第4話 魔王様第一の腹心ネコジタ対バカガキどもの戦い
ジダイが最後のカブトを倒すと、広い平原は幾つもの大穴と四人以外に影は存在しなくなった。そう思ったが、離れた場所に一つの影が残っている。
薄紫色の体表をし、猫人形のような外見をした魔族。ネコジタが一人で佇んでいた。
ネコジタは配下の魔族が壊滅したことが信じられないように、大口を開けて四人を見つめている。ネイロたちもネコジタに気付くと走り寄った。
「あ、ネコジタさんだ。久しぶりー」
「お前、生きてたんか。何してたんだ?」
「こんな近くで見たの初めてね。けっこういい手触りじゃない」
「え、えぇーい! 気安く我輩を取り囲むな! 話しかけるな! 触るな!」
ネコジタは走って距離を取ると、再び向き直って一同を指差す。
「我輩の配下を倒したことは誉めてやろう。だが、我輩も魔王様第一の腹心。絶対にここから先へ行かせるわけにはいかんのだ!」
「ネコジタちゃんよ。偉いと思うけど、俺たちはクライクライも倒しているんだぜ。今さら、お前が相手になるとは思えないけどな」
「うるさい! 我輩は魔王様の腹心だ! 魔王様のためにお前たちを倒し、勇者を魔王様の元にお連れするのだー!」
ネコジタの気迫に気圧されたようにスバルが閉口する。
「我輩の最強の魔装筐体で、お前たちをぶっ飛ばーす!」
ネコジタが声を張り上げるとともに、その周囲に鉄片が出現する。その鉄は徐々に大きさを増していくと、ネコジタを取り込んである形を構築していった。
「ネコジタさん……」
「前見たのより強そうじゃん」
「本気ってわけね」
四人の前に佇むのは、鋼鉄で形成された巨大な人形だった。
体高は五メートルほどもあり、花の国で見せたものと似た造形をしている。鋭角的な輪郭をしていて、四肢を繋ぐ関節部は球体で形成される。右手は長大な剣で、左腕の先は平坦になってその表面に穴が開いていた。
両肩には大きな盾のような鉄板が装着され、背中からは翼のようなものが左右に伸びている。胴体の上に頭部は無く、ネコジタが搭乗して両手に操縦用の棒を握った。
「我が魔装筐体の最強形態。〈超究極完全無欠型番ラセツ〉。クライクライ卿にも遅れは取らないこの力で、魔王様のためにお前らを倒す!」
ネコジタが両手の棒を動かすと、背中の翼から青い炎が噴き出てラセツが宙に浮き上がる。高速で飛翔したラセツが右手の剣を薙ぎ払った。
「クソ。防げそうにない。逃げろ!」
ジダイの声を聞くまでもなく、それぞれは背を見せて走り出した。ラセツの剣が大地を斬り割くと、地面が盛り上がって波のように打ち震え、地割れが四方に伸びた。
衝撃で四人は空中に飛ばされる。ジダイとスバルが見事な身ごなしで着地し、落ちてきたネイロをスバルが、メノウをジダイが受け止めた。
メノウを腕から降ろしてジダイが口を開く。
「ネコジタめ、口先だけではないみたいだな。今の状態じゃ勝てないぞ」
「でもさ、もう白銀の光は消えているぜ」
さすがに何百体もの魔族を倒した後で、白銀の光は消失している。ネイロも勇者の力は解かれ、いつもの姿に戻っていた。
「ネイロ。また勇者の力が必要だ」
「は、はい!」
ネイロが祈りの姿勢を取る。
「させるかぁー!」
すかさずネコジタがラセツを操縦。ラセツが左手を差し出すと手首の部分が高速回転する。次の瞬間、左手に空いた穴から黒い光弾が連射されて地面を穿った。
慌てたジダイが両手を掲げて光の障壁を形成する。その表面に触れた光の飛礫を弾くが、すぐに防壁に亀裂が入っていく。
「俺の防御じゃ耐え切れん!」
「はぁっはっはっは! 秒間十六発の超速射だぁ!」
「まずい! 防御が壊れたら逃げろ!」
それから数秒も経ずに光の防壁が瓦解。それと同時にスバルがネイロの手を引いて駆け出す。メノウはジダイの横に留まっていた。
「何している。早く……!」
「相手の攻撃を止めないといけないから」
有無を言わさずジダイがメノウをお姫様抱っこして逃げ出す。メノウは抱き上げられたまま本をめくっていた。
「〈絶叫をかき鳴らす楽器〉!」
メノウの声と同時に四つの十字架がラセツの周りに出現する。
「またこの技か! もう怖くないぞ!」
ラセツが旋回して十字架を剣で斬り倒す。そのおかげで逃げる隙ができた。
地面から突き出た岩陰に身を隠したジダイがメノウを下ろす。
「ネコジタのくせに強いじゃないか」
「わたしの霊力も少ないから、大技も使えないよ」
「そうか……。ネイロたちはどこかな」
「あそこ」
メノウが指差す先には、同じようにネイロとスバルが岩の陰に身を潜めていた。
