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勇者様の保護者  作者: 小語
第4章 花の国の防衛戦
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第5話 先代勇者セイギの旅

 ジダイとセイギという少女が生まれたのはシロガネ大陸東部の町、スズシロだった。


 温順な気候と恵沢な地質によって生育される野菜や果物、木材などを都市に売って得た資金で暮らす町だ。資金的にも余裕のある家庭が多く、まず恵まれた暮らしのできる町だった。


 ジダイとセイギはスズシロの中流家庭で生まれ、近所の幼馴染。そして、勇者が生まれたと同時に月の近くで星が光り出す『輝星の世代』だった。


 八歳の頃、セイギは町の近くに現れた魔族と出会い、その際に自身に勇者の能力があることを知った。


「ねえ、ジダイ。私には勇者の力があるんだよ! この力で、きっと魔族を倒して世界を平和にして見せるんだ。ジダイも手伝ってくれるよね?」


 赤い長髪を揺らし、茶色の瞳を輝かせて言い募るセイギに押し負け、ジダイは首肯するしかなかった。それに生来から物静かだったジダイは、活力に溢れたセイギに憧れていて彼女と離れることなど考えられなかった。


 勇者の力を有するセイギは一躍町の話題となり、その評判に負けないように剣の修練を積んだ。そのおかげで十二歳になったセイギは、優れた剣技を有する少女に成長していた。


 セイギに見合う存在となるため、ジダイも魔族と戦うための修練に勤しんだ。ジダイは霊力を有しており、その能力に適した体術を学んでいる。


 ジダイとセイギは、いつか魔王を倒して世界に平和をもたらす希望として、近隣の町からも名前を知られる存在になっていた。


 その二人が旅立つ契機となったのが、十四年前の魔族の大攻勢だった。魔族のなかでも強大な力を有する二体、クライクライとヤミヤミが手勢を率いて侵攻を開始した大事件が大陸を震撼させたのだ。


 まだ十二歳と幼いながらも、セイギとジダイは魔族と戦うために旅立たざるを得なかった。


 故郷を後にした二人は各地を旅しながら、魔族を滅ぼしていき多くの村や町を救って名声を高めていく。


「よっしゃ! 凄いじゃん、私たち!」

「また村を助けちゃった! 少しは役に立てたかな」

「危なかったー! ありがと、ジダイ!」


 一年半の間、一緒に旅をしたセイギの活力ある表情と声を、今でもジダイは覚えている。


 花の国に食指を動かしたヤミヤミと対峙し、花の王ヒラリと協力してヤミヤミを滅ぼしたことでセイギとジダイの名声は高まった。その代わり、魔族からの攻撃も熾烈を極める。


 襲撃してきたクライクライを何とか追い返し、実力に自信を持ったセイギとジダイは魔王を討伐することを決意する。


 これまで立ち寄ってきた村や町で魔族に苦しめられる人々を目にしてきた二人にとって、これ以上魔族の専横を許すことはできなかったのだ。


「ジダイ、これから魔王との戦いだけど、いつも通りにすればきっと勝てるよ。がんばろ!」


 現在、世界に存在する魔王は七体と言われている。かつて神とともに平界の平穏維持を司っていた元の魔王を滅ぼし、その肉体を取り込んで強大な力を得た七体の高位魔族を便宜的に魔王と呼称しているのだ。


