせないから!」


 ネイロの澄んだ声が魔王に反駁した。


 ネイロを中心にして放射状に白銀の光が放射される。数秒後、ネイロは勇者の力を発動して薄氷色の瞳でドラメシュアを睨み上げていた。


 ジダイたちも〈白銀お色直し〉によって全身が光を帯び、勇者の力を付与されている。


「みんな、ネイロに力を貸して!」

「一斉に攻撃するぞ!」


 ネイロが両手から鮮烈な白銀の光を照射。スバルが剣を振ると半円の光が放たれて魔王へと飛んでいく。ジダイの右拳からは青い光弾が突き進み、メノウは〈断罪の方舟〉を召喚した。


 四色の光が暗雲に殺到し、その表面を突き破って内部までを穿った。次の瞬間、振動が伴うほどの爆音とともに閃光が炸裂。


 ドラメシュアの本体である黒雲が内部から爆発に食い破られた。一部の黒雲が四散し、ドラメシュアの雄叫びが響く。


「おお、スッゲー破壊力だ!」

「少しは効いた?」


 予想以上の効果にスバルとメノウが浮き立った声を上げる。


「どうかな、ジダイさん?」

「セイギの攻撃以上の威力が出ていたはずだ。少なくとも損傷を与えていると思う。気を抜くな、ここから連続して叩き込め!」

「おー!」


 ジダイの言葉に勢いづいた声が続く。


 再び勇者一行の斉射が放たれ、二度目の大爆発がドラメシュアの肉体で弾ける。


「ぐおぉぉぉお!」


 ドラメシュアが叫びを上げ、苦痛のためか黒雲が激しく流動した。


「凄い! 効いてる!」

「これなら本当に勝てるぞ!」


 希望が見えたことでジダイが拳を握りしめる。


 十三年前は、ほぼセイギが戦って自分は足を引っ張るだけだった。今では、年少の仲間とともに魔王と戦うことができている。


「もう少しだ。きっと敵を討つからな、セイギ」


 ジダイの口唇から独白が漏れる。

ついに魔王、ドラメシュアとの対面のときです。

魔王の外見は超巨大な黒い雲のようで、肉体は魔界と繋がっているようです。

魔王の作り出した異世界に閉じ込められたジダイたち、果たして魔王を倒すことはできるのでしょうか。


珍しくメノウも恐怖心を抱いているようですね。

ネイロにはスバルがいるので、仕方なくジダイに甘えています。

ネイロとスバル、でニコイチになるため、どうしてもジダイとセットにされてしまうメノウ。

「こんなはずではなかった」と思っているかもしれません。ごめんね、メノウ。

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