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勇者様の保護者  作者: 小語
第3章 迷いの山の追憶
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第5話 女勇者の追憶 了

「もう一つの理由は、ネイロが家族を失ったときのこと」


 ネイロが魔族のせいで家族を失ったのは三歳のとき。養母がネイロの母に呼ばれて家に行った日だった。


 ネイロとその両親、養母で隣村の親戚を訪ねに行く途中、魔族が襲い掛かってきた。幼いネイロを守るために、自ら盾となって両親は犠牲となった。


 硬直して動けない養母の前でネイロは震えているだけだった。だが、自身の大切な存在が失われたという事実は理解できたのか、幼いネイロが魔族に向かって掌を差し出した。


 その小さな掌から極光が発して魔族を打ち滅ぼした光景を、養母は目に焼きつけた。


 それから養母に引き取られたネイロは、幼かったこともあってその日のことを覚えていない。養母もネイロが勇者としての力を秘めていると知りながら、普通の子としてネイロを育てた。


「お義母さんがその日のことを隠していたのは、ネイロに重荷を背負わせたくなかったからだって。ネイロは気が弱いから魔族と戦うよりも、平凡に生活してほしかったみたい」


 自身が勇者であることを知ってしまったネイロに、魔族と戦うべきか葛藤が生じた。


「ネイロだって初めは悩んだよ。どうして自分が勇者なんだろうって。もしネイロじゃない、もっと勇気のある人だったら、すぐに魔族と戦うことを決心したかもしれないのに。特別じゃなくてもよかった、って」


 勇者の力が宿っていることを養母が隠していたのは、まさにネイロが苦しむことを予想していたからだろう。


「でも、思い出したの。ネイロが勇者の力を使ったのは、魔族に弟が傷つけられそうだったからだって。あのときは大切な存在を傷つけられる恐怖でいっぱいだった。ネイロが感じた恐怖を、今日もどこかで感じている人がいるって気付いたんだ」


 そうしてネイロは魔族と戦うために旅立つことを決めた。もちろん、ネイロの性格を知っている養母や兄弟は反対したものの、ネイロの覚悟を尊重することにした。


「ネイロの村から歩いて二日の場所にあるチャキ村。そこに勇者の末裔だっていう人が住んでいるらしいの。その人なら協力してくれるかもしれないって、お義母さんが教えてくれた。まず、その村に行ってみることにしたの」


 徒歩で二日は旅としては長くないが、村から出ることも珍しいネイロにとっては初めての遠出だ。道中の村で休息を取りながら、ネイロは目的のチャキ村の目前まで辿り着いた。


 そこで三体のクロマルに出くわしたのだった。


 勇者の力を自覚したネイロだったが、その使い方を会得したわけではない。叫び声を上げながらネイロは逃げ惑った。


「勇者なんて言っても、ネイロはただ逃げることしかできなかった。やっぱりネイロなんかじゃ、ちゃんとした勇者になれずにここで死んじゃうんだって思った」


 自身の無力感と恐怖に胸を支配されながら走っていると、いつの間にか前方に小柄な人影があった。それが自分と同年代の少年だと気付き、無意識にネイロが声を張り上げる。


「危ないから近寄らないでください!」


 少年はその声を聞いても臆することなく、駆け寄りながら腰に提げた剣を引き抜くと、風のように距離を詰める。


 少年がすれ違って魔族の方に向かったため、慌ててネイロは振り向く。そこで信じられない情景を目にしたのだ。


 その少年は剣を振って瞬く間に三体の魔族を倒していた。魔族の末路である黒い塵がそよ風に流され、一緒に少年の金色の髪も揺れる。


 ネイロに向き直った少年は淡い笑みを浮かべて口を開く。


「大丈夫かい?」


 何もできなかった無力感と、危機から逃れられた安堵から力が抜けたネイロはその場に腰を落とす。思わず視界が歪み、両目から溢れる熱い液体を抑えることができなかった。






「そのとき思ったの。こういう人を、きっと勇者って呼ぶんだろうなって。スバル君は勇者じゃないけれど、ネイロにとっては危ないところを助けてくれた勇者様なんだ」


 そこで言葉を区切ると、ネイロは過去から現在へと意識を戻したようだった。


 当時のことを鮮明に思い返しているのか、頬に赤みが差して瞳は潤んでいる。その少女の横顔には、仲間への信頼以上の感情が含まれているようだった。


 メノウもネイロの感情を読み取り、軽く吐息を放ってその横顔から目を逸らす。


「そっか。スバル君もカッコいいところあるね。それに勇者の末裔だったなんて」

「ネイロから聞いたっていうことは内緒にしてね」

「いいよー。ネイちゃんとメノウの秘密ね」


 にへー、と笑うメノウ。ネイロは頷くと視線を通路の奥へと向けた。


 ネイロたちが監禁されているこの一室は、鉄格子で区切られている。内部は石造りになっていて、水晶がところどころに生えているおかげで光量は十分だ。


 牢屋の正面には二体の魔族が姿を消した通路が伸び、その通路は長すぎて奥が見通せない。


「スバル君、助けに来てくれるかな」

「心配ないよ。ジダイだっているし」

「うん……」

「それよりも、問題はあのポポロンとププロンって魔族だね。二体同時に倒さないとダメってのは、厄介だよ」

「それに、霊力も使えないからね」


 霊力を水晶に吸われてしまうこの洞穴では、ネイロとメノウはただの少女でしかない。頼みになるのはスバルとジダイだけだ。それでも、二体の魔族を同時に倒す必要があるという秘密を知らなければ、勝つのは難しいだろう。


 ネイロとメノウは冷たい床で膝を立て、心細げに助けが来るのを待った。

ネイロ視点でのスバルとの出会いでした。

初めて会ったときにスバルから命を助けられたことで、ネイロもスバルのことを「勇者様」だと思っているようです。

お互いにスバルとネイロが「特別な勇者」だと思い合っている関係が好きです。

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