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聖騎士ユリ②

 「みんな、訓練中にすまない。団長からの通達だ。次の討伐地が北部の山岳部から東部の聖魔の森に変更になった。出発も少し早まって1週間後だ、早めに準備をしてくれると助かる。あと団長と副団長も同行することになったから呉々(くれぐれ)も粗相の無い様にしてくれ。ユリも例外では無いぞ。いつもいつもため口で...無礼にも程がある!それに、戦地の兵士にも示しがつかん。言動くらい直してくれ。」

訓練場がざわざわと騒がしくなる。行く場所が変わったってだけで何でこんなにも騒ぐんだろう...

「隊長、私...帰っていい?」みんなが五月蠅うるさくて気分が悪い。こんな事、久しぶりだなぁ。

「え、あ...まぁいいが...1人で帰れるか?顔色、凄く悪いぞ?」確かに、昼頃よりもだるいしなんか眩暈めまいするし...あれ、私変な物食べたっけ...?

「食べた物...食べた物...何食べたっけ?」なんか...隊長の顔がどんどん朧気おぼろげになっていく...

「おいユリ、どうした!大丈夫か!?おい!しっかりしろ!!ユr..!!y...!」

あ、れ?たいちょ、声、聞こえな...


______数日後______


 「あれ、隊長何してんの?てか何で上官勢揃いなの?ww」私が目を覚ましたのは、あれから実に5日後のことだった。団長曰く、私の昼食に誰かが毒を盛ったとのことだが、それくらい私だって分かっていた。ただ、少し引っかかる事があるとすれば、団長に「毒が云々、注意が足りない云々」と言われていたあの時、後ろで隊長が終始「まだ寝ていなくていいのか。何で喋れるのか、抑々歩けるのか。」等という幽霊ゆうれいでも見たような目で私を見ていた事だ。

「ねぇ、隊長。一体、何をそんなにおびえているんですか?別に私は幽霊でも、たましいでも、生けるしかばねでもないんですよ?確かに私は病人で、殺されかけたけど、其れが何か...?今私は生きている。歩けるし喋れる。剣も振れるし走れるし、馬にだって乗れる。数日前と何1つ変わらないこの状況をむしろ喜んで欲しいくらいだ。何がそんなに心配なんですか。確かに団長に聞いた毒は人を容易たやすく殺せるほどの威力があるものだった。それでも、私はその毒に負けなかった。其れでいいじゃないですか。何が、何処が、貴方たちを其れ程迄に苦しめているんですか?私には分からない...騎士なんて、命が幾つあっても足りない、そんな職業じゃ無いですか。貴重な戦力が減らずに済んだ、いい事でしょう?ねぇ、隊長...ねぇってばぁ!!」

少し吃驚して何か言いたげだったが、そんなの気にも留めずに続ける。

「貴方は、確実に死んだであろう毒から生き返った今の私に怯えていますか?それとも...貴方の部下が殺されかけたという事実に怯えていますか?次は自分だと、自分は間違いなく殺されてしまうと、そう御思いですか?そうでしょうね、貴方だもの、国民にしたわれ、沢山の優しい部下に恵まれたんだ。其れをねた莫迦バカな貴族なんてごまんといる。でもそれは、私が騎士団に入る前から貴方にずっと言ってきたことだ!!貴方は誰にでも優しいからきっと、好意も敵意も同じだけ向けられることになると!其れは時に、自分や自分の周りの命もおびやかすことになると言ったでしょう?この4年間でもう忘れてしまいましたか?私の師匠だって同じこと言ったはずだ。でも...それでも貴方は騎士団に入った。それは!!それ相応の覚悟かくごがあってこそのものではなかったのですか...!?」

言いたいことは全部感情に乗せて吐き出した。もう後は団長たちからの処罰や叱責しっせきが待っていることだろう。

・・・しばらく沈黙が広がっていた中、おもむろに隊長が口を開いた。

「えっと、ユリ。何て言えばいいのか分からないんだが、君にそんな重い想いを何年も背負わせ続けてしまったこと、大変申し訳ない事をした。こんな1度の謝罪で受け入れられるような事では無いのは勿論理解している。だが、君に今騎士団を離れられるのは正直言って大問題だ。聖魔の森での騎士、兵士の統制力が落ちてしまう。今の君の心情を理解していない訳では無いのだが、何というか...今度の戦いから帰って来てからもう一度、君の意見を聞かせてもらえないだろうか。」

何の話をするのかと思えば討伐の話、騎士団の話、ちょっと期待した私が悪いのかな。どうなんだろう。今迄抑え込んでいた感情を一気に爆発させたせいか疲れた。正直また深く眠りに就きたいくらいだ。

