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勇者様の保護者  作者: 小語
第4章 花の国の防衛戦
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第2話 花の国の王ヒラリとの出会い

 花の国というのは呼称だけで、その実態は花の王とそれに仕える精霊たちの里でしかない。


 ジダイたちが木で形成された長いトンネルを抜けると、樹木が途切れて開けた場所に出た。目前には建物のように大きな大輪の花が咲いている。


「あそこが王様の住居です!」


 トンネルの出口に着くと、先ほどの花の精が地面から現れた。

「はえー、すっごい場所だな」

「色んなお花が咲いてる。きれー」

「ここは花の王様が統治する国ですから、世界中の花が咲いているんですよ」


 花の精が無い胸を張って言う。


「さっそくですみませんが、花の王に目通りをお願いしたいのですが」

「あなた方のことは王様に伝えてありますので、大丈夫だと思いますよ。どうぞ、こちらへー」


 花の精は地面から顔を出したままでは移動できないようで、ちょっと進んでは地面に入って出てくるのを繰り返している。


 物珍しげに辺りを見回しながら歩くスバルとネイロと違い、メノウはジダイの横に並んだ。


「花の精と話すときは敬語なのね」

「当たり前だろう。メノウも花の王や精には敬語を使うんだぞ」

「いいけど。どうして念押しするの」

「花の王は人当たりはいいが、武闘派だから怒らせないに超したことはないからな」


 メノウの瞳に好奇の色が浮かぶ。


「へえ、意外。花の王って温厚なのかと思っていたけど」

「花の王は温厚だ。ただ、この花の国を統治する責任のために強硬な姿勢をとる必要もあるというだけで」

「ふぅん。でも、わたしはそういう二面性のある人は苦手」

「どの口で言っているんだよ」


 ジダイは手を伸ばしてメノウの頭を撫で回そうとするが、咄嗟に思い止まる。ネイロと同じように触れては、メノウだと何をされるか分からない。


 一同は巨大な花の茎の根元まで辿り着く。茎には一ヶ所だけ穴が開いており、その先は通路のようになっていた。


「この通路の先に王様がいらっしゃいます。ご面会には私たち花の精も武装して同席させていただきますね。なにぶん、王様は世界にとっても重要な存在ですので、ご理解くださいー」

「承知しています」


 ジダイの言葉に笑みを返すと、花の精は地面に潜っていった。


「よし、行こう。くれぐれも失礼なマネをするなよ」

「ああ。しっかし、のどかなんだか、物々しいのか分からないな」


 いつもの調子でスバルが頭の後ろで手を組みつつ、気の抜けた声を放つ。


「仕方がないだろう。それだけ花の王は重要なんだ。特に心配なのは、スバルなんだからな。きちんと丁寧に対応しろよ」

「はいはい」


 スバルの返答は適当だったが、その飄々とした態度はネイロへの建前だ。それを知るジダイは、とりあえずスバルを信じることにして通路を進んだ。


 巨大な花の内部は、生きた植物らしく壁面や床は絶えず流動している。大地の水を吸っているためか、通路内には静かな水音が満ちていた。


 通路の突き当たりは行き止まりだったが、ジダイたちが近づくと自動で壁の中央から弁が広がるように門が開いた。通路を抜けた先は大きな広間になっている。花の内部のため部屋は全体的に丸みを帯びており、緑色をしていた。


 窓も無いのに明るいのは、壁面や床から生える花のおかげだ。その植物の綿のような花弁が淡い光を放っている。自然なその光が室内を満たしていた。


 その部屋の中央には、一人の女性が立っている。


 柔らかな雰囲気の薄緑の衣装を召しており、装飾品は着けていない。女性にしては長身で、白皙の高貴な面がジダイたちに向けられている。緑色の長髪が肩までを包み、金色の瞳が柔和な光を湛えていた。


 その背中から幾つものツタが伸びているのが異質ではあった。


「あなたたちが勇者ですね」


 その女性が澄んだ声を上げる。


「私は花の国の王、ヒラリです」

「花の王って女の人だったのか」

「きれーな人」


 スバルとネイロがその美貌に見惚れている。


「この度、魔族のクライクライの宣言を聞いていらっしゃった勇者様とのこと。失礼ですが、まずは勇者である証拠をお示しください」


 花の王、ヒラリが言うと、壁面や地面から何体もの花の精が現れる。花の精は弓や槍を構えて油断なく一行を狙っていた。


 さっきまでジダイたちを案内してくれた花の精も、槍をネイロの背中に突きつけている。その落差にスバルとネイロが冷や汗を流した。


「こ、怖い……」

「いきなり、なんだよ! これじゃあ、まともに話もできないだろ」

「どうする? 消し飛ばした方がいい?」

「みんな、落ち着け。ネイロ、霊力を集めて勇者の力を示すんだ。そうすれば花の王も認めてくれる」


 四方から矛先を突きつけられ、涙目になったネイロがジダイを見つめる。


「この状況でですかー?」

「そうだ。心を静めて霊力を溜めるんだ。魔族に囲まれているよりは簡単だろう」


 ネイロは不服そうだったが、それでも両手を合わせていつもの祈りの姿勢をとった。普段なら霊力を溜めるのに百秒はかかるが、ここは霊力の満ちた花の国であり十秒足らずでネイロの全身を白銀の光が包んだ。


 勇者の力を解放したネイロに共鳴するように、室内に咲く花が明度を増す。勇者であるネイロの変貌を目の当たりにし、花の精たちが感嘆の吐息を漏らした。


「どうやら本当の勇者のようですね。試すようなことをしてごめんなさい」


 ヒラリが頷くと花の精は手にした武器を下ろした。


「実を言うと疑ってはいなかったのです。本物の勇者である確証がないと、私を守ってくれる精たちが納得しなかったものですから」

「疑っていなかったんですか? どうしてネイロたちを信じていたんですか?」


 ネイロも霊力を解放して、いつもの姿に戻った。


「そこのジダイさんのことを覚えていましたから」

「俺のことを覚えていてくださったのですか」

「もちろんです。前回いらしたときはまだ幼かったですが、面影がありますから。……セイギさんは残念なことでした」

「……はい」


 言葉少なに応じるジダイの面に陰が差した。


 その変化に気付いたネイロたちの視線がジダイに集中する。ジダイは応えず、沈んだ瞳を虚空に注いでいた。


 パンッ、と重くなりかけた空気を払拭するように掌が合わされる音が響く。驚いたネイロたちは、その音源であるヒラリへと顔を向けた。


「とにかく、お客様をお迎えしなくてはいけませんね。みなさま、どうぞこちらに」


 ヒラリは身を翻して奥の壁に向かう。ヒラリが近寄ると壁に穴が開き、その先は別室に繋がっていた。


「行こう。ジダイさん」

「ああ……」

「腹が減ったから、何か食べさせてもらえるといいけどな」

「王様が待ってる」


 そう言ってメノウがジダイの背を押して歩かせる。年下の仲間たちに気遣いに感謝しつつ、ジダイは暗くなりかけた内心を無視して足を運んだ。

花の国に入って花の国の王、ヒラリの登場です。

人間界の重要拠点だけあって花の精など自衛手段があります。


過去に触れられて暗くなったジダイを仲間たちが気遣うのがいいですね。

実は今までジダイが仲間たちをどのように見ているかは書かれているのですが、その逆にネイロたちがジダイをどう思っているかは書かれていませんでした。

その辺が分からなくてジダイも本当の仲間としては踏み込めていない状態ですね。

一人だけ年上でおっさん扱いされているのもありますが。

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