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誰もが憧れるこの異世界で、無力な俺は主人公になれない  作者: 赤め卵
三章 一度目を離すだけで、知っている景色は知らないものと化す
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第78話 再会と変化

どうにか大学に滑り込むことができたので、今日から再開していきます。


 まず動いたのは、ユカだった。

 彼女は龍車の扉を勢いよく開け、外へと飛び出す。


 次に、それを見ていたゲイルが口を開く。


「運転手、代金はここに置いとく。こんだけありゃ足りるだろ」

「了解しました。……行くのですね? どうかご武運を」


 その言葉を聞くや否や、ゲイルもユカを追って外へ出てしまった。

 残されたのは、俺とレイナだ。


「……はぁ、これは行かざるを得ないか」

「レイナ……起きてたのか!?」

「あんな音がすればあれば誰だって起きる。それより、あの規模の爆発はまずそうだ」

「何が起きてるんだ……」

「わからない以上、私は行く。そっちはどうする?」

「どうするって……」

「来るのか、待つのか。ま、そっちの場合待ってるのが安全策だろうな」


 そう言い残し、ユカ達とは反対側のドアを開けて龍車から飛び降りてしまった。

 相変わらず、俺のことは待ってくれないようだ。


 きっと、俺がすぐに決断できないとわかっているのだろう。

 

 小さい窓から、爆発の元へと向かっていく彼女達の姿が見える。

 辺りからは、龍車の中からでもわかるほど人々の叫び声が響いている。


 ……俺は、どうするべきだろうか。


 向かったところで、また足手纏いになってしまうのではないか?


 

 この都市、レセンブルグは王国のの中心都市であり王都でもある。

 ちなみに、国の名前もレセンブルグで被っているのだが、それは福岡県の県庁所在地が福岡市であるのと同じようなことだろう。


 そしてその西側ーーエトレイク大森林がある方面には高さ10メートルほどの壁が続いている。

 例えるなら、万里の長城のような感じだ。


 もちろん、俺たちがいるのはその西側だ。

 つまり、都市内部とは壁で隔たれている。

 そのせいで、ここからじゃ中の様子がわからない。


 聞こえてくる悲鳴が、自然と焦りを生み出してくる。

 彼女達の後を追いたいのに、その決断ができない。


 死にかけたからだろうか?

 弱いからだろうか?


 あの過酷な経験は、俺から勇気というものをゴッソリ奪ってしまったらしい。


 疲労もしているし、傷も完全に治ったわけじゃない。

 ……そうやって、行かなくていい理由を探す。

 そうでないと、この状況に耐えられなかった。

 

「お客様さん。そろそろ降りてもらえませんか?」

「え……?」


 そうして悩んでいると、予想外のところから声がかけられた。

 この龍車の運転手だ。


 その運転手とのつながりは、前方の小さい小窓だけ。

 彼はそこから俺の方を振り向くことなくその言葉を言い放った。


「僕はもう料金は貰いました。つまりあなたはもう僕の客じゃなくなったんですよ」

「いや、でも……」

「まだわからないんですか? 僕は早くこんなところから離れたいんですよ。だから、あなたは邪魔なんです。早く降りてあそこへ向かってくださいよ。冒険者なんでしょ?」

「…………」

「はあ。あの場所の近くに、僕の知り合いが住んでるんですよ。あーあ、もう会えなくなっちゃうのかな。すぐに動けば助かるかもしれないのにな」

「ーーっ!」


 俺は、その言葉に噛みつきそうになった。

 他人に、自分の願いを他人事のように押し付けるその態度に。


 ーーなら、お前が行けよ!


 そう、強く思った。


 だが、言わなかった。

 言えなかった。


 ……俺も、そうだからだ。

 言い訳を重ね、他人に任せている。


 力がないことは、助けに行かない理由にはならない。

 俺は、結局行かねばならないのだ。

 数日だけでもお世話になった人たちのために。


 ようやく、決心ができた。

 

 そして、レイナが出て行った扉に手をかけーー


「運んでくれて、ありがとうございました」


 とだけ言い残し、地面に飛び降りた。


 ーー地面に着地すると、あの龍車はすぐに言ってしまった。

 城とは逆方向に。


 ……まぁ、そういう人もいるよな。

 なら、せめて俺はあんな人のようにならないようにしよう。

 

 そう小さく決意し、彼女たちが向かった方面を向く。

 そして、走り出す。


 もう、みんなは中に入ったのだろうか?

 すでに後ろ姿は見えなくなっていた。


 また、うじうじと考えすぎた。

 俺も急がないと。


 降りた場所は、王都の目の前だ。

 少し進めば、すぐに中に入ることができる。


 だから、もう少し爆発が遅かったとしたらーー


 考えたくもない。

 運がいいのか、悪いのか。

 

 いや、絶対悪いな。

 またこんなことに巻き込まれて。


 壁の入り口まで近づいた時、そこから出てくる人が見えた。

 それも、数人ではなく、かなり大勢いる。

 その人たちの顔は、とにかく必死で、恐怖に包まれていた。


 そんな人たちとすれ違い、ようやく都市の中に入る。

 

 ーーあの人たち、まるで何かから逃げているようだった。

 ここで、いったい何が起こってるんだ。


 店の制服を着たままの人、

 赤ん坊を抱いた主婦、

 杖を突いたおばあさん、


 様々な人とすれ違う。

 そんな中、俺だけが逆方向に進んでいきーー


 長くない通路を抜け、ようやく都市に入ることができた。

 だが、まだ様子はわからない。


 たくさんの人が逃げているーーということは、火事か何かだろうか?