「あのさ、隊長。私はね、先刻さっき貴方が私に向けていた目が、とても人間に、仲間に向ける目とは思えなかった。其れだけ、其れだけだったんだよ。だからさ、そんなに落ち込まれると私の方が困るんだけど。」

「じ、じゃあ...騎士団を...」

「うん、別に離れようとは思わないよ。でもさ、1つだけ。貴方は、己以外を人間として認識してる?してないでしょうね。自分では人間だと思っていても根本的なところでは違うものとして認識してるでしょう。」

「別にそんなことは...」

「だったらさ、何で貴方は瀕死だった仲間に安堵あんどの言葉や目よりも恐怖の目を向けるの?そんなの、毒殺されそうになった私は貴方の理論上死んでいるから人間じゃないとでも?いいえ、私は人間です。腕を切れば真っ赤な血が流れてきて、心臓やみぞおちを刺せば死んでしまう、普通の人間です。偶々、偶然、私が毒に慣れていたっていう、ただそれだけです。いいですか?私も、騎士団のみんなも、全世界、基本的に人間です。魔族だってもとはと言えば人間なんですから。」

「え、そうなのか...?」横から団長が割り込んできた。先刻迄私と隊長のやり取りを静かに見てると思ったら...

「えぇ、そうですよ。魔力を大量に持っていた人間が、様々な種族と種族交換しようとして失敗した結果、角だけ得たそうです。其れを気味悪がって差別したのが始まりですよ。先祖はみんな優秀な魔法使い...何なら大魔法師もいるかもしれない。だから魔族はあんなに魔法に秀でた種族なんです。」静かに驚いている、当たり前か。今迄同族であって同族でない者どもを容赦なく切ってきたんだから、ショックくらい受けるだろうな。

「あの、すみません団長、私...吐血しましたか?何か腹部がとんでもなく痛いんですけど。」

「ああ、吐血してたぞ。お前の所の隊長が一番恐れているのはもしかしたら、またお前が血を吐いて倒れる可能性が高い事だろうな。」

「っそれは...あるかもしれないですね。…って私隊長の服に血付けちゃったりしてませんか?」

「確かに付いたがお前が刺された時よりはマシだったぞ?」刺された時よりマシ...でも結構な量の血を吐いたと思われる...最っ悪だぁ。

「まあ、毒を盛られたんだし吐血しない方がおかしいだろ。それに、あの場でお前が刺されて死体を運ぶことになった時の方が面倒だしな。脱力してると重くてしょうがない。」

「...団長たちって私の首を切る為にいる感じ?」

「は?いやいや何でそうなる。飛躍ひやくし過ぎだ、単純にお前が心配だからだよ。」

「え、あ、そうなの...そうなんだ...よかった。首とからだがおさらばしなくて済む...」安堵していると横から副団長が、

「でも一応新しい隊長の隊服はユリが金払ってよ。」綺麗な顔して毎回話に、特に感動してたり安堵してるときに限って水を差してくる。これが意図的なのか無意識なのか...

「そーいえば隊長の制服って幾らだっけ。」

「250ゴールド」※1ゴールド=1000シルバー/400シルバーが騎士団員の基本月収。役職、功績により増減する。

「250ゴールド!?そんなサラっといわないでよ!!私の月収と同じ位じゃん!」※ユリの月収は300ゴールドです。結構稼いでます。

「当たり前だろう。其れに、お前の隊服だって十分高価な物なんだぞ?」

「そんなの知ってるよ、隊長。入団した時制服の値段給料より高くてビビったもん。」

「そう...でもお金は払ってね。」

「...いつまでに?」

「制服自体はもう注文してあるし、多分明日にでもお店の方が来るでしょうし、その時にでも支払ってくれると無駄な書類が届かなくて助かるわ。」

「はーい...私の懐が寒くなっちゃうなぁ...しくしく」

「なるわけないでしょう。個人で広い敷地にお屋敷を持ってる貴族令嬢なんて大陸中探しても片手で数えられるくらいしか見つからないと思うけど?其れに使用人も普通にいるし。いくら聖騎士パラディンだとしても一介の副隊長にしては稼いでると思うわよ。」

「同じ女性のあなたに言われても嬉しくないんですけど?副団長。」

「あら、でも私は個人であんな広いお屋敷は持ってないわよ?しかも、あれ旧式の建物でしょう?職人が少なくなってとても高価な家になったって聞いてたけど...違ったのかしら。」

「いえいえ、ちゃんと屋敷にしては高いですよ。ウィンデル公爵家と同じか少し安いくらいではないですか?」※ウィンデル公爵家の屋敷は王城の三分の一くらいの値段で、およそ5万ゴールド。

「しっかり高いじゃないか!」

「隊長五月蠅い。私の家なんだから私が幾ら出そうがどうでもいいでしょ?」

文章が読みにくかったらすみません。お知らせ頂けると大変助かります。

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