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勇者様の保護者  作者: 小語
第2章 クレナの盆地の聖女
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第4話 聖女と勇者(仮)と女勇者

 翌朝、食堂で一同は朝食をとっていた。


 長方形の食卓の長辺にジダイたちが並び、その対面にメノウが位置している。食卓には果物や野菜の盛り合わせ、卵焼きなどが並ぶ。薄切りにされた肉は、ガブタロウかもしれない。


 朝が弱いらしく、メノウは食が進まずに牛乳や果物を口にするだけだ。それに対して、スバルとネイロは健啖ぶりを発揮している。


 物置を指したのはメノウの冗談だったようで、スバルとジダイも綺麗な一室に案内され、寝台で快適な一夜を過ごしていた。


「遠慮しないで食べて。ネイちゃんもね」

「あ、うん」


 いつの間にかネイロの呼称が変わっている。この一夜でメノウにとっての親密度がかなり高まったらしい。


 そのとき廊下から慌ただしい足音が聞こえ、勢いよく扉が開かれる。


「メノウ様!」

「朝から大きな声を出さないで」

「魔族です! 森に入った猟師から魔族を見たと報告がありました!」

「また?」


 メノウは布巾で口元を拭うと立ち上がった。


「悪いけれど、わたしは魔族を滅しに行くから。みんなはゆっくりしていて」

「いや、俺たちも行こう」

「あなたたちが来てもね」


 無表情だが声音に難色を込めるメノウ。扉口で佇む白い法衣を着た初老の男性も、メノウの一言に同調して頷いた。


「そうです。危険な魔族がいるのですよ。それに猟師が見たのは下級魔族でなく、猫の人形のような魔族ともう一体いたそうです」

「猫の人形? なんか覚えがあるなー」

「この前、フルフル平野であった魔族だよ」


 スバルが首を傾げていると、横のネイロが小声で教える。


「確かネコジタとかいう魔王の手下だ。もしかしたら俺たちを狙ってきたのかもしれん」

「どういうこと?」


 メノウが視線に怪訝の糸を絡ませてジダイを見上げる。


「恐らく、そいつは俺たちがフルフル平野で会った魔族だ。もう一体の仲間が劣勢になった途端、逃げ出してな。その意趣返しにきたんだろう」

「あなたたちが魔族を倒した?」

「ああ、なんてったって、俺たちは勇者一行だからな!」


 メノウの疑問に答えたのは、ジダイを押しのけつつ親指で自身を指すスバルだった。


「勇者?」


 見開いた両目でメノウがスバルの足から頭の天辺までを見回し、不意にその表情を弛緩させて笑みを浮かべる。


「へえ、勇者なんだー。だったら、ついてきてもいいよ」


 そう言って、メノウは初老の男性を伴って食堂を後にする。慌ててジダイたちはその後を追って行った。


 教会の正門から出た一同を二人の男が出迎える。一人は白い法衣を着用しているので教会の人間だろう。もう一人は上下ともに茶色の衣装をした中年男で、背に短弓を担いでいることから猟師と思われた。


 猟師は髭の伸びた顔を気まずそうに伏せる。


「聖女様、朝からすみませんです」

「あなたが気にしなくてもいいの。悪いけれど、途中まで案内して」


 猟師は先に立って歩き始め、法衣の男とジダイたちもそれに続く。


 いつの間にかメノウがスバルの横に並び、興味津々といった様子で話しかけている。多分、スバルを勇者だと勘違いしているのだ。


 傍目に見てネイロが勇者だとは思えないし、ジダイは勇者にしてはトウが立っている。


 で、面白く無そうな顔をしたネイロがジダイの横で不機嫌な空気を放っていた。


 眼前で水色の瞳を輝かせているメノウ。可愛い異性に話しかけられて満更でもないスバル。嫉妬で常と違い目元に険を含ませているネイロ。


 自分にも、あの青臭い時期があったとジダイは感慨深く思う。あの子たちのように、目まぐるしく感情を変化させ、絶えず心躍らせる時間が確かに自身にも存在したのだ。


 かつてジダイの隣にいた少女。いつも闊達な笑みでジダイを励まし、魔族を相手に敢然と立ち向かった少女。猛々しさと優しさを併せ持った少女。


 彼女とともにいた頃の自分も、あのように溌剌とした表情をしていたのだろうか、とジダイは自分を鑑みていた。


「ねえ、ジダイさん」

「あ、ああ、なんかしたか?」


 ネイロに呼びかけられてジダイが見返すと、その先には不満げな少女の顔があった。


「何度も呼んだんですよ。それより、メノウちゃんのことどう思いますか?」

「え? いやー、スバルに引っ付きすぎだよな、あれは。もう少し節度を持ってだな……」

「そういうことじゃなくて。昨夜、メノウちゃんが話してくれたんですけど、苦労しているみたいなんです」

「聖女としてこの街を守る役目があるからな。あの若さで重荷を背負っているんだから、大したもんだ」

「うん。それに家族も亡くしているんだって」

「そう言えば、昨日から家族の姿が見えなかったな」


 頷いたネイロがメノウから聞いたという彼女の過去を語る。


 何でも、二十年前はクレナの盆地も魔族に脅かされる土地であったという。そこへ現れたのが二人の男女。後にメノウの両親となる存在だった。


 優れた霊力を有する二人はクレナの盆地一帯の魔族を掃討し、街の住人の歓迎を受けて定住した。それから街を守りつつ、二人は女の子を授かって幸せに暮らすことになる。


 その平穏が破られたのが五年前。強力な魔族が眷属を引き連れ、カクレアを急襲したときだった。メノウの両親も応戦したがあえなく敗死し、カクレアの住民は絶望の淵に立たされる。


 そのときカクレアを救ったのが、当時まだ八歳のメノウだった。


 両親の豊かな才能を一身に受け継いだメノウは、母親の有していた神族召喚の秘奥を発現して魔族を殲滅。その日から、カクレアを守護する聖女として崇められた。


 その令名は近隣にまで及び、名実ともに聖女となったメノウは崇拝と尊敬の対象となった。そのような存在では対等な友人などできるはずもない。


 よそ者のネイロは、メノウにとって気兼ねなく接することができる初めての友人だという。


「きっとスバル君も、メノウちゃんにとっては初めての友達なんです。だから仲良くしてほしいと思います。あまり、近寄られると困りますけど」


 自身の心情よりもメノウを気遣うネイロの言葉を聞き、ジダイはその横顔を窺う。


 ネイロのいたいけな誠意を目にして感服したジダイは、思わずその頭に手を置いて撫で回す。その力が強すぎて左右に首を揺らすネイロは、唇を尖らせてジダイを見やった。


「何ですか、これー」

「スバルがメノウに取られたら、俺が相手になってやるよ」

「それはお断りですからー」


 ジダイは堪え切れなかった笑声を喉から押し出した。

メノウがなぜ聖女と呼ばれるようになったかのお話です。

幼いときに両親を亡くし、能力が強すぎるために聖女として崇められるようになってしまった少女でした。

恵まれた暮らしをしていても不自由さを感じていそうです。


メノウがスバルを勇者だと勘違いしたままで、ネイロが少し嫉妬しているのが可愛いと思います。

ネイロからすればメノウの境遇も分かるので複雑でしょうね。

少し年長者として雰囲気を和らげるジダイの保護者っぽさも出してみました。

そう言えばジダイの過去も小出しになっています。何やら悲しい過去もちのジダイ。

このメンバーで襲い来る魔族に勝てるのでしょうか。

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