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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
四章 行動する愚者は、操られていることすらわからないままにある
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第93話 新天地と行く先

 実際に龍車から降りて歩いてみると、その目新しさも薄れていくーーなんてことはなかった。

 やはり帝国は何処に目をやっても真新しさしかなく、常に驚きを与えてくる。

 

 龍車を降りてまず最初に向かったホテルですら、驚きの満載だった。

 まず、この辺の建物の中で一番高いものがそれだったのだ。

 何も知らない俺からしてみれば、到着して早々に街のシンボルのようなところに入っていくのは普通に怖かった。


 だが、真に驚いたところはそこではない。

 ホテル自体は7階建てだったのだが、5階と6階の間が謎に1階分空いていた。

 しかも、四隅にある折れそうなほど細い柱だけで。

 ほとんど中に浮いているような状態だった。


 そんな一目見ただけでも忘れられないほど印象的な建物の数々に、少し不安を感じる。

 この国の建築基準法が気になるところだ。

 というか、そんな法が実際にあるのかも怪しい。

 

 そのうえ、そのホテルは3階までの全ての階に出入口が付いておりーーホテルを経由することによって街全体の様々なところへアクセスできるようになっていた。

 まさに、観光都市のホテルという感じだ。

 

 そもそも、この町自体もかなり複雑な構造をしていのだ。


 大きく分けると3階建てなのだが、所々にある浮島をつなげている橋があったり、微妙な傾斜により2階と3階が繋がったりと正確に階数を表現することはできない。

 そんな入り組んだ都市は、歩いているだけでも楽しめる。


 ただ単に上に高いだけかと思えば、地下にもお店や通路があるのだ。

 それに、この高低差を活かした絶景だってある。

 上の階から目に入るのは絶景だ。

 しかも、地上にまっすぐ綺麗に続いてる大通りは、この入り組んだ街の中である種のアクセントを生んでいる。


 本当に、歩いていて飽きない。


 さらに加えて、この町にある店の1つ1つもかなり個性的なのだ。


 売っているものも見たことのない魔道具や宝石の数々。

 俺のような観光局は絶好の鴨になってしまうだろう。


 加えてそれだけには留まらず、ご飯もうまいときた。

 

 さっき食べたご飯も、ハンバーグみたいなものにパンが付いてきた。

 デザートはパフェのようなものだった。


 地球でもメジャーな料理と、異世界ならではの食材をいいとこ取りしたような感じだ。


 ……やばい。めっちゃ楽しい。

 思わず、ずっとここにいたいと思ってしまいそうだ。

 それほどに、この場所は理想的だった。


「そういえば、帝国にも騎士団とか冒険者とかってあるんですか?」

「冒険者はあるね。でも騎士団はないかなー、その代わりに皇帝の下に将軍っていう役職とかがあるよ」

「将軍があるってことは、大老とか老中とかもあるんですか?」

「おー、ミカワくん結構詳しいね。もしかして君、実は帝国に来たことがあるとか?」

「いや、俺がいた国にも昔そんな役職があったんですよ」


 将軍という懐かしい言葉を耳にしてもしやと思ってしまったが、流石にそんなわけない。

 周りの人たちも和服や着物を着ているわけでもないし、何なら和風要素がカケラもない。

 偶然、同じ役職が生まれてしまっただけなのだろう。


「そうだったんだ。ただ、ここ周辺はかなり発展してるから、冒険者が主に活動してるのは東部かな。まー、私も詳しいことはわからないんだけど」

「いや、十分詳しいと思うんですが」

「そう言ってもらえると嬉しいなー。……もし、君が行くところが無くなってしまったら、帝国で冒険者をやるのもいいんじゃないかな」

「……それは?」

「もしもの話。……帝国には騎士団みたいな大規模の兵隊がいないから、国から直接依頼が出ることも多いの。だからこの国の冒険者は他国と比べても収入が安定してるんだ」

「そんな王国のネガキャンみたいな……。とりあえず、それなら頭に入れておきます。でも、やっぱ帝国よりも王国の雰囲気の方が落ち着きます」

「そっかー、それなら良かった! ごめんね? 変なこと言っちゃって」


 隣にある浮島へと架かっている橋を渡りながら、何気ない会話をする。

 こうやって気楽に誰かと話すのも、久しぶりだ。

 