 よく見ると、少し先から灰色の煙が上がっている。

 爆発したところは、多分あそこだろう。


 ……足手まといになりそうなら、わかった後に逃げればいい。


 そう思いながらも、内心は恐る恐る、それでも走って向かう。

 とりあえず、レイナたちと合流したい。

 きっと、あの煙の元へ行けば会えるはずだ。


 それにしても、進めば進むほど人が多くなっている。

 大通りだからか、路地から、店から人々が次から次に出てくる。

 そのことが、かえって不安を煽ってきた。

 

 騎士団やほかの冒険者はまだ来てないのか?

 

 辺りからは、意識しなくても悲鳴や鳴き声が聞こえてくる。

 その声をできるだけ耳に入れないようにするため、全速力で走った。


 ……やっと近くなってきた!


 あとは、ここを曲がればーー



 何かに縋る思いで、脇道へと方向転換する。


 ーードン!


「痛……、すいませーー」

「お、お前! 冒険者なんだろ? 助けてくれ!! あいつらを殺してくれ! 死にたくないんだ!!」


 俺とぶつかり、直後狂える声でそう告げた男は、よろけながらも一目散に逃げていった。


 何が起きてるんだ?


 様々な可能性が、頭を過る。

 だが、そのどの可能性にも当てはまっていなかった。


 目を開けて見えた光景は、まさしく地獄絵図だった。


 

 道の端では、誰かが倒れている。

 その体に、首から上は存在しない。


 また、反対側の端には、異臭を放つ死体……とも呼べないほどの肉塊が転がっていた。 

 様々な部分の肉が零れ落ち、両腕が無い死体。


 まるで、例えるとしたらーー


「ゾンビ……」


 これが、さっきまで動いていたのか?

 

 ばらばらにされた部位、何よりその綺麗すぎる切られ方から、誰かの手によって殺されたというのは想像にたやすい。

 だが、逆に言えば、先程誰かに仕留められるまでは動いていたことになる。


 異世界ならではの敵、アンデッド。

 それが、この街中に解き放たれたっていうのか……?


 何かの間違えだと信じたかった。

 だが、肯定するしかない証拠がすでにそろっていた。


 ユカ、ゲイル、そしてレイナ。


 みんな、戦っているのか?


 …………。


 もう、黙ってみているわけにはいかない。

 俺自身の無力感よりも、助けを求めている人たちを無視できなかった。


 だから、黒煙と炎を放つその建物まで、全速力で走る。


 このあたりには、動いているゾンビはもういない。

 きっと、レイナたちがすでに……


 そう思ったところで、ようやく彼女の姿が見えた。

 ちょうど、向かってきたゾンビを真っ二つに切っていた。


「レイナ!」

「来たのか。龍車に隠れてればいいものを」

「何が起こってるんだ?」

「……わからない。ただ、そこら中にゾンビが湧いてきてる」

「じゃあ、この爆発は?」

「ゾンビとの関係が見えないが……何か組織的な計画の一部かもしれない。気をつけろ」

「ユカとゲイルは?」

「女の方は奥でさらにゾンビを切ってる。男の方は、そこだ」


 そして、レイナが指した方向を見ると、ゲイルの周りには3つの魔方陣が展開されていた。

 その魔法陣からは、どれも大量の水が出ている。


 火事の消火だ。


「にしても、ゾンビが来る方向……嫌な予感がするな」

「この先って、何があるんだ?」

「……墓地だ」

「まさか、そこから……」

「お前、武器は持ってるか?」

「いや、洞窟で……落とした」

「ならなんで来た?」

「それは……」

「まぁいい。通ってきた大通りをさらに進むと、前に行った武器屋がある。わかるな?」

「多分」

「これは、悠長に騎士団なんて待ってると手遅れになる。このゾンビ自体は別に強くない。お前でも切れるはずだ」

「けど、元は人ーー」

「こいつらは所詮死体でしかない。楽にしてやれ」

「……わかった」

「この建物の消火はやつに任せていいだろ。こっちはひとまず墓地まで進む」

「わかった。じゃあ、また後で」


 その俺の言葉に答えることなく、彼女は行ってしまった。

 武器屋は、それとは違う方向にある。

 とりあえず武器が手に入るまで、別行動だ。


 ただ、意外だ。

 彼女は、他人のこと放っておくと思っていた。

 例え命の危機に瀕していようと。


 ……いつも、何故か俺を遠ざけようとしてくる彼女が、珍しく協力仰いできた。

 それほどまでに現状はやばいのか?


 何しろ、未だ悲鳴も泣き声も逃げる足音も止んでいない。


 ーー俺だって、やってやる。


 そして、走り去る彼女の背中から視線を外し、俺も足を動かした。


 助けを求めているであろう、誰かのために。


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