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勇者様の保護者  作者: 小語
第3章 迷いの山の追憶
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第7話 女勇者と勇者の末裔

「ジダイから離れろ!」


 突如、スバルの怒号と同時にポポロンの足が引かれ、ジダイは声のした方向を見やった。


 そこには二人の少女を庇うスバルの姿がある。


「ジダイから離れろと言ってんだよ、聞こえないのか!」

「おい、今夜のメシが逃げ出してるぜ、ポポロン」

「もう一度、捕まえればいいだけだろ、ププロン」


 ポポロンの声が遠ざかり、破壊の音が響いた。立ち上がろうとするも、指先が床を擦るだけで五体が言うことを聞かない。


「ジダイ、大丈夫?」


 近くでメノウの声が聞こえた。


「ああ、見ての通りだ。今なら陽気な妖精とだって踊れそうだ」

「ま、減らず口が叩けるなら大丈夫そうね」

「それで、どうなっているんだ」

「スバル君が敵を引き付けてくれているけど、長くは持たないよ」


 ジダイが目を向けると、二体の魔族を相手にスバルが立ち回っているが劣勢は否めない。


「ねえ、あの水晶を壊せない?」

「水晶?」

「霊力を溜められないのは、あの水晶が吸い取っちゃうからだって。ということは、あの水晶には霊力が蓄えられているということ」


 ジダイは洞穴の各所に生えている水晶に目を向ける。内側から七色の光を放つ水晶はただの光源かと思ったが、これのせいで霊力が集められないということか。


「やってみるか」


 噛みしめた歯の隙間から唸り声を漏らしながらジダイは立ち上がった。全身に打撲の痛みが駆け巡るのを無視し、水晶まで歩み寄る。


「ニンゲンが水晶を壊そうとしてやがるぜ、ポポロン!」

「オレがやってやるぜ、ププロン!」


 打撃のためにジダイが右手を引いたとき、背後から魔族の怒声が聞こえた。水晶には、宙を滑って急接近するポポロンの姿が映っている。


「慌てるってことは、メノウの推察が正しいようだな」


 不敵に笑うと、ジダイは渾身の右拳を突き込んだ。甲高い音とともにヒビが入り、傷を起点として水晶は崩れ落ちていく。


 その瞬間、水晶から放たれた光の粒子が洞穴に溢れる。洞窟内に満ちた霊力を集約し、ジダイは籠手に霊力の障壁を纏わせながら振り返った。そこへ両手に紫の光を宿すポポロンが襲来。


 迎撃しようとしたジダイとポポロンの間に小柄な人影が割り込む。


 勇者の力を解放したネイロだ。普段は茶色の瞳が薄氷色に染まり、五体を揺らめく白銀の光が包んでいる。


 ネイロが腕を一振り。ポポロンは驚く間もなく瞬時に塵となって消し飛んだ。


「ま、間に合ったー……」


 ププロンに喉元を掴まれて宙吊りにされるスバルが呟く。ププロンはその言葉に応じる余裕も無く、ネイロの方に顔を向けていた。


「どうなってんだよ、ポポロン⁉」

「お、オレに分かるわけねえだろ、ププロン!」


 塵から復活したポポロンだが、その表情は遅れて驚愕に彩られている。


「へへ、お前ら知らなかったんだな。ネイロが、勇者だっていうこと」

「あの幼体のメスが勇者だってよ、ゴキゲンな冗談だぜ、ポポロン!」

「あのネコジタとかいうゴキゲンなバカが言ってたのが、あいつか、ププロン!」


 ププロンがスバルを放り捨てるも、駆け寄ったジダイが上手く受け止めた。


「あんがとさん」

「お互いにな」


 傷だらけのジダイとスバルを庇うようにネイロが進み出る。


「スバル君とジダイさんをこんなにして。怒ったからね!」

「魔王なんぞ知ったこっちゃなかったが、ポポロン」

「勇者を殺して貸しを作るのも悪くねえ、ププロン」


 二手に分かれた魔族がネイロを狙う。ププロンが遠距離から光弾を発射し、接近したポポロンが体術でネイロを襲った。光弾は躱すまでもなく、ネイロが纏う白銀の光に弾かれて霧散。ネイロが掌を突き出すと、迸った衝撃波がポポロンの上半身を消滅させる。


