第6話 ジダイの人質奪還戦
「おい、どうしてここにニンゲンがいるんだ、ポポロン⁉」
「オレだって、迷宮にいるはずのニンゲンがいる理由なんて知るかよ、ププロン！」
困惑する二体の魔族を前にし、ジダイが両拳を掲げて臨戦態勢をとる。
「ここにいやがったか！ ネイロとメノウを返してもらうぞ！」
「二人はどこにいるんだ！」
ジダイの横に並ぶスバルも油断なく剣先を突きつけている。
迷宮を出た二人は周囲を丹念に探索し、岩壁の切れ目の奥に広い洞穴を発見したのだ。その洞穴に入って魔族を発見したということは、ここが奴らの根城に違いない。
「さっきは死なないお前らに後れを取ったが、今度はそうはいかねえからな！」
ジダイは犬歯を剥き出して吠える。
ジダイが油断したせいでネイロとメノウは連れ去られてしまった。年長として彼女らを守る立場のジダイにとって、自分を許すことのできない失態だった。
手早く魔族を滅ぼして二人を助ける決意に、ジダイの瞳はぎらついている。
その気炎を具現化したような勢いでジダイが疾走。言葉を交わす余裕も無く二体の魔族は二手に分かれる。
揃って道化師のような服装をし、右目を布で隠しているのがポポロン、左目を布で隠しているのがププロン。
ジダイはププロンへと突撃し、籠手に霊力を溜め込む。そこに空虚な手ごたえを感じ、ジダイは戸惑いの声を上げる。
「霊力が？」
「ここじゃあ霊力を溜められないってのを知らないようだな、ポポロン」
「この場所じゃあ、ニンゲンに勝ち目が無いって教えてやろうぜ、ププロン」
ププロンの両手に紫色の光が宿る。ププロンが突き出した掌から光弾が射出され、ジダイを急襲。回避が間に合わずにジダイは両腕を交差して防御の構えを取った。
紫の光弾がジダイの籠手に直撃。爆炎がジダイの上半身を飲み込み、その身を吹き飛ばす。煙の尾を引きながら宙を飛ぶジダイは、巧みな体捌きで両足を着地させたが、それでも滑走してようやく止まった。
「かはッ！」
上半身に煤がついて黒くなったジダイは息を吐く。普段ならば霊力を宿した籠手で威力を相殺できたが、直撃してしまったために損傷は軽くない。
「大丈夫か、ジダイ⁉」
叫ぶスバルへと接近するポポロン。宙を滑るポポロンへと刺突を放つも軽やかに躱され、続けざまの斬撃も魔族の表皮を傷つけることもなかった。
「クッソー」
大振りになった隙を突かれてポポロンの蹴りを胸に食らい、スバルが弾き飛ばされる。その先にいたジダイへと身を当て、二人揃って体勢を崩した。
そこへププロンの光弾が撃たれ、爆発が二人を巻き込む。爆風に飛ばされたジダイとスバルが背中から倒れ込み、砂埃を上げながら地を滑った。
「口ほどにもねーな、ポポロン」
「ニンゲンじゃあ、しようがねえな、ププロン」
魔族の嘲笑を浴びながら、倒れ伏すジダイが目を開けた。
「やはり勇者の、ネイロの力がいるな」
「でもさ、霊力を溜められないんじゃ、ネイロも実力を発揮できないじゃんか」
「確かに……。どちらにしろ、二人を逃がす必要があるんだ。どっちかが、通路の奥に行って二人を助け出す必要がある」
「お、オレに任せてくれ。足には自信があるんだ」
話を終えたジダイとスバルが立ち上がる。それまで攻撃を加えずに眺めていた魔族たちへと、ジダイは一睨みを与えた。
「後悔することになるぞ。たった今、俺たちを倒さなかったことをな。行け！」
ジダイは両腕を交差して防御しながら突進。ジダイを囮にしてスバルは迂回しつつ、魔族を避けて通路の奥へとひた走る。
「逃がすなよ、ポポロン」
「任せとけ、ププロン」
ポポロンがスバルを追い、ププロンはジダイへと掌を向けた。ププロンへと肉薄したジダイが足を蹴り上げ、その足が直撃したププロンの手が逸れる。狙いの外れた光弾はポポロンの眼前に着弾して爆発した。