 こうやって友達と話すだけの何気ない日々が、どれだけ大切なものだったのか。


「ねー、見て見て! あそこ! すごいおっきい噴水がある」

「おー、すごっ! でか! ここからだとかなり遠くまで見渡せていいですね」

「そーそー、だから、帝国に旅行に来たときはできるだけ高いところを通った方が面白いんだよ」


 この町のあらゆるところにかかっている橋は、どれも違う形をしている。

 一般的なまっすぐな橋や、眼鏡橋のようなアーチ状の橋、さらには俺たちが今わたっている吊り橋まで。


 高いところは苦手な俺だが、こうも見える景色が独特で綺麗ならばその恐怖心すらも忘れてしまう。

 体重を掛けるたびに少し揺れる吊り橋も、今の俺にはちょうどいいスリルにしかならない。

 そんなこと些細なことを気にするよりも、ここから見える景色を1秒でも長く目に焼き付けておきたかった。


 下に見える噴水。

 その周りは、公園だろうか?

 そこには何かの魔法を披露している人がいて、その人の周りに人が集まっている。

 大道芸だろうか?


 あ、口から火を噴いてる。

 すげぇ!


「あ、そうだ! 忘れてた」


 長い吊り橋をちょうど渡りきったところで、ミルナさんが掌に拳を打ち付ける。

 

「どうしたんですか?」

「君に渡して置かないと行けないものがあるんだった」


 そう言いながら、彼女は自身のカバンを漁る。

 そしてすぐに手のひらに何かを収め、何かを取り出した。


「はい、これ」

「手鏡? ……あ、通話鏡ですか」

「そそ、ここでお互い離れ離れになっちゃったら、合流できるかわからないからね」


 それは、城で俺が貸してもらってる部屋にも置いてあった通話鏡だ。

 手鏡のような見た目で、片方を持つ相手と画面越しに話し合うことができる魔道具。

 この世界の携帯電話のようなものだ。


 普段から携帯を持っている生活に慣れきってしまい忘れていたが、確かに彼女の言うとおりだ。

 今だって、大人から携帯がなかった頃の話を聞いて軽くぞっとする。

 その場所が異世界であれば、尚更やばい。


「ちなみに、これっていくらぐらいするんですか?」

「壊さないでね」

「は、はい」


 彼女の反応を見て確信した。

 これ、高いやつだ。


 そもそも、もしこの通話鏡が普及していれば、もっと街などで見かけるはずだ。

 なら、やはりそういうことなのだろう。

 絶対に落としたりしないようにしなければ。


「ヘイ! 嬢ちゃんたち! ちょっくらおみくじ、引いて行かないかい?」


 そんなやり取りをしていたからだろうか。

 橋を渡って一番手前にある店の店主に話しかけられた。

 

「いいねー、せっかくだし引いてかない?」


 ミルナさんは完全に乗り気だった。

 あとは、俺の賛同を待っているだけか。

 

「最近不幸続きなので、この辺で良いのを引いて安心したいですね」

「よし、じゃー決まり! おじさん、2人分お願い!」

「あいよ!」


 そう言って渡されたのは、六角柱の箱だった。

 振ってみると、中には細長いものがたくさん入っているようだ。

 そして、六角形の面の端には小さい穴がある。


 ……これ、日本で引くおみくじのシステムと完全に同じじゃないか。

 でも、わかりやすいに越したことはない。

 このまま、俺のこれからのいい運勢を掴み取ってやる!