「よし。あそこならネイロが霊力を溜められる」
ジダイが安堵していると、勝利を確信したようなネコジタの愉悦の声が響く。
「隠れても無駄だ! 勇者の力を使わせなければ我輩の勝利だー!」
背中の翼から炎と噴煙を出しながらラセツが空中を飛ぶ。剣を振りかざして大岩へと斬りかかった。ネコジタの攻撃に気付いたスバルがネイロの手を取って走り出す。
ラセツの一撃が岩を粉砕、背後からの衝撃で手を握り合う二人の足がもつれる。そこへラセツの集中砲火を撃たれ、ネイロが霊力を溜める隙も無く二人は逃げ惑った。
「ネコジタの奴、ネイロに霊力を溜めさせない気だな!」
「悔しいけど効果的な作戦だね」
メノウの声を背にジダイが岩陰から飛び出し、両手に霊力を集中させる。
「ネコジタッ!」
ジダイの怒号にネコジタは攻勢を止めて振り向いた。
「何だ? お前もラセツの餌食になりたいか」
「そのつもりはねえよ!」
ジダイは両手を伸ばして掌から眩い青色の光条を照射した。その鮮烈な一撃をネコジタは余裕を持って迎える。
「無駄なのだー!」
ラセツの両肩の盾から赤い光が伸び、その全身を光の防壁が包み込んだ。ジダイの放つ光条はその表面にあっけなく弾かれて霧散する。
「なに⁉」
「この光の盾はそう簡単には破れんぞー! そしてお前の相手をしている暇は無い」
ネコジタは再びネイロたちへ銃撃を開始する。空中を飛行しつつ光弾を連射されては、手も足も出ずに逃げ回るしかない。
「メノウはそこに隠れているんだ」
ジダイはネイロの援護のために駆け出す。走りながら光弾を何発も放つが、ラセツを包む赤い防壁に虚しく阻まれるだけだった。
ネコジタはジダイを見向きもせず、ネイロへの攻撃を繰り返している。
「俺じゃあ気を引くこともできないのか」
ジダイが悔しげに歯噛みする。
ジダイが向かってきたことに気付いたのか、スバルとネイロが走り寄ってきた。
「きゃあー、ジダイさん!」
「二人とも大丈夫か?」
「ジダイ、ネイロを任せた!」
「あ、おい!」
ネイロをジダイに押し付け、スバルが疾走する。仕方なくジダイは片手で防壁を展開しながら、ネイロを連れて逃げた。
一方、スバルは大きな岩の横に立って声を張り上げる。
「おーい、ネコジタちゃん! ビビッてないでこっちに来てみろよ!」
「ほほう。身の程を知らないようだな。バカガキに力の差ってものを教えてやるー!」
額に青筋を浮かべてネコジタが棒を縦横に操作。ラセツが急旋回してスバルへと肉薄していく。その後ろ姿を見てジダイとネイロが一息吐いた。
「さすがスバル君! 相手を挑発させたら世界一!」
「そんなこと誉めている場合じゃないだろ。スバル、何考えているんだ?」
ラセツは瞬く間にスバルへと接近、右手の長剣を振りかぶる。
「食らえ!」
スバルは器用に岩を登って待ち受けた。ラセツが斜めに振り下ろす斬撃で岩を破壊すると同時に、スバルが跳躍。地面に切っ先が突き刺さって動かなくなった剣の側面に着地すると、そのまま水際立った体捌きで駆け上がる。
「ネコジタッ、直接斬ってやる!」
「ナンダトー⁉」
スバルが身軽に跳んで斬撃を叩き込もうとするが、刃が障壁に触れると火花が飛び散った。閃光とともに弾かれたスバルが宙に投げ出される。
巧みに姿勢を整えたスバルが何とか着地するも、ラセツの光弾を浴びて地面に背中から打ちつけられた。
「うわ!」
「浅はかだったな、バカガキ!」
ネコジタが操縦桿を動かし、ラセツが剣を天に向ける。それが振り下ろされる寸前、横合いから飛んできた光弾が剣の腹に当たって爆発。ラセツが衝撃で斜めになった隙に、ジダイとネイロがスバルへと辿り着いた。
「スバル君、無事⁉」
「うーん、カッコいいところを見せられなかったな」
「無茶し過ぎだぞ」
横たわるスバルをネイロが支え、ジダイは二人を庇うように立ちはだかる。
ついにネコジタとの全面対決のときが来ました。
ギャグキャラが本気で戦うのって個人的に好きです。
ネコジタはネイロの強さを知っていて勇者化されると勝てないのは分かっているため、そもそもネイロを勇者化させない戦術を取っています。ネイロにとっては有効な作戦で、意外と合理的な考え方のできる奴です。
よく分かんないレバーをガチャガチャやってロボを動かす敵キャラって、そうです。有名なあのキャラです。立ち位置的にもあんな感じですが、本当にあのキャラはよくできていますね。凄いや。
本作のマスコット的なキャラだけあってお気に入りでもあります。
ネコジタ、このままバカガキどもに勝ってしまうのか?