「さすが、わたしのネイちゃん。勝負になってない!」

「表面上は優勢だが、あいつらは二体同時に倒す必要があるのが問題だ」

「でも、あの調子ならそのうち……」

「いや、ネイロは強大な力を持っているが、戦い慣れていない。あのままだと、すぐに霊力を使い果たしてしまう」


 ジダイの言葉を聞いて、メノウは水色の瞳に目前の戦いを映す。


「ネイロと協力して同時にあの二体を倒さないといけない。俺が……」

「ちょい待ち。ネイロと合わせるんだったら、俺がやる。そっちの方が確実さ」


 スバルが剣を提げて歩み出した。


「スバル君に任せるの?」

「あいつもやるときは、やる奴だからな」


 ジダイはスバルの背へと期待を込めた視線を注いで送り出す。


「ネイロ。そいつらは二体同時に倒さないとダメなんだろ。一人一体ずつだ」

「スバル君? うん、分かった!」


 笑って応じたネイロの横にスバルが並ぶ。


 小柄な少年少女に対するのは、長身の二体の魔族。


「勇者の力には限度があるだろうな、ポポロン」

「力尽きたら、オレたちの勝ちだぜ、ププロン」


 ププロンがネイロ、ポポロンはスバルを標的として動き出す。示し合わせたようにネイロとスバルも逆方向に走り出し、それを追って二体の魔族は背中合わせになって光弾を連射した。


 ネイロはものともせずに白銀の光で防御し、スバルは敏捷に光弾を避けていく。攻撃を防ぎつつ、ネイロは静かにスバルの様子を見守っていた。


 避けた光弾が爆炎を上げる間隙を縫ってスバルが疾駆し、相対するポポロンへと肉薄。間合いに入ったスバルはポポロンの膝を踏み台に跳び、さらに肩から頭頂を足蹴にして跳躍。ポポロンの頭上高く飛び上がった。


「行くぜ、ネイロ」

「任せて、スバル君」


 宙に身を置くスバルが剣を投躑。それと同時にネイロが掌を突き出す。


 ネイロに向き合っていたププロンの背中に剣が突き立つのと、ネイロの掌から迸った光条がポポロンの胸を貫いたのは同時だった。


 ポポロンとププロンは、それぞれ驚愕の表情で自身の胸を見下ろす。


「こいつはゴキゲンだな、ポポロン」

「まったくゴキゲンだぜ、ププロン」


 ポポロンとププロンが急速に引かれ合い、その肉体が衝突した刹那、眩い爆光がその場を席巻した。


 ジダイがメノウを抱きかかえて爆風の奔流に耐えた数秒後、洞窟の内部は静けさを取り戻した。ジダイが目を開くと、ネイロとスバルが互いの掌を打ち合わせている。


「終わったの?」


 ジダイの胸から顔を放したメノウが辺りを見回した。


「何か、そうでもなさそうだな」


 ポポロンとププロンが消滅した爆心地。空間が凝縮して揺らめいている。


「この洞窟は、ポポロンとププロンが生み出した空間なんじゃないかな。その二体が消滅して、この空間も消えようとしている」

「そんなことを落ち着いて解説している場合か!」


 ジダイはメノウを抱えると、スバルとネイロに声をかける。


「話は後だ。逃げるぞ!」


 空間の揺らめきが広がっていき、周囲を飲み込んでいく。


 ジダイたちは出口へと一直線に駆け出した。背後からすべてを飲み込む爆音が追いかけてくるのに耐え、狭い出口から先行するネイロとスバルが飛び出す。


 メノウを抱いたジダイが狭い岩の間から飛び出した直後、最後に爆風が炸裂。黒煙と巻き上がった木の葉が一帯を舞った。


 爆発が収まってから、うつ伏せに寝転んだジダイが洞窟を振り向く。そこには爆発で焦げた岩肌があるだけで、先ほどまで存在した開けた空間への入り口は消滅していた。


「危ないところだったが、何とか助かったな」

「わたしの分が無かったのが残念だけど」


 ジダイが立ち上がりながら口を開く。ジダイに庇われていたメノウも身を起こし、衣服に着いた土埃を払っている。


「いやー。最後の攻撃をよく合わせてくれたなー」

「ううん。スバル君の合図が良かったからだよ」


 スバルの賛辞を受け、ネイロが照れたようにはにかむ。勇者の力が解除されたネイロの頬は薄く上気していた。


「いい感じのところ悪いが、早いところ山を下りるぞ。荷物も置きっ放しだし、急がないと夜になっちまう」


 すでに空の一角が朱色に染まったことに気が付いたジダイに急かされ、ネイロとスバルが振り返って頷いた。


 勇者と、勇者の末裔。お互いに特別な勇者だと思い合う少年少女とジダイは歩き出した。

ネイロとスバルの連係プレーで勝利というのがいい結末です(自画自賛)。

今回は男性陣と女性陣での別行動や、少女たちを助ける男どもの頑張りが書いていて楽しかったです。

ネイとスバルがお互いを「特別な勇者」だと再認識し、関係性も強固になったようです。


ここで第3章は終わりです。

全6章のうち半分が終わったのですが、分量的にはまだ4割くらいです。後半が長いパターンです。

次回からは魔族がネイロを倒すために強敵を送り込み、物語も佳境を迎えます。ジダイの過去も分かるし、ネコジタも戦います。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました。

次章の花の国編もお読み下さるとうれしいです。

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