 七体の魔王は神族と争って敗れ、平界に封印されている。このシロガネ大陸に封印されているのは、破壊を司る魔王の罪を取り込んだ〈罪業のドラメシュア〉だ。


 魔王は全部で七体。この戦いに勝っても勇者であるセイギの旅は終わらない。世界に一人しか存在しない勇者は、その生を終えるまで戦う使命を課せられているのだ。


「この戦いに勝っても、まだ魔王は六体も残ってる。こんなところで立ち止まってはいられないんだから。ずっと一緒に戦っていこうね、ジダイ」


 セイギの言葉に、ジダイは胸を熱くして頷いた。


 これからもセイギとジダイは魔王を倒す旅を続けていく。そのはずだった。


「もうダメ! ジダイ、逃げて!」


 血塗れになってひざまずくジダイの耳にセイギの悲鳴が届く。顔を上げると霞む視界のなかで、ジダイを守るために立ち塞がっているセイギの後ろ姿があった。


 ジダイは弱々しい声で反論した。君を一人残して逃げられない、ただ最後の矜持が言わせた言葉で、状況を覆す力強さに欠けていた。


 魔王の力は想像以上だったのだ。勇者として実力をつけたセイギと、不断の修行を続けたジダイでも敵わない、圧倒的な力の差だった。


「まだ早かったんだ……! 侮っていたんだ……! ごめん、ジダイ。私の判断が甘かった!」


 いつもは闊達なセイギの声音が絶望に打ちひしがれていた。それだけで、ジダイは事態の深刻さを理解する。


「巻き込んでごめん。あなた一人だけでも逃げて……」


 ジダイは拒絶した。だが、ジダイに戦う余力は残されておらず、もはやセイギの足手まといでしかない。


 魔王が破壊の力を具現化させた。その一撃を受け止め、セイギは声を押し出す。


「お願い、最後にあなただけでも守らせて。……本当は、もっとジダイと旅をしたかった。もっと多くのことを体験してみたかった。だけど、ごめん。私の旅はここまで」


 ジダイは立ち上がると、恐怖に捕らわれてセイギを置いて逃げ出した。泣きながら必死に走るジダイの後ろからセイギの声が響く。


「生きて、ジダイ。また大切な仲間と出会って、いつか私の代わりに魔王を……」


 爆音がその声をかき消し、背後から魔王の哄笑だけがジダイを追いかけてきた。





 そこまで語り終えたとき、ジダイの声は悲しみに濡れていた。


「それから俺は、いつか魔王と戦うために修行し続けてきた。そうして魔族を倒しているうちに、ネイロとスバルと出会ったんだ」


 ジダイは、自身を苛める記憶を軽減するように両手で頭を押さえる。その瞳からはいつしか涙が零れていた。


「俺は好きだったセイギを見捨てて逃げた卑怯な臆病者だ。それを知られるのが怖かったんだ」


 スバルたちは息を呑んでジダイを見つめている。これほど頼りないジダイの姿を目にするのは初めてで、どうすればいいのか分からないのかもしれない。


「情けなくてすまない……。俺がみんなの保護者を名乗るなんて……」


 柔らかな白い光に包まれるなか、ジダイの嗚咽だけがネイロたちの聴覚を満たす時間が続いた。ふと、ジダイの頭に触れた小さな手が不器用に動く。


「なんて言ったら分かんないけどさ、卑怯だとか臆病だとか思わないよ」

「ジダイさんは、そうするしかなかったんだと思います」

「うん。情けないけど、保護者っていうのは間違ってない」


 年下の三人の小さな手がジダイを励ますように身体に触れる。その小さいが確かな温かさを感じながら、ジダイはただ泣いていた。

ジダイの過去でした。

セイギという幼馴染の少女が先代勇者であり、一緒に魔王を倒す旅に出てセイギを失ってしまいました。

今までネイロたちと本当の仲間として振る舞えず、保護者という一線引いた立場にいようとするのも、セイギを死なせて自分は生き延びた負い目があるのかもしれません。

ネイロとスバルのことが気になって同道したのも、自分と同じ運命にならないようにしたかったのではないかと思います。


ジダイはセイギのことが好きでしたが、セイギちゃんもジダイが好きだったんじゃないでしょうか。

これからも旅をして行くつもりだったのに、魔王の力を見誤って命を落としてしまいました。

セイギの遺言である、セイギの代わりに魔王を倒すという目的のために生きてきたジダイの過去でした。

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