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勇者様の保護者  作者: 小語
第1章 フルフル平野の出会い
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第3話 昔々の魔王のお話

 遥か昔、この世界には神と魔王がいました。


 神は神界(しんかい)の主であり、魔王は魔界の主でした。神と魔王は協力し合い、神界、魔界、そして両者が創造した人間の住む世界である平界(へいかい)、協力して三つの世界の平和を維持してきました。


 神は平穏を司り、平界で疫病が流行したときには天使を赴かせて病を鎮め、独裁者に立ち向かう民衆を鼓舞することもありました。


 魔王は武力を司り、ある強国が虐殺を始めたときには配下の魔族を派遣してその国を壊滅させ、強力な兵器が開発されるとそれを壊し、人間の力の均衡を保ちました。


 神と魔王は協力して世界を存続させてきたのです。


 その平和が破られたのは五百年前、魔族が魔王に対して反乱を起こしたときでした。


 魔族は平界で人間の勢力を削る役割を担ってきましたが、そのために人間から忌避される存在となり、それが魔族の不満を募らせたのです。


 自分達が悪役である現状に我慢できなかった一部の魔族が魔王に反旗を翻し、魔族のなかで大乱が起きました。


 魔王は反乱を治めるために戦いましたが、腹心であった強力な魔族が七体結託しては敵わずに滅ばされてしまいました。


 七体の魔族は魔王の肉体を取り込んで強大な力を有すると、今度は神に戦いを挑みました。


 神と魔族の戦いは二百年にも及び、人間の勇者と協力して何とか七体の魔族を封印した神は力を使い果たして眠りについてしまいます。


 統率者であった魔王を失った魔族は、ただ人間と神族を攻撃することを目的とするようになりました。


 そして、神の庇護も少なくなった人間を守る存在が『勇者』でした。


 神族と魔族が人間に対して過度な干渉を行ったときの自己防衛存在、勇者。勇者は人間でありながら、神族や魔族に匹敵する能力を有し、人間を守る存在でした。


 勇者は何度も平界に現れながら、魔族からの過干渉を退ける英雄となっていたのです。





 ネイロは、宿屋に宿泊している二人の子どもに物語を聞かせていた。


 机上に開かれた本には文字だけでなく挿絵も描かれており、ネイロの綺麗な声も相まって子どもたちは興味津々の様子だ。


「お姉ちゃん、その先は?」

「うん、えっとね……」

「ネイロ、そろそろ村長さんの話を聞こうぜ」


 横合いからスバルに急かされ、ネイロが眉をひそめる。


「でも……」


 言い淀んだネイロが次の言葉を発する前に、女将が飲み物を運んできた。


「さあさ、ヤワタリ村特産のお茶ですよ。そっちの子どもたちは私が相手をしますから」


 女将は手際よくお茶を並べ、本を手にすると子どもたちを連れて隣の円卓へと移動していった。子どもたちは暇を持て余しているのか、嬉々として女将の後に続いていく。


「さ、それでは私に聞きたいことがあるとのことでしたが」


 円卓には村長とジダイたち三人が座り、それぞれの前に湯気の上るお茶が置かれていた。


「そうです。実は気になることがありまして」


 珍しく真剣な顔つきになったスバルが顔の前で手を組んでいる。


「なぜ鍋を頭に被っているのです?」

「そこじゃないだろ。いや、気になるけども」


 ちなみに、村長が被っていた鍋は卓上に置かれている。


「鍋ですか? この通り村には矢が降り注いでいるので、安全のためですよ。鍋を被っているだけで生存率が三倍くらい違うのです」

「ははあ、なるほど」

「聞きたいということはそれですか?」

「ええ。ありがとうございました」

「だから違うだろ」


 スバルに任せていては話が進まないと思い直し、ジダイが会話を進めることにする。


「この一帯に矢が降らせているのは魔族だとお聞きしましたが、本当なのですか」

「ええ。一年ほど前にフルフル平野に魔族が住み着きまして。どうやら、その魔族が矢を降らせているらしいのです」

「一年! よくこれまで耐えてきましたね。討伐の要請はしなかったのですか」


 ジダイの一言を受け、村長は卓上に置いた鍋を撫でる。その表情には皺よりも深い懊悩が刻まれていた。


「もちろん、城には救援を要請しました。そのおかげで三百人の討伐隊が魔族を倒すために派遣されたのです」

「……では、その結果は」

「はい。フルフル平野に派遣された討伐隊は、多くの犠牲を出しながらも元凶である魔族を発見したそうです。ですが、魔族と交戦して生き延びた者はごく僅か。聞いた話では、帰還した兵士は三十人に満たなかったとのことでした」


 ジダイが息を吐き、目の前の容器から立ち上る湯気が揺らめく。


「フルフル平野に住み着いた魔族というのは、それなりに強力な存在らしい。多くの被害が出ているようですね」

「そうです。討伐隊だけでなく近隣の村にも被害が出ています。それに、いつまでも子どもたちに屋内にいさせるのも可哀想でして」


 そう口にして村長は二人の子どもに目を向ける。二人は姉妹なのか、似た容姿を並べて女将が読む本の内容に聞き入っていた。


「この村は昔からレンガ造りの建物が多いため、近隣の村から避難民を受け入れているのです。それで宿屋まで満室でして。あの子たちも、ここ一年はこの宿で過ごしてばかりです」

「それは、可哀想ですね」


 ジダイが頷く。すでにフルフル平野に住まう魔族を倒す意志は固まっていた。


 ジダイがその決意を口に出すよりも早く、横のスバルが立ち上がる。


「魔族のことはお任せください。何と言っても俺たちは勇者一行ですから」


 スバルはそう言って、テーブルの横に移動すると剣を抜き放った。少年の身の丈に合った短めの剣が天を指し、研ぎ澄まされた刃が光を反射して一同の目に眩しい。


「間もなく魔族はこの剣の露と消えるでしょう。あっはっはっは!」

「きゃー! スバル君、カッコいいー!」


 すかさずネイロがスバルの周りを走りながら紙吹雪をまき散らし、格好を決めるスバルを彩った。


「その紙吹雪はどこから出しているんだ?」


 ジダイの疑問はさておき、早くもスバルは剣を収めてネイロは紙吹雪を箒で片付け始めた。呆気にとられる村長へと愛想笑いを浮かべながら、ジダイが口を開く。


「いや、まあ、とにかく、俺たちに任せてください。必ず魔族は倒してみせますよ」


 笑顔を浮かべた村長は声音にも期待を込めて言い放つ。


「分かりました。ぜひとも魔族討伐をお願いします」

「はい。この勇者にお任せください!」


 若い希望に村の未来を託すように村長が頷き、机上に置いてある鍋を取り上げた。


「この村のために戦ってくださる皆様に、村を代表して感謝します。ぜひとも、これをお持ちください」


 スバルとネイロ、ジダイの視線がその物体に集まり、異口同音に言葉が紡がれる。


「鍋?」

神と魔王の関係だけ少し考えてみました。

このお話の魔王は元々は悪い存在ではなく、人間界のパワーバランスを保つために破壊を行ってきました。

配下の魔族がそれに不満を持って魔王を倒して自分のなかに取り込み、統制の取れなくなった魔族が暴れている設定です。

魔王を取り込んだ七体の高位魔族が、現在「魔王」と呼ばれる存在になっています。

今回のお話では七体を倒す時間(規定用紙枚数)が無いので、頑張って一体を倒しに行きます。

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