 その勢いのまま渡された六角柱を振り、穴から1ッ本の棒が出た。

 その番号はーー2番。

 

 俺はすぐさま店主にその番号を見せつけ、箱をミルナさんへと渡す。


「兄ちゃんは2番でーー嬢ちゃんは44番だな。ちょっと待ってな」


 そう言って、カウンターの後ろにある小さい引き出しから小さい髪を取り出した。

 完全におみくじだ。


「ほいよ、これがお二人の運勢だ」


 折りたたまれたその紙が渡された瞬間に広げる。

 最近は悪い事しか起きてなかったから、そろそろ幸運なことが起こってもいいはずだ。


 そうして面は言ってきた文字はーー


 『魔』


 ーー?

 何だこれ。

 これが、運勢?


 見慣れた日本のおみくじと似ていたこともあり、てっきり書かれている文字も中吉とかだと思っていた。

 だが、何だこれは。

 

 しかも、飛び切り悪そうな字だ。


「ありゃー、魔を引いちゃったかー。どんまい!」

「これってやっぱ悪いんですかね」

「うん。大魔の次に悪い」


 あ、やっぱりそうなのか。

 ま、まぁ、こんな紙切れ1枚に俺の運勢を決められてたまるかってんだ。


「そんなミルナさんはどうだったんですか?」

「ちょっと待って」


 運勢を表す文字の下書いてある文章を全て読む気力が起こらず、代わりに彼女のおみくじに目をやる。

 だが、以外にも不器用なのかまだ紙を広げられていなかった。

 

 そして、ようやく開いたかと思えば、見えた字は俺と同じ『魔』だ。


「わははは、2人とも残念だったな。でも、ここは帝国だ。きっといいこともたくさんあるさ」


 店主が必死に慰めてくれる中、俺はというと突如浮かんだ疑問をずっと考えていた。

 もしこれで俺が良い運勢を引けていたならこんな疑問を持つことも無かったのだろう。

 だが、悪い運勢だったのだからしょうがない。


 ーーこれ、信憑性とかあるのか?


 その疑問を抱いてしまえば、おみくじという存在自体があやふやになってしまう。

 だが、少なくとも日本で引けたおみくじは神社で引けることが多く、確かに縁起や信憑性があった。

 対して、ここで引いたおみくじはどうだろうか?


 伝統性のかけらも無さそうな、ただのお土産やだ。


 そして、このようなお店は日本でも見たことがある。

 そのやり方は、まるで観光名所に構える何でも屋みたいな感じだ。

 土地も名所も関係ないただ流行りのグッズを置くだけのお土産屋。

 この店からも、そんな雰囲気を感じる。


「さて、ここだけの話なんだが、今ならおみくじを引いてくれた人だけに割引をしてるんだ。良かったら帝国に来たお土産に、いっちょどうだい?」


 ほら来た。


 そこでようやくミルナさんも気づいたのか、お互いに目を合わせ、頷き合う。


 そして、おみくじだけを手で握り、素早く店から離れた。


 後ろから店主の必死な呼び止めが聞こえたが、俺たちは笑いながら逃げる。

 お互い一緒のことを考えていたと思うと、何故だか楽しかった。

 こんなに今が楽しいのに、俺の運勢が悪いわけない。

 きっと、これからも良いことがある。


 ミルナさんと笑いながら走っていて、少しだけ、この世界に来て良かったと思うことができた気がした。

 



「さ、これで君と逸れても大丈夫だし、そろそろ人の多いとこに行こっか」

「この辺も十分人が多いと思うんですけど」

「いやいや。ここよりももっと人が多い、帝国の一番の観光名所だよ」

「それってーー」

「お金はある? 準備はいい?」


 彼女が聞いてくる。 

 お金が掛かり、帝国一の観光名所。


 思い浮かぶ場所は、1つしかない。


 何より、振り向いて笑いかけてくる彼女の背後に聳え立っている巨大な建造物こそが、その予想を確実なものにしていた。


「ちょっと私と賭けをしない?」

 

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