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勇者様の保護者  作者: 小語
第3章 迷いの山の追憶
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第3話 勇者の末裔の追憶 了

「君が、あの勇者だっていうのか⁉」


 落ち着いた少女を村に案内したスバルは事情を聞くことにした。椅子に少女を座らせ、お茶を出してから会話して幾つか分かったことがある。


 少女の名前がネイロであること。近くの村から旅をしてきたこと。そして、スバルを驚かせたのは、ネイロが勇者だという一言だった。


「うん。そうみたいなんです」

「それで、どうしてこの村に来たのさ」

「この村には、勇者の末裔の人がいるって聞きました。その人に魔王を倒すのを手伝ってもらおうと思って」

「君、魔王を倒そうっていうのか! その年齢で」

「はい」

「でも、その辺の雑魚魔族とだって戦えないじゃんか」


 その言葉を聞いたネイロの瞳に薄い膜が張ろうとしたため、スバルが失言を誤魔化すように両手を振る。


「いや、まあ。伸び代があるってことだな!」

「う、うん! それに勇者の末裔さんが協力してくれたら心強いもの」

「勇者の末裔なんかたいしたことないって話だぜ。大層なのは血筋だけって」


 自分が勇者の末裔だと知られて落胆されることを恐れ、スバルは他人のことのように言った。


「本当ですか? 困るなあ」

「だからさ、君も魔王なんてのは諦めて家に帰りな。まだ早いって」

「それはダメなんです。少しでも早く魔王を倒さないと」

「分っかんないなぁ。どうしてそんなに急ぐ必要があるのさ」

「だって、今でも魔王に苦しめわられている人がたくさんいるんです。その人たちを放っておくわけにはいきません」


 明らかに気弱なネイロが、見も知らぬ人々のために危険を冒そうとする健気な勇気にスバルは息を呑んだ。


「君は本当に勇者なんだな」

「えへへ。あの、そう言えばお名前は何ですか?」

「スバル、だけど」

「スバル君。さっきはありがとうございました!」

「別にたいしたことじゃないから、気にしなくていいよ」


 今度はスバルが頬を朱に染め、照れ隠しにそっぽを向く。


「スバル君は旅に出ようって気はない?」

「え、俺が?」


 驚いて身を引いたスバルへと、目を輝かせたネイロが迫る。


「うん! 私を助けてくれたスバル君、凄くカッコよかった! スバル君が一緒に来てくれれば心強いな」


 スバルはネイロを呆然と見返す。


 勇者の末裔という血筋に縋って生きる一族に生まれ、その勇者としての力を持たない自分が生きる意味を見出せないでいたスバル。


 だが、目の前にいるネイロはスバルを必要としてくれていた。


「本当に俺なんかでもいいのか?」

「ううん! スバル君だからいいんだ。だって、ネイロを助けてくれたスバル君、勇者みたいだったもん」

「俺が勇者みたいか……」


 スバルは両目を閉じた。


 今まで経験してきた過去を想起する。両親のことや、厳しい剣の修練。村の友だちや優しく接してくれる村人。魔王を倒すための旅に出れば、二度とみんなに会えなくなるかもしれない。


 だけど、目の前には自分を必要とし、生きる意味を与えてくれる少女がいた。スバルの心の奥で澱となっていた疑問を、その明るさで払拭してくれる存在が。


 迷いなく、スバルは目を開けてネイロを見つめる。


「よーし、決めた! 行こうぜ、遥かなる魔王討伐の旅に!」

「うん、ありがとうスバル君!」





「そのとき思ったんだ。ネイロが俺に生きる意味を与えてくれた。ネイロはみんなにとっての勇者だけど、俺にとっては特別な勇者なんだって」


 そこでスバルは口を閉じた。


 年少の仲間の過去を聞き、ジダイはスバルを見直した。ただのお調子者かと思っていたが、なかなか苦労しているようだ。


 ジダイは肘でスバルの頭を小突く。


「痛いな。何だよ」

「いや。勇者の末裔は、だてじゃないと思ってな」


 スバルが苦笑する。ジダイが前方を向くと、通路の奥に水晶とは異なる光があった。


「おい、あれ。出口じゃないか?」

「本当だ! この助言は嘘じゃなかったってわけか」

「あの目印のおかげで出口は分かったな。あとはネイロとメノウの居場所だが……」

「あ、紙の裏にも何か書いてあるぞ」


 スバルが紙の裏側に書かれている文字を読み上げる。


「えーと、『あの魔族を尾行して出口は見つかった。魔族たちの話だと、この迷宮の奥には魔界へと繋がる穴が存在し、そこから無限に下級魔族が湧き出してくるのだという。この迷宮から帰れないのは当然だ、入り口はあっても出口は無いのだから』。そういうことか」

「魔族が多いのはそういう理由があったのか」

「『魔族が根城にしているのはこの迷宮ではなく、近くに別の入り口があるらしい。だが、私の旅はここで終わりだ。この迷宮を知り私は命が惜しくなった。ここで冒険を止め、田舎に帰ることにする。願わくば、最後の旅の助言が誰かの役に立つことを願う。探検家、アシナガ』。か」


 スバルが息を吐く。自身の人生をかけ、この迷宮の秘密を伝えてくれた先人に思うところがあったのだろう。


「なるほど。ここがあいつらの本拠じゃないんだな。ということは、ネイロたちもそっちに囚われているはずだ。別の入り口を探すぞ」

「まだ続きが書いてある。『追伸。田舎の料理が懐かしい。芋と麦と水に少々の酒と羊乳を混ぜて煮込んだ……』」


「その続きは関係ないから読まなくていいよ」


 スバルはその紙片を懐に入れようとしたが、思い止まって水晶の陰にその紙切れを置いた。

きっと、これからはあの古びた紙切れに込められた先人の思いが、この迷宮の犠牲者を減らすはずだった。

スバルとネイロの出会いでした。

「勇者みたい」というネイロの言葉はスバルに凄い勇気を与えたんだと思います。

自分が何者なのか迷っていた少年の生き方、本物の勇者を守っていくという生き方が決まった瞬間でした。

スバルの「ネイロはみんなにとっての勇者だけど、俺にとっては特別な勇者なんだ」という言葉が好きです。スバルの心が端的に表れている気がします。


ここでジダイがスバルを肘で小突くのも好きです。

ジダイとスバルの年の離れた兄弟感を見ているとほのぼのします。いいコンビじゃないかと。

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