足止めされたポポロンが苛立ちを込めた瞳を向けると、すでに通路を駆け去っていくスバルの背中があった。
その場に残された二体の魔族は、ジダイへと憎悪の籠った単眼の向く先を集中させる。
「どうやら、このニンゲンは死にてえらしいな、ポポロン」
「ご希望通り、殺しとくか、ププロン」
「来やがれ！」
咆哮するジダイへとポポロンが迫り、ププロンは後退して距離を取った。
ジダイはププロンを追うと見せかけて急転回してポポロンに相対。虚を突かれたポポロンへと右前蹴りを繰り出す。腹部を強打されたポポロンがたたらを踏んだ。
ププロンが両手から光弾を連射。左右への鋭角的な踏み込みでその射線を翻弄したジダイは、間合いに入ると右拳を放った。
顔面にジダイの一撃を食らって仰け反るププロンへと左鉤打ちを見舞い、さらに腹部へと右拳をねじ込む。上体を折ったププロンの身体を両腕で抱え込むと、上半身を後ろに反らして投げ飛ばした。
背中から床に叩きつけられたププロン。そこへ後方宙返りしたジダイが両足でププロンの腹部を踏みつける。腹にジダイの足裏がめり込んだププロンは、さすがに苦鳴を漏らした。
「ぐあ！ 何してんだ、ポポロン！」
「今、殺すとこだ、ププロン！」
両手足に紫の光を纏わせたポポロンが地を滑ってジダイに接近。ププロンの腹から降りたジダイは、的を絞らせないように上体を動かしながら出迎えた。
移動の勢いを乗せて右足を蹴り上げるポポロンだが、ジダイの左足裏に脛を蹴られて打ち落とされる。続く左直拳からの右鉤打も、上体を逸らしながら籠手の表面で受け流された。
矢継ぎ早に繰り出されるポポロンの打撃をジダイは回避していく。攻勢を見切ったジダイは、右直拳を躱しざま上半身を沈めつつ踏み込み、ポポロンの胸部に両掌を打ち付けた。
思わぬ痛打にポポロンは左目を見開いて後退。追撃をかけようとしたジダイだが、背後から放たれたププロンの不意打ちを知覚して横っ飛び。
標的を外れたププロンの光弾は、そのままポポロンを直撃する。爆発とともに上半身が消し飛び、下半身も末端から粉塵になっていく。
「仲間を打つとはお粗末だな」
「はは、悪いな、ポポロン」
「作戦成功ってか、ププロン」
「なにッ⁉」
塵芥が流動してジダイの腕に絡みつく。その塵は次第に形を成して腕になっていった。
「しまった！」
塵から戻ったポポロンに腕を掴まれたジダイは動きを封じられる。ポポロンが腕を一振りすると恐ろしい膂力で舞い上がったジダイは天井に叩きつけられた。そこへププロンの光弾が殺到、爆風とともにジダイの五体は錐もみ回転しながら床へと墜落する。
脳を前後左右に揺さぶられて朦朧とする意識でジダイが目を開くと、衝撃が顔面を襲った。ポポロンがジダイの顔を踏んでいるのだった。
「ニンゲンが頭を無くしても悪態を吐けるか試してみな、ポポロン」
「軽く踏みつぶすか、ププロン」
頭部にかかる圧力が増していくが、抵抗する余力の残されていないジダイは呻くだけだった。
格闘では魔族に勝っても霊力を使えないジダイの限界ですね。
ジダイが一人では魔王と戦えないと思っていたのも、人間と魔族では地力が違い過ぎるということがあります。
今回のポポロンとププロンは死なないだけでなく、ポポロンが格闘、ププロンが後方から光弾を撃ってくるという役割分担をしている強敵です。
この二体は相手に向けて喋るのではなく、ポポロンとププロンの間で会話しているのがお気に入りです。
二体喋るため文字数に制限のある公募だと厳しいキャラです。某大賞に応募するために会話を削って少し無口になったくらいの魔族でもあります。
