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勇者様の保護者  作者: 小語
第4章 花の国の防衛戦
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第7話 花の国と魔族の戦端

 一夜が明け、ジダイたちは洗顔を済ませた後、ヒラリと朝食を取った。


 夜中の懺悔のせいでジダイの目は少し腫れぼったいが、戦闘には問題のない範囲だ。いつもと変わらぬ態度で接してくれる年下の仲間に感謝しながら、ジダイは戦いの準備をしている。


「魔族はいつ攻めてくるんだろうな」


 三百年前の勇者が使用したという愛剣を腰に提げ、『花の寝台』に座るスバルが口を開いた。


「分からない。だが、花の精が周囲を監視してくれているし、魔族が攻めてくればすぐに分かるさ。それまで、ゆっくりしておくんだな」

「うう、魔族が来るって分かっているのに、緊張してゆっくりなんてできませんよ」


 ネイロが右手首に巻いた〈星屑の祈り〉を触りながら言う。不安なときはそれを撫でるのが最近の癖になっているようだ。


 ジダイは意味ありげにネイロを見やると、意を決した。


「なあ、ネイロについてみんなに言っておきたいことがあるんだ」

「ネイロについて?」


 自身が話題になると知って怪訝な顔色になるネイロ。


「ネイロはよくやっていると思うよ。あんまり気が強く無いのにだな、魔族と戦って……」

「いまさら、そんなこと言っていないで早く本題に入ったら?」


 メノウに冷めた声音で遮られ、ジダイは両手を揉み合わせつつ語る。


「実を言うと、ネイロは勇者として、何と言うか弱いんだと思う」

「ネイロが弱いって⁉ ジダイ、ネイロの強さを分かっているだろ?」

「そりゃ俺もネイロの力は認めているし、俺なんかとは比較にならない」

「だったら、なんでそう思うんだよ」


 ジダイはネイロの様子を横目で窺う。面と向かって弱いと言われて平静ではいられず、ネイロは暗い顔を伏せていた。


 なぜかメノウは本をめくっている。穏やかではない。


「セイギと比べると、ネイロは明らかに弱い。戦闘の技術だけじゃなく、勇者としての力もセイギの方が上だったように思う」


 その一言を聞いてスバルも反論を飲み込む。先代の勇者であるセイギの仲間だったジダイに言われてしまえば、返す言葉もない。


「クライクライはセイギでも倒しきれなかった魔族だ。もしかしたら、ネイロじゃ手に余るかもしれない」

「そんなに強いんですか」

「でも、ネイロが頼みの綱なんだぜ?」


 スバルが言うとジダイは首肯する。


「もちろんだ。こっちはネイロだけじゃない。スバルもメノウも、俺もいる。それにネイロが決め手になるのは確かだ。俺たちが協力してネイロを支援し、必ずクライクライを倒す」


 ジダイが力強く宣言すると、年少の仲間たちは揃って笑みを見せる。


 そのとき遠くから爆音が響き、足元に振動が伝わる。


「きゃあ! ……今のは?」

「魔族が来たんだろう」


 ジダイが応じると、花の精のユルリが地面から現れる。


「魔族が結界を破壊して侵入してきました! 王が迎撃に向かっています!」

「俺たちもそこに案内してくれ」

「はい!」


 ユルリは緊迫した表情でジダイたちを案内し始めた。





 走って数分、ジダイたちは花の国の周縁部に到着した。


 すでにヒラリは二十人の花の精を横一列に展開させ、その中央に佇立している。さすがに平界すべての花を司る王だけあって、その姿には貫禄があった。


「ジダイさんたちも来ましたか」

「はい。敵は?」

「入り口の結界を破壊して進行中です。幾つか結界を張っていますが、クライクライには足止めにしかなりません。あと十数秒もすれば、ここにやってくるでしょう」


 ジダイたちは、花の国に来るときに利用した樹木の門に目線を注ぐ。


 十秒ほどすると景色の一角に亀裂が入り、玻璃(がらす)が割れるように空間が崩壊していった。破壊されて歪な断面を見せる空間の奥から現れたのは、白昼にあって禍々しい黒い棺桶だった。


「クライクライ!」


 ジダイが叫ぶと、棺桶から男の声が返される。


「ほう。人間にも名を知られているとは光栄だ」


 クライクライが言うと、いきなり視界が薄暗くなる。驚いて空を見上げた一同の瞳に、上空に揺れ動く黒い極光(オーロラ)が映った。


「〈(やみ)()らしの(しゃ)(まく)〉だ……!」

「何ですか、それ?」

「その場に闇をもたらし、霊力の動きを阻害する。霊力を使う俺たちの力を弱めるクライクライの技さ」


 苦々しく言うジダイの目前で魔族に動きがあった。


 棺の横に歩み出てきたのは、猫人形型の魔族、ネコジタ。


「あ、クライクライ卿。後ろにいる人間どもが、我輩の邪魔をする人間どもです。あの赤い髪の子ども、あれが勇者です!」

「ほほう。あれが勇者。見るからに脆弱な勇者だ」


 宙に浮いた棺が進むと、その背後から魔族の軍勢が進み出てきた。その数はおよそ三十。


 黒に近い深紅の体表は鉄のように滑らか。直立するカブトムシとでも形容できる外見で、二本の脚と四本の腕を有する。四本の腕で大きな剣を支えていた。頭部からは長い角が生えており、その先端は槍にも似た鋭さを秘めている。


 中位魔族、カブト。戦いに特化した魔族で知性は劣るが、戦闘に関してはジダイでも容易い相手ではない。クライクライが擁する戦力に相応しい強敵だ。


「クライクライ。性懲りもなく、再び花の国に手を出すとは愚かなことを」

「お久しぶりです。花の王、ヒラリ。この前はヤミヤミが大変お世話になりまして」

「ヤミヤミとの再会の挨拶は考えてきましたか。こちらの勇者ネイロさん、愚かなる人間であることが欠点なれど、この方と協力して今度こそあなたを滅ぼします」

「願ってもない。それでは始めましょう」


 クライクライの一言が戦闘の始まりを告げた。


「行けぇ!」


 ネコジタが指さすとカブトの軍勢が地響きを上げて突撃を開始する。


「射て!」


 ヒラリの号令と同時、花の精が構えていた弓矢が放たれて一斉に銀の奔流が殺到。カブトたちを急襲した矢が次々と命中していく。


 柔らかい胴体前面に矢が幾つも突き刺さるが、カブトは倒れることなく前進を続ける。


「槍にて迎え撃つのです!」

「はい!」


 その可憐な声が空に消えるよりも早く、花の精たちは地面に潜っていった。次に姿を現したのは、走るカブトの周辺。地中から身体を出した花の精たちは槍を手にし、カブトの死角から突き入れる。


 奇襲を受けたカブトたちは躱すこともできずに複数の槍を受け、絶命して塵となるカブトが続出する。それでも非力な花の精は複数で一体のカブトを攻撃したこと、カブトの数が多いこともあって二十体以上がヒラリへと突撃していく。


「花の王、危ない!」


 庇おうとしたジダイを手で制し、ヒラリは自身に突き進むカブトの群れを見据える。


 突如、カブトの足元の地面を突き破って大きな花が出現。花弁の側縁部に牙の生えたその花は、八体のカブトを花弁に閉じ込めると地中に戻っていた。


 さらにヒラリの前に巨大なバラの花が生える。バラの花から伸びた枝が数体のカブトに絡まり、その膂力で締め上げた。バラの茎から生える棘が射出されてカブトの胴体を貫通、瞬時に灰燼と化して消えていく。


 あっという間にカブトを十体以下に減らしたヒラリは、腹部の前で手を組んだまま厳かにその紅の口唇を開いた。


「この程度の雑兵で花の王を害せると思って? クライクライ、見くびらないでください」

「私とて、花の王に対する礼を知っていますよ」


 睨み合う両者の間で、カブトは動揺したように足を止めている。ネコジタも数的優位を失って臆したのか、数歩後退していた。


「強い……。花の王様だけで魔族を倒しちゃいそう」

「ヒラリさん、貫禄あるなー」

「あんなに魔族がいたのにもったいない。何体か分けてほしい」


 呑気な声を上げる仲間を見て、ジダイは指示を下す。


「ネイロ、霊力を溜めておくんだ。スバルはネイロを守る。メノウも二人の援護だ。油断するんじゃないぞ」


 慌てたネイロは祈りの姿勢で霊力を溜めるが、〈闇降らしの紗幕〉のせいで時間がかかるだろう。スバルが剣を抜き放ってネイロに寄り添い、メノウも本を開いて敵襲に備える。

花の国と魔族の戦いの始まりです。

さすがに花の王であるヒラリは強いです。その辺の魔族では太刀打ちできないでしょうが、最強の魔族であるクライクライは頭もいいので、対策を考えているようです。

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