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勇者様の保護者  作者: 小語
第4章 花の国の防衛戦
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第11話 保護者ジダイの消失

 ワルグチを倒したジダイは花の王、ヒラリの援護に向かう。


 ネイロたちの身も気にかかるが、花の王が失われた場合の損害は世界規模になる。どうしてもヒラリの援護に回らざるを得なかった。


 ヒラリは花の精を守るために立ちはだかり、防戦一方になっていた。すでに手にする剣は刃こぼれしており、ヒラリの衣装は随所が切り裂かれて素肌が見えている。


 ジダイが駆け出すと同時、後方から轟音が響いてきた。足を止めてジダイが目を向けると、白銀の光に身を包んだネイロが、大きな人形を圧倒している光景が映る。


「クライクライ卿ー!」


 ネコジタの叫び声が戦場に届く。


「ほう。あれが勇者か」


 クライクライが言うと、棺がネイロへと向きを変える。


「クライクライ、行かせは……!」


 ヒラリが剣を振りかざすが、黒い波動がその身を弾き飛ばす。後ろに弾かれたヒラリが背中から地面に衝突、数回転して動かなくなった。


 クライクライがネイロへと直進し、ジダイは警告を発する。


「ネイロ、クライクライが行くぞ!」


 ジダイの声に応じてネイロが棺に向き直った。


 ネイロが手を差し出して白銀の光を照射。クライクライは横に動いただけでその射線から安全圏に逃れると、上昇して建物の二階くらいの高さで浮遊する。


 ネイロが連続して光を放つも、空中で不規則に動くクライクライには狙いが定まらず掠りもしない。自ら攻撃をかけず、ネイロの攻勢を躱すだけのクライクライの意図をジダイが察した。


「ネイロ、力を無駄遣いするな!」


 見回すと、ネイロから離れた位置でスバルとメノウが座り込んでいる。ジダイは急いで二人に駆け寄った。


「無事か?」

「んー、まあ、見ての通りってところか」

「ネイちゃんが本気を出したら終わったも同然」

「いや、クライクライは霊力を消耗させ、その後でネイロを倒すつもりなんだ」


 ジダイの言葉を聞いた二人は驚いて両目を見開く。


「動けるか? ネイロの援護に行かないと」

「分かった」

「わたしも、もう少しで〈断罪の方舟〉を呼び出せる。あれなら戦える」


 ジダイは頷くと、スバルを伴ってネイロの元に向かった。


 ネイロは攻撃が外れることに焦ったのか、全方位に光を放出する。さすがにその光はクライクライも回避できなかったが、それ自体に殺傷能力は無い。棺が白銀の光を帯びると、ネイロは両手を頭上に掲げる。


「おさかな爆弾!」


 ネイロの上に現れた球状の霊力から、幾多の細長い形状の光が射出される。その光は尾びれと背びれを有する魚のような形状をしており、ネイロの白銀の光を浴びて目標化(マーキング)された標的を自動追尾する攻撃だ。


「いっけー!」


 雲霞のように空間を埋め尽くす『おさかな爆弾』がクライクライへと殺到。四方八方から迫る光弾の群れから逃れる隙間は存在しない。


 クライクライはその場で微動だにせず待ち受ける。おさかなを模した光弾の一群が強襲するも、その周囲に透明な壁があるようにクライクライには届かず爆発していった。


「拙い。弱い」


 笑声を上げたクライクライが急降下してネイロへと向かう。迎撃しようとしたネイロだったが、自身を包む白銀の光が弱まっていることに気付いたようだ。


 初めて霊力が尽きた事実に愕然とするネイロへと棺が迫る。


「ネイロ!」


 寸前のところで駆け寄ったジダイがネイロを突き飛ばした。


 棺から伸びた黒い靄が手の形になってジダイを掴み、そのまま上昇していく。


「む。人間、余計なことを」

「お前の思い通りにさせるか!」


 ジダイは黒い靄から逃れようとするも、胴体を鷲掴みにされて動くことができなかった。


「ジダイ!」


 スバルが叫ぶも、地表からでは手の出しようがない。ネイロもジダイに攻撃が当たることを恐れて攻撃できないでいる。いや、すでに霊力が尽きて勇者の力は失われていた。


「必要なのは勇者なのだ。人間、お前は……」


 クライクライが言いかけたとき、下方から澄んだ声がかかる。


「ジダイさんを放しなさい!」


 ヒラリが足を引きずりながら剣を掲げていた。


「やっと発動できる。〈断罪の方舟〉!」


 メノウの声に呼応し、天空に稲光が走った。渦巻く雲と閃く雷光の中央から、一つの街ほどもある木製の方舟が下降してくる。


「あれは神族の戦艦……。このままでは分が悪いのは認めよう。ネコジタ殿、今回の戦いはここまでだ」

「クライクライ卿、置いてかないでください!」


 涙目になって叫ぶネコジタの周囲の空間が揺らめく。次の瞬間には、ネコジタの姿はその場から無くなっていた。


「勇者よ。この人間を返してほしければ、ここより北西の『世界水車』の里まで来るのだ。その里の者に、ある伝承を聞けば分かる。その場所で、私はこの人間を預かっていることにする」


 クライクライが告げるとその周囲が揺らめく。魔族が空間移動するときの前兆だった。


 年少の頼りない勇者に最後の助言をするべく、ジダイが口を開く。


「俺のことは気にするな! 魔王が封印されているのは、ヒアイ高原だ! ネイロ、やっぱりまだ早いんだ! もっと修行して、いつか魔王を……!」


 ジダイの身体が引っ張られ、クライクライの本体である棺が開いてそのなかに飲み込まれた。


 視界が闇に閉ざされ、ジダイの意識もそこで途切れた。

ネイロの弱点を見抜かれていて、霊力が切れたところを捕獲しようというクライクライの作戦でした。

危ないところを身代わりになったジダイは保護者だけはあります。

ジダイに邪魔されて目的は果たせなかったクライクライですが、ジダイを人質にしてネイロを誘き出す作戦に切り替えました。

保護者抜きで、子どもたちはジダイを取り戻すことができるでしょうか。


ここで第4章は終わりです。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

次章は、『世界水車』と呼ばれる大きな水車のある場所で、クライクライとのリベンジマッチです